アメコミのテイストをふんだんに採り入れた3Dアニメーションで、新たに生まれ変わったシリーズ最新作、『スパイダーマン:スパイダーバース』。アカデミー賞「長編アニメーション賞」、ゴールデン・グローブ賞「アニメーション作品賞」を受賞するなど、大きな話題となっている。国内でも、3月1日(金)~3日(日)にIMAX、およびドルビーシネマでの先行上映が行なわれ、3月8日(金)からいよいよ全国でロードショー公開となる。本作の日本語吹替版では、『ガルパン』で知られる岩浪美和さんが音響監督を務めていることも、大きな注目ポイントだ。そんな『スパイダーマン:スパイダーバース(日本語吹替版)』の試写会に参加することができたので、その模様をレポートしよう。

3Dアニメーション+ドルビーアトモスによるまったく新しい「スパイダーマン」

 『スパイダーマン:スパイダーバース』では、ピーター・パーカーだけでなく、彼の跡を継ぐマイルス・モラレスをはじめ、別の世界からやってきた何人ものスパイダーマンが集結する。どんなストーリーとなるのかは自分の目と耳で確かめてほしいが、大きく注目したいのは、3Dアニメーションで描かれた最先端の映像と、ドルビーアトモス制作の臨場感あふれる音だ。

 3Dアニメーションの映像は、一言で言ってしまえばアメコミ風。最近多い、実写に近い映像ではなく、階調を落としたセルアニメ的とも言える。しかし、日本のアニメ作品で多いセルアニメに寄せた描写ではなく、キャラクターの影をスクリーントーンのようなドットパターンで表現するなど、アメコミや日本のマンガで見られる表現を多用している。キャラクターのセリフがフキダシで表現されたり、擬音が文字で表れる、ときにはワク線で区切ったような演出も見られるなど、フルカラーのコミックを見ているような感覚になる。こうしたクールな映像を制作するため、3DCGで制作された映像のほとんどに、手描きアニメーションを重ね合わせているとか。

画像: 3Dアニメーション+ドルビーアトモスによるまったく新しい「スパイダーマン」

 そして、ドルビーアトモス制作による音響も圧巻だ。コミック的な表現ということもあって、さまざまな音が空間のさまざまな場所から飛び出し、びゅんびゅん移動していく。ハイスピードな映像とともに脳髄をぶるぶると震わせるような刺激的な音響となっている。スパイダーマンではおなじみのクモの糸で空中を飛び回るアクションは、3次元を超えた異次元的な空間感さえ味わわせてくれるのだ。さらに音楽は、エレクトロニック、ターンテーブル(DJ)、そしてオーケストラを融合した最先端のもの。音楽制作では、オーケストラを含めた音源を一度リミックスし、その後でターンテーブルを使ったDJプレイに近い方法で再リミックスするという、ユニークな手法を採り入れているそうだ。音楽というよりも、クラブでのプレイを聴いているような感覚も新鮮だ。

 3Dアニメーションということで、これまでの実写版シリーズとは別の外伝的な作品と思う人もいるかもしれないが、これはもちろん、正統派のシリーズ最新作だ。国内のロードショーでも、IMAXやドルビーシネマでの上映だけでなく、一般の映画館では2D版、3D版と字幕版と日本語吹替版の4通りの上映が行なわれる。試写会で見たのは、2D上映の日本語吹替版だが、3D版ではさらに立体感を増した映像で、縦横無尽なアクションが展開するとか。4通りの上映のすべてを見たくなってしまうこと間違いナシだ。

実力派の声優陣が結集した日本語吹替版

 日本語吹替版でも、実力派の声優たちが集結。主人公であるマイルス・モラレスには小野賢章、ピーター・パーカーは宮野真守、ヒロインのグウェン・ステイシーが悠木碧。さらには、大塚明夫、吉野裕行、高橋李依、玄田哲章など、実力派の面々が名を連ねており、彼ら、彼女らがキャラクターを生き生きと演じることで、これがオリジナル版だと思えるほどに、映像や音楽とマッチした声の演技を楽しむことができた。

 ちなみに、筆者の感想としては、映像がスピーディーで派手なエフェクトも多用されるし、音響もかなり攻めた演出があるので、字幕で台詞を追うのはちょっと大変そうだと感じた。少なくとも最初は吹替版で見た方がストーリーも理解しやすく、作品もより楽しめるのではないかと思う。

日本語吹替版を担当した岩浪美和音響監督にインタビュー

 試写会の後で、日本語吹替版の音響監督を担当した岩浪美和さんにお話を伺うことができたので、合わせてこちらも紹介しよう。

画像: 岩浪美和さん

岩浪美和さん

――今回、岩浪さんが音響監督を担当された経緯を教えてください。
岩浪 「今回はソニー・ピクチャーズさんからご指名を頂き参加しました。スパイダーマンのアニメ版ということで、スパイダーマンのファンだけでなく、アニメファンにもぜひ見てほしいということで、僕を選んでもらったようです。こうした日本語吹替版の演出は、以前だと『マトリックス』シリーズなども担当しました。最近はアニメの仕事が多いので劇場作品の吹替はひさしぶりですね」

――確かに、岩浪美和さんが音響監督をするとなると、たくさんのアニメファンが色めき立つのではないかと思います。では、日本語吹替版の音響監督として、実際にどんな作業をしたのでしょうか?
岩浪 「効果音や音楽といったものはすでに完成していますので、こちらで制作するのは、声の演技を収録したトラックです。つまりアフレコですね。収録した声のトラックを現地(ロサンゼルス)のスタジオに送り、最終的なミックスダウンは現地の音響スタッフが行ないます。台詞の音量や定位、残響の付加などはオリジナルの音声と同じ処理でミックスされます」

