新4K8K衛星放送がスタートして半年が経過した。このうち特に4K放送については、チューナー内蔵テレビの数が増え、オーディオビジュアルファンでなくても身近な存在になっている。そこで今回は、4K対応プロジェクターJVC「DLA-X9R」を導入した山本浩司さんのホームシアターに、こちらも4Kに興味津々という久保田明さんと一緒にお邪魔して、お薦め4Kコンテンツを体験させてもらった。
——昨年の12月1日に新4K8K衛星放送がスタートして半年が過ぎました。この他にもストリーミングサービスやパッケージの普及も進み、4Kという映像コンテンツは、われわれの生活の中でもかなり身近な存在になってきているのではないでしょうか。
そこで今日は、様々な4Kコンテンツを楽しんでいる山本浩司さんのシアタールームで、最近のお薦め4Kコンテンツを見せていただきたいと思います。
久保田 ぼくも最近4K映像に触れる機会が増えてきて、気になっています。そろそろ自宅に4Kチューナーを導入したいと思っているので、まずは4K放送の最新事情について教えてください。
山本 4K放送は見るべきものが多数ありますから楽しんでいって下さい。まず放送に関して言うと、画質・内容ともに興味深い番組が多いのはNHK BS4Kですね。民放系はアップコンが中心で、ニュース番組等は4K収録が多いですが、スタジオ内の様子を4Kで観てもあまり有り難みはないです。
久保田 美しい女性キャスターなら嬉しいですけどね(笑)。
山本 我々のようなオーディオビジュアルファンとしては、せっかく4Kなら綺麗な被写体を見たいですからね。
久保田 NHK BS4Kの映画は画質がいいという噂は聞いていますが、どうなんでしょう?
山本 おっしゃる通り、高品質な作品が多いですね。技術的なことになりますが、NHK BS4Kの映画作品はSDR(スタンダード・ダイナミックレンジ)、色域はBT.709という規格でのオンエアがほとんどです。しかしSDR/BT.709であっても、広色域でハイコントラスト感が維持されたコンテンツが多いですね。
そしてそれ以上に魅力的なのが、音楽ライブや美術番組です。こちらはHDR/HLG(ハイ・ダイナミックレンジ/ハイブリッド・ログガンマ)とBT.2020色域での収録作品も多く、そのスペックを活かした番組もあります。
またぼくが注目しているのが「8Kベストウィンドー」という番組です。これは8Kカメラで収録してBS 8Kで放送したコンテンツを、4Kにダウンコンバートして放送しています。その画質が素晴らしいんです。
久保田 昨年、渋谷で開催された4K8K放送開始のイベントに参加して、8Kの映像を見てきましたが、確かにディテイルの凄さ、リアリティなど驚きました。4Kでもそのよさが残っているんですか?
山本 4Kにダウンコンバートしても、8Kならではの解像感が得られます。「8Kベストウィンドー」の『ルーブル 永遠の美』を録画してありますので、後ほどご覧いただきましょう。
久保田 そう聞くと、ますます自宅に4Kを導入しなくてはという気になります。
山本 NHK BS4Kは従来の右旋対応BSアンテナがあれば受信できますしね。8Kとなると左旋対応アンテナや対応コネクター、ブースター等が必要なので、ぼくのような集合住宅の住人には正直言って受信のハードルは高いんです。
今回も8Kまで導入するか否か悩んだのですが、まずはBS4Kから楽しもうと。というのも、8K液晶テレビは選択肢が少ないですし、お気に入りの4K有機ELテレビで見るBS4K画質に何の不満もないことに気づいたからです。8Kはテレビの選択肢が増えてからにしようと。
久保田 なるほど。確かにずっと8Kだけを見ているわけではありませんしね。
山本 ええ。それにしても放送品質に関していうと、日本は本当に素晴らしいですよね。8Kや4Kといったハイクォリティな放送が日常的に行なわれている国は他にはありませんから。ネット配信なら、Netflixなどが今後8K配信を手がける可能性はありますが、放送となるとし今後も難しいでしょう
――NHK BS4Kでは『アラビアのロレンス』『ジョーズ』などUHDブルーレイで発売されていない映画作品もオンエアされています。これは本当に凄いことだと思います。
山本 日本ならではのお宝ともいえますね。
久保田 ぼくとしては、こういう状況下で、山本さんは4K放送をどんな風に捉えて、かつどこを観ているのかを知りたいですね。
山本 繰り返しになりますが、4K放送については、品質・内容ともにひじょうに素晴らしいので、まずは体験してくださいと言いたいですね。一方で色々なメディアで高画質を楽しめるようになった現在にあって、機械の魅力が薄れているのが残念です。
もともとぼく自身はオーディオ&AVマニアで、重たくて、しっかりした造りのもの、デザインのいいものに惹かれます。でも、今の若い方たちはそういったハードウェアに対する関心が薄れているように感じています。
久保田 確かに、アップルTVは機能も素晴らしいし、画質もいいけれど、手に持った時に満足感があるかというと、そこまでではないですね。
山本 欲しかったモノを手に入れたときの満足感、高揚感みたいなものが通用しなくなることに一抹の寂しさを感じます。
久保田 ひとつには、若い人がいいオーディオや映像に触れる機会がないのも原因でしょうね。
山本 そうかもしれませんね。
さて、今日は昨年末にオーダーして3月末にやっと届いたJVCのプロジェクター「DLA-V9R」で4K放送のエアチェックを観ていただこうと思います。まだ30時間くらいしか使っていないのですが……。
久保田 HiVi4月号の特集「映画と配信」で使ったモデルですね。これを自宅にいれようと思ったポイントはどこだったんですか?
