映画評論家 久保田明さんが注目する、きらりと光る名作を毎月、公開に合わせてタイムリーに紹介する映画コラム【コレミヨ映画館】の第21回をお送りします。今回取り上げるのは、電話サスペンスの新境地を開拓した『THE GUILTY/ギルティ』。最後の最後まで予断を許さない驚愕の展開を、とくとご賞味ください。(Stereo Sound ONLINE 編集部)

【PICK UP MOVIE】
『THE GUILTY/ギルティ』
2月22日(金)より、新宿武蔵野館/ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開

 ベビーシッターの女性が邸宅で受けた1本の電話から寒気が立ち昇る『夕暮れにベルが鳴る』(1979年)。街角の電話ボックスを舞台に、ナゾの男からの強迫がつづく『フォーンブース』(2002年)。相手は誰なんだ? どこに居るんだ? というシバリを掛けた電話サスペンスには秀作が多い。動けないし、逃げられない。ヘビににらまれたカエルのよう。不自由さゆえに、流れる冷や汗も5割増しになるのだろう。

 主人公はヘッドセットを付け、緊急通報室に勤務する警官のホルム。この『THE GUILTY/ギルティ』も、今後、あれはアイデア賞ものだったよな、と映画ファンの間でささやかれることになるだろう快作だ。

画像1: 【コレミヨ映画館vol.21】『THE GUILTY/ギルティ』 顔も見えない。状況も判らない。事件解決のカギは電話でのやりとりだけ。新感覚の奇想スリラー

 灰色の壁に囲まれた通報室。ホルムはイーベンと名乗る女からの電話を受ける。緊張したふうの話は要領を得ないが、やがてそれは拉致された彼女が車中から子どもと話すふりをして掛けてきたものだと判る。犯人に気づかれぬように情報を引き出そうとするホルム。車の色は? 犯人の正体は? 

 受話器の向こう側から聞こえるざわめきに耳をすませ、こうして観客はホルムと一緒に推移を追い、わずかな手がかりを元に事件の解決法を考えることになる。ところが、このあとの展開を予想できるひとはいないだろう。電話サスペンスにおける新たな着想、着地点の誕生である。

 やがて、ホルムのひととなりや境遇が判ってくる。カメラは通報室から一度も出ない。

 これで事件は完結できるのか? 部屋からカメラが外に出るのなら、それはいつ、どのようになされるのか? 観る者にそこまで考えさせる構成が巧みだ。

 『ドライヴ』のニコラス・ウィンディング・レフン、『メランコリア』のラース・フォン・トリアー監督を生んだデンマーク映画界の新星グスタフ・モーラー監督(1988年生まれ)の長篇第1作。今後も楽しみ。『ドラゴン・タトゥーの女』系の猟奇ミステリーを撮らせたら、血だまりが凍るような快作を世に送りそうだ。

画像2: 【コレミヨ映画館vol.21】『THE GUILTY/ギルティ』 顔も見えない。状況も判らない。事件解決のカギは電話でのやりとりだけ。新感覚の奇想スリラー

『THE GUILTY/ギルティ』
2月22日(金)より、新宿武蔵野館/ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開
監督・脚本:グスタフ・モーラー
原題:THE GUILTY
配給:ファントム・フィルム
提供:ファントム・フィルム/カルチュア・パブリッシャーズ
2018年/デンマーク映画/88分/シネマスコープ
(C)2018 NORDISK FILM PRODUCTION A/S
公式サイト https://guilty-movie.jp/

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