一般社団法人放送サービス高度化推進協会(A-PAB)は1月24日と25日の2日間、ベルサース八重洲で「4K8Kワークショップ2019」を開催している。会場には全国から4K8Kに熱心に取り組んでいる放送局が集まり、これまでの経験や成果について発表を行なった。
今回は、「メ〜テレ/8Kの取り組み(2018年Ver.)」と、「成熟期を迎えた4Kコンテンツ制作機器」というふたつのセミナーに参加してきたので、その様子を紹介しよう。
地上波の民放局で初めてシャープの8Kカメラを導入
まず「メ〜テレ/8Kの取り組み〜」は、名古屋テレビ放送株式会社技術局技術戦略部副主事原大智氏による講演だった。メ〜テレは、地上波の民放テレビ局としては初めてシャープの8Kカメラを導入し、毎月1回ほど8K番組の自社制作に取り組んでいる。今回はそんな同社の8Kとの関わり方が紹介された。
導入機材は、8Kカメラがシャープの8C-B60Aで、レンズには主に4K用を使用しているそうだ(8K用レンズをレンタルすることもあり)。8Kの編集用としてはカスタマイズしたPCでPremier Proを動かしているという。このスペックではリルタイムの編集は難しいが、簡単な8K編集は可能だそうだ。
モニターにはシャープの家庭用8KモデルLC-70X500を、プレーヤーはターボシステムズ8K SHV Xjiveプレーヤーという構成となる。
メ〜テレでは、会社全体として「技術の進化の果実は視聴者に」「技術の進化はコントロールできない」「技術に取り組む姿勢こそが将来のビジネスを開く」という信念を持っており、次世代技術に積極的に取り組んでいる。それもあり、今回他社に先駆けて8Kカメラを導入・運用を始めたわけだ(8K機器の低価格化が進んだことも大きいそうだ)。
具体的には初の8K制作として、須磨海浜水族園とコラボして「8Kすいぞくえん」というコンテンツを作成している。これは須磨海浜水族園の動物たちの様子を8Kで捉えたものだ。
実際の撮影では最小限のスタッフ構成でロケもできたとかで、8Kといっても大規模な準備は必要なくなったと原氏は話していた。ただし、フォーカスはモニターで確認する必要があるので、カメラマンとフォーカスマン、カメラアシスタントという構成は不可欠のようだ。
メ〜テレでは8K撮影した素材を一旦2Kに落としてオフラインで編集し、それをもとに8K番組に仕上げている。このほうが編集時間も短縮できたと原氏は説明していた。
完成した番組は、須磨海浜水族園で上映されたが、その際は4Kモニターと、BrifhtSign4Kというプレーヤーをそれぞれ4台連動して再生したそうだ。期間限定だったが、来場者や子どもたちには好評だったとのこと。
この他にもメ〜テレでは広島や長崎の地方局と提携し、各局のカメラマンに8Kカメラをオペレートしてもらって地元の映像を収録したり、商業施設からの依頼で12K映像(2K映像を横に6つ並べた横長アスペクト)を作成したりといった多様なアプローチを続けているそうだ。
それらの経験を通して原氏は、「2015〜2017年までは8K制作は地方局には大きな負担になると感じていました。しかし、2018年に8Kカメラを導入して以降は、以前と比べてはるかに手軽に8K制作ができることを実感しています。弊社の新入社員には8K制作しか知らないスタッフもいます。彼は8Kへの抵抗すらないのです」と現場の空気感の変化について語ってくれた。
4K8Kでなくては体験できない世界がある
続いて株式会社キュー・テックプロジェクト推進室エグゼクティブプロデューサーの小池俊久氏による「成熟期を迎えた4Kコンテンツ制作機器」と題したセミナーが始まった。
キュー・テックは1983年に誕生した映像制作を手がけるプロダクションで、SD/HD時代から映像に関する豊富な経験を持っている。現在は「Dramatic! 4K8K」というテーマを掲げて、4K8K映像も多く手がけているそうだ。小池氏は長く映像に関わってきた経験を踏まえ、テレビ局とも違う視点から、4K8Kの魅力を語った。
小池氏はまず、「2Kのハイビジョンまでは映像は虚像でしたが、4K8Kは実像に迫る実力を持っています。そのためには自然なHDR(ハイダイナミックレンジ)、堅実なWCG(色空間)がテーマになります」と話した。同社としてはその“4K8Kの実力”を引き出した成果が「Dramatic! 4K8K」につながると考えているのだろう。
そこで重要になるのは画質の五要素(解像度、階調、色域、輝度範囲、フレームレート)であり、これらを高いレベルでクリアーできるのが4Kや8Kということになる。さらに、「この5つの要素が揃ってくると、数値で表せない次元が広がります。それは評論家の麻倉怜士さんが語っている、『人が感動』して、『ものの質感』がわかり、『臨場感』に優れる世界であり、これこそが4K8K映像が目指すべき大切なポイントなのです」と小池氏は語っていた。
現実に、そういった体験を可能にする環境も整い始めているという。放送局などの業務用カメラはほとんどが4K対応になっており、4Kで撮影・制作した番組を2Kにダウンコンバートして放送するという機会も多いそうだ。「4Kで撮影したものを2Kに変換した方が、もともと2Kで撮影したものより画質もいいんです」と小池氏も力説していた。
それは確かに事実で、2Kのブルーレイでも4Kマスターを使った方が総じて画質は優れている。記者自身も、BS 4K放送をチューナー側でダウンコンバートして2Kテレビで観る機会が多いが、サイマルで放送されている2Kチャンネルより、解像感、色再現など確実に高いクォリティで楽しめることを確認している。さらにそういった2K素材を最新の4Kテレビでアップコンバート再生すると、ネイティブの4K映像と見まごうかのような品質で鑑賞できることになる。
「4K8Kは単なる解像度を示すものではありません。4K8Kでなくてはできない表現、圧倒的な解像度とリアリティの体験が現実にあるのです。今後4K8Kは、放送だけではなく、サイネージやライブビューイング、サイエンス、メディカルなどの多くの分野で使われるようになっていくでしょう。4K8Kで撮影しておくと、その後の応用が幅広いことも重要です」と、映像素材としての4K8Kの価値についても紹介してくれた。
その後小池氏から現行の4Kカメラやレンズ、モニター、編集ワークフローなどが商会されたが、確かに業務用機器の4K対応はかなり進んでいるようだ。となると、すべての番組は遠からず4K制作になっていくはずで、放送(特にBS)が全部ネイティブ4Kでオンエアされる日も夢ではない。そんな素敵な未来を感じさせてくれるセミナーだった。