山本 以前は、ソニー「VPL-VW500ES」を使っていたんですが、HDR対応機ではなかったんです。次はHDR対応プロジェクターだなと思っていたんですが、価格やサイズの点でピンとくる製品が見つからなかった。
もちろんV9Rも税別定価200万円と高額な製品なのですが、弟機の「DLA-V7」「DLA-V5」と見比べたら、V9Rじゃなきゃと思わせる違いがあったんです。この3モデルは基本となる画質回路はほぼ共通ですが、それでも決定的に画質が違う。8K e-shiftと名づけられた画素ずらし手法による疑似8K化の効果もありますが、その一番の理由はレンズの差だと思います。
久保田 このクラスまでいくと、わずかな違いで出てくる絵も変わりそうですからね。山本さんなりにそこをジャッジしたわけだ。
山本 ええ、そういうことになります。UHDブルーレイの再生はパナソニック「DP-UB9000」とパイオニア「UDP-LX800」を使い分けています。4Kレコーダーはパナソニック「DMR-SUZ2060」。SUZ206は普段は有機ELテレビの東芝「65X910」につないでいますが、今日はV9Rにつなぎ替えました。
久保田 画面サイズは何インチですか?
山本 110インチのオーエス「ピュアマットⅢCinema」です。AVセンターはデノン「AVC-X8500H」で、フロントL/R信号をオーディオ用プリアンプのオクターブ「JUBILEE Pre」のプロセッサー入力につないでピュアオーディオ用システムとの共用を図っています。
サラウンド再生時はドルビーアトモス対応の6.1.6システム。センターチャンネル成分をL/R用スピーカーのJBL K2S9900に振り分けたファントム再生を実践しています。
往年の名優たちが、見事にスクリーンに蘇る
山本 ではそろそろ映画番組を観ていただきましょう。NHK BS4Kの映画はすべて録画していますが、その中で特に画質の印象がよかったのは『浮草』『アラビアのロレンス』『スパルタカス』あたりでしたね。
まずは『浮草』から。V9Rの映像モードは「シネマ」、カラープロファイルは「BT.2020」を選んでいます。
久保田 いや〜これは凄い。『浮草』ってこんなに色が綺麗でしたっけ?
山本 アグファカラーの発色のクセを勘案したていねいなレストアとマスタリングの賜物でしょうね。画面の安定感も素晴らしいです。昔の名画座ではこんなにビシッと安定した映像は観られませんでした。
久保田 若尾文子の着物の柄も、ここまでクリアーには出ていませんでしたね。
山本 ノイズが極小化された違和感がないわけではないですけれど。これだけ安定した映像だと、小津映画の秘密を解析しやすくなりますね。
久保田 以前HiViでコラムを書かれていた澤里昌吉さんが、ブルーレイの映像は綺麗になりすぎているから、昔観た映画館の印象に合わせて“絵を汚す”イコライジングをしたいと仰っていましたが、その気持ちがわかる気がします。
山本 そうですね。この画質を見たら澤里さん、なんておっしゃるだろう。若尾文子の肌も綺麗。無意識の色気が漂っている。
久保田 生々しいですね。こんなに綺麗な小津映画を見ると、自分の経験としてどこに納めたらいいのか、悩んでしまいます。
山本 自分の記憶が正しいのか、リマスターされた方が本物なのか、どう理解したらいいか、ですよね。でも画質がよくなったことによって、初めてわかる演出意図もあります。なるほど、監督はこんなことを考えていたのかと。
久保田 室内のシーンでも、階段の後ろの陰影とか、陰になった部分の黒の締りの表現がいいですね。4Kで見ると、照明を綿密に計算していることがよくわかります。この頃の日本映画は凄かったんだなあ。
山本 では続いて『スパルタカス』です。
久保田 確かに色が綺麗ですね。ここまでくるとバックのペインティングがわかってしまう(笑)。こういった作品をHDR化すると、どこが変わるんですか?