――アフレコ作業のほか、キャスティングも岩浪さんが行なったそうですね。
岩浪 「メインキャストはすべて自分がオーダーしました。作品を見て第一印象でキャラクターにふさわしい声優さんをイメージしたのですが、幸いなことに全員にOKしてもらいました。イメージ通りのキャスティングです」

――キャストについて一言お願いします。
岩浪 「マイルスの小野賢章さんは、ホントにファーストインプレッションですね。オリジナルの声を聞いて、これは小野さんだ! って。宮野真守さんには、今回はちょっとおじさんが入ったピーター・パーカーという、あまりカッコよくはないキャラを演じてもらいました。宮野さんは二枚目も三枚目もできますが、だめな人を演じると特に上手です。大塚明夫さんのスパイダー・ノワールはオリジナルではニコラス・ケイジが声を担当しているのですが、最初に素材を聞いた時はそれを知らなくて(笑)。でも、聞いたらすぐに“これは明夫さんでしょっ”てなりました。大塚明夫さんはこれまでも数多くニコラス・ケイジの声を担当していますけど、考えることはみんな一緒だな、と(笑)。悠木碧さんのグウェンはいつものアニメ作品とはひと味違う演技をしてくれて、かっこ可愛くて新鮮でした。高橋李依さんのペニー・パーカーはハマりすぎなぐらいカワイイんじゃないでしょうか。声優ファンの方々も楽しんでくれると思います」

――最後に、ハリウッド作品のドルビーアトモス音響はいかがでしたか?
岩浪 「海外では、大作映画はその多くがドルビーアトモス制作になっていますが、なかでも本作はゴールデンリール賞(音響編集部門に特化した映画賞。アメリカの音響編集・音楽編集のプロが所属している団体が受賞作を選出している)の、長編アニメーション部門を受賞しています。作り手としても凄く緻密な音響デザインだと感心させられました。実はボイス収録では5.1ch音声で聴いていて、ドルビーアトモス音声を聴いたのはこの試写会が初めてなのですが、5.1chとはまるで違いますね。音のきめ細やかさ、自由自在な定位のピンポイントさなど、実に精密に3次元空間をフルに使って立体的に設計されていると改めてわかりました。この違いは予想以上のもので、自分自身も勉強になりました。個人的にはドルビーアトモス作品で「ゼロ・グラビティ」以来の衝撃を受けました。今回ソニー・ピクチャーズさんにお願いして、当初上映予定のなかったアトモス版を配給して頂いたのですが、聞いていただければわかります! ぜひともドルビーアトモスで見てください。」

――本作は音響的にもかなり攻めていて、音の移動などもかなり積極的です。映像の演出と合わせて、実にドルビーアトモス映えする作品に仕上がっていると感じます。
岩浪 「基本的にアクション映画なので、バイオレンスなシーンも多いのですが、迫力を保ちつつ残酷になりすぎない、お子様が見ても安心の音作りになっています。そこは映画の音を作ってきた歴史の違いを感じる部分でしたね」

画像: 劇場でのセッティングの様子

劇場でのセッティングの様子

 実際に作品を観て聴いた印象としては、膨大な数の音を散りばめながらも、それが飽和してわけが分からなくなってしまうのではなく、映像の演出に合わせて、かなり綿密に計算されていると感じた。例えば、主人公が音楽を聴いている場面では、主人公がしゃべっていると、音楽のボーカルは定位が少し劇場中央寄りに移動し、台詞が終わるとボーカルの定位が前(スクリーン)に戻ってくる。そのため台詞が聞きづらくならないのだ。

 こうした調整をきめ細かく行なっているのが、ドルビーアトモスならばさらにはっきりと分かるそうだ。ドルビーアトモスならではの高さを含めた自在な音の定位も、見ている者の耳のすぐそばを駆け抜けていくような音や、たくさんの群衆の声が真横や真後ろから聞こえて騒ぎの真ん中にいる感じがするなど、音作りの緻密さでは最近の作品の中でも随一だと分かる。ドルビーアトモスの威力を存分に楽しめる作品ではあることは間違いないだろう。

 スパイダーマンが好きという人はもちろんのこと、アニメファン、映画の音響に興味のある人はぜひとも、本作をドルビーアトモス上映で存分に楽しんでほしい。

※Dolby、ドルビー、Dolby Atmos、Dolby CinemaおよびダブルD記号はドルビーラボラトリーズの商標または登録商標です。

映画『スパイダーマン:スパイダーバース』
3月8日(金)より全国ロードショー
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
公式サイト http://www.spider-verse.jp/site/

<ドルビーアトモス上映劇場>
TOHOシネマズ日比谷
TOHOシネマズ六本木ヒルズ
TOHOシネマズ新宿
イオンシネマ京都桂川
ミッドランドスクエアシネマ
イオンシネマ名古屋茶屋
TOHOシネマズららぽーと富士見
イオンシネマ幕張新都心
TOHOシネマズららぽーと船橋
TOHOシネマズ柏
TOHOシネマズくずはモール
アースシネマズ姫路
イオンシネマ和歌山
イオンシネマ岡山
TOHOシネマズ赤池
TOHOシネマズアミュプラザおおいた
ドルビーシネマ上映劇場
T・ジョイ博多

全国の実施劇場は下記および公式HP内「劇場情報」をご覧ください。
https://eigakan.org/theaterpage/schedule.php?t=spiderverse

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