‘94年の創業以来、熟成された代表モデルは真空管A級動作+半導体のハイブリッド構成。
色艶のあるオーケストラ描写と、生々しいヴォーカル表現を聴かせる
Integrated Amplifier
パトス
Twin Towers
980,000円(税抜)
●出力:35W+35W(8Ω)●入力端子:LINE4系統(XLRバランス×1、RCAアンバランス×3)●入力インピーダンス:100kΩ
●スピーカー出力端子:1系統
●使用真空管:12AX7LPS(SOVTEK)×2
●寸法/重量:W480×H300×D450mm/42kg
●問合せ先:(株)タイムロード TEL. 03(6435)5710
イタリアのパトス・アコースティックスは、ずいぶん前に日本上陸を果たしたことがある。新たに輸入開始される製品のなかでも、このツインタワーズ(TT)と呼ばれるインテグレーテッドアンプは同社の初作品であり、改良を重ねてきた現行製品だ。紹介するのはアニヴァーサリー(記念)モデルで、1dBステップの音量アッテネーターとバランス・ライン入力(XLR)を装備している。
パトスはINPOL(インポール)と呼ばれる国際特許の回路技術を有している。本機はそれを搭載する初機種だ。イタリア製らしくデザインが美しい本機は、初段回路の12AX7真空管とチムニー(煙突)タイプのヒートシンク、そして3つの角柱ケースで構成されている。深紅の電解コンデンサーが外観上のアクセントになっており、これらはイタリアのITELCOND製。
回路技術のINPOLは無帰還の電力増幅を意味しているようだ。詳細は不明だが、真空管によるクラスA動作の電圧増幅と電流増幅を行なうNPN型トランジスターの構成と思われる。出力は8Ω負荷で35W+35Wという。管球式アンプのように出力トランスフォーマーを必要としていないようなので、そうすると角柱ケースの内部は電源トランスフォーマーとチョークコイルなのだろうか?
パトスのツインタワーズは、本誌試聴室で聴いた。送り出しはUSB接続DACとしてアキュフェーズのDC950を使用。スピーカーシステムはB&W 800D3である。
最初に聴いた手嶌葵「月のぬくもり」は、スッキリと澄んだ声質と潤いを忍ばせたヴォーカルの生々しさが印象的だった。ピアノ筐体の低い響きはやや薄らぐようだが、帯域の広さに不満はなく、ハイブリッド機らしい屈託のないストレートさも感じられる。続いて聴いたスティーリー・ダン「モーフ・ザ・キャット」は、刻まれるリズムも深く沈んで、ダンピングファクターが低めのアンプかと思わせる、ゆったりとした演奏が心地よい。スピーカーを支配するのではなく、無理せず自然に鳴らしているという雰囲気の音だ。
音質的に優れているネルソンス指揮のショスタコーヴィチは、ここでは聴くことの多い交響曲の第5番ではなく、新しい録音の第11番「1905年」を聴いている。第4楽章の大音響では金管楽器の響きに管球式の回路が介在していることを示す色艶が感じられ、強弱のコントラストがしっかりした大編成らしい臨場感が得られた。クラスA動作ということでヒートシンクは熱くなっているが、放熱効果は高いようである。異才のヴァイオリン奏者ネマニャが弾くチャイコフスキーの協奏曲は弱音部分のデリケートな響きにも芯が感じられ、繊細さを際立たせた音色の細やかな変化を聴かせてくれる。
シングルエンド入力からバランス入力に換えても音質差は少なく、音の骨格を僅かにしっかりと感じさせる程度の違いだった。
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