山本 理論的には、明るさのレンジが広くなって、階調再現が有利になります。8ビット(256階調)が10ビット(1024階調)になりますから、特に暗い部分の再現性が向上するはずです。
久保田 SDRとはいえ、60年前の作品がここまでクリアーになるとは、驚きです。この奥行感もいいですね。それが没入感につながるのでしょう。
山本 奥行表現は大事ですね。2次元のスクリーンであっても、3次元的な立体感を求めてしまうのがAVファンですからね。この奥行再現は、4K放送としての素材のよさもありますが、投写するプロジェクターのレンズの特性も重要です。
さて、次の『アラビアのロレンス』を見たら、久保田さんは絶対驚きますよ。
久保田 確かに、こんな『アラビアのロレンス』は見たことがない! 砂漠のシーンも本当に美しいし、撮影の素晴らしさが伝わってきます。でも、字幕がちょっと大きいかな?
山本 そうなんです。4Kは大画面で見ることが多いから、字幕はもっと小さくてもいいんだけどなぁ。
この放送もSDRですが、それでも充分に高品質です。そもそも映画館の明るさは50nit以下ですから、SDRの100nitで何の問題もないはずです。
久保田 無理に明るさを狙うのではなく、黒の再現性にも注力してくれるといいですね。それにしても、役者の存在感が素晴らしい。本作に出演している俳優たちはみんな亡くなっているんだけど、4Kで観ていると本当に生きているみたいで、不思議な気持ちになります。
山本 時空を越えて生き返ったような。
久保田 本当にいい映像じゃないとそんな風には感じないでしょうね。
山本 4Kらしい映画、色の再現範囲の広さを感じるという意味で特に印象的だったのは、この3作品でした。
SUZ2060は実売10万円前後ですが、そのレコーダーでわが家のように110インチスクリーンに拡大しても、これだけ楽しめるのは凄くありませんか? どうせNHKの受信料を払うんだったら、4Kを観ないと損ですよ。
久保田 初号試写を観ているようなものですから、それが自宅で手に入るなんて、幸せなことだと思います。
山本 本当にフレッシュで、ラッシュフィルムを観ているような画質ともいえます。
久保田 いきなりですが、こういう映像を観ると人生は100年でも短いと思うんです。どう考えても全部を観る時間がない。ぼくには残された時間が少ないから(笑)、最近はできるだけ新しい作品を選ぶようにしているんです。
山本 その気持ちもわかります。4Kエアチェックの怖さは、ある意味そこかもしれませんね。
先ほどお話しした通り、現状のNHK BS4Kで放送している映画コンテンツは、SDRが中心です。しかし実際にホームシアターで再生してみると、色数の多さや色の深みがとても魅力的に感じられます。
久保田 マーベルの最新作のようにHDR制作を前提にした作品なら、また印象も違うんでしょうね。
山本 残念ながらまだ4K放送では最近の作品はオンエアされていませんので、今後は新作の登場も期待したいですね。
<久保田明の4Kインプレッション>
『アラビアのロレンス』
1962年度のアカデミー撮影賞に輝き、今年の1月に発表された「アメリカ映画撮影者協会」選出の優秀撮影映画100本でも史上第1位に輝いた、名品中の名品。日米ともUHDブルーレイは未発売なので、映画ファン待望の4K放送になる。
広大なパースペクティヴだけでなく、室内シーンの採光や軍服のディティイル、そしてもちろんピーター・オトゥールのブロンドヘアーと青緑色の瞳など、これまで映画ファンが観たことのなかった『アラビアのロレンス』がここにある。オリジナルのネガそのものを観ているのではないかと思える超高画質。
考えてみると、オトゥールも、アレック・ギネスもオマー・シャリフも出演者はみなすでに天国に昇っているわけで、そんな彼らがこれまでで最高の存在感で目の前にいることに不思議な心持ちにもなる。
※後編に続く(6月4日公開予定)