デジタルシネマや劇場音響設備のインスタレーションを手がけるジーベックスの最新機器展示会では、劇場映画に関連した妙味深いセミナーも開催されており、多くの業界関係者が耳を傾けていた。

 今回は、その中から「『作り手側から観た映画館音響』に関するトークショウ」に参加してきた。登壇メンバーは小社プロサウンドにもたびたびご登場いただいている、協同組合 日本映画・テレビ録音協会の多良政司さん、株式会社スタジオジブリの古城環さん、そして司会進行が潮晴男さんという面々だ。

画像: 写真中央が協同組合 日本映画・テレビ録音協会の多良政司さんで、右が株式会社スタジオジブリの古城環さん、左はお馴染の潮晴男さん

写真中央が協同組合 日本映画・テレビ録音協会の多良政司さんで、右が株式会社スタジオジブリの古城環さん、左はお馴染の潮晴男さん

 まず多良さんから、映画製作の仕事は製作、配給、興業に分けられることが説明された。さらに製作はプリプロダクション、プロダクション、ポストプロダクションに細分化される。プリプロダクションは資金集めや企画で、いわゆる撮影などがプロダクションに含まれる。そして今回のテーマである音響制作はポストプロダクションというわけだ。

 最近の音響製作環境はとても厳しく、音数が多いために1ヵ月近くスタジオで作業することもあるそうだ。それに関連して潮さんから、アニメの音響制作の現状はどうなのかについて質問が出た。

 すると古城さんから、「アニメのポストプロダクションは100%録音素材のため、監督の他に音響監督という人がいます。この音響監督が音響制作の現場を仕切っています」という説明があった。音響監督が音を仕上げ、それを監督が確認して了承するという手順のようだ。

 さらに映画で重要になるセリフの収録にも話が及ぶと、「アニメはキャスティングが重要です。特にジブリの場合は音響監督とスタッフが監督である宮崎(駿さん)の意向にあう役者を探してきます」と古城さんがキャスティングの苦労話を聞かせてくれた。

 ここで潮さんから、「ジブリ作品は台詞が固くないのがいいですね。何か工夫をしていますか?」と質問が出た。すると古城さんがそれに対して、「ジブリとしてはセリフにも気を配っています。昔は光学録音が前提だったので、録音時は若干エッジを効かせていたようです。その頃の作品をテレビで放送する場合は、事前に音を柔らかくする処理を加えています」と再生されるメディアに応じて品質にも気を配っていることを明かしてくれた。

 さらに、「最近はとある作品で、”マイクのオーディション”も実施しました。ひとりの声優さんの声を7種類のマイクで録音して、その結果を聴き比べたんです。その中でよかった物を使って、台詞から効果音まで同じマイクを収録するという試みも実施しています」という古城さんの話に、「昔のマイクの方が、録音した音がいい場合も多いんですよ。古城さんのアプローチは正解です」と多良さんも同意していた。

画像1: 「作り手側から観た映画館音響」に関するトークショウで、興味深い話が続出。ジーベックスが、新製品発表展示会”THIS” is XEBEX Solutionを開催(3)

 さらに録音素材にテーマが移り、潮さんからフォーリー(生音)をどうやって集めているかに関する質問があった。

 これに対し古城さんは、「2001年公開の『千と千尋の神隠し』では、冒頭でお父さんが運転する車で石畳を走るシーンがありました。そのために、アウディにお願いして車をお借りし、車載オーディオメーカーであるアルパインが所有するテストコースを走らせてもらい、その音を収録しました」と制作現場ならではの苦労話を披露してくれた(月刊HiVi2018年12月号に関連記事あり)。

 多良さんも「たとえばドアを閉める音でも、ドアの素材によって音が違いますし、フローリングによって歩く音が変わりますから、音を出す素材も沢山揃えているのです」と録音のためにどれほどの配慮をしているかを紹介してくれた。

 また一方で、「『借りぐらしのアリエッティ』では、小人が人間サイズのクッキーを割るシーンがあるのですが、その時に小人がどんな音に感じるかについてはみんなで悩みました。巨大クッキーを作って割ってみようというアイデアもあったんですが、多分それでも期待した音にはならない。最終的には段ボール等の厚紙を使って、みんながイメージするクッキーの音を再現しました。映画音響では、本物の音も大切ですが、同時に観客みんなが納得してくれる音を作るのも大事です」と古城さんが具体的な作品を挙げながらわかりやすく教えてくれた。

画像2: 「作り手側から観た映画館音響」に関するトークショウで、興味深い話が続出。ジーベックスが、新製品発表展示会”THIS” is XEBEX Solutionを開催(3)

 続いてテーマは映画館での再生時の音量に移る。ここについては3名とも思うところがあるようで、トークの内容は更に深くなっていった。

 まず多良さんが、「映画作品全体の音量レベルはダイアローグで決まります。現実の会話のレベルは60〜70dBくらいですが、映画では聴き取りやすさも考えて73〜80dBくらいにすることが多いですね。そして劇場の再生時の音量としては85dBが基準になります」と録音サイドの音決めの指標を解説してくれた。

 続いて古城さんから、「残念なことに、この再生基準が守られてないケースも多いんです。作り手としては万全の体制で作品を送り出しているんですが、それが観客に正しく届いていないということです。その他にも、劇場のXカーブ(SMPTE2969Xカーブをターゲットに、イコライザーで高域や低域をロールオフして周波数特性を整える指標)が正しく調整されていなかったことがあります。ここが狂っていると、高域が強く出てくるようになり、結果としてうるさく感じられるのです。できれば1年に1回くらいは調整して欲しいですね」という提案も。

 そして、「映画は生鮮食品を作っているのと同じですから、最後までおいしく並べてくれないと、せっかくの作品が台無しです。映画館側もその点をしっかり認識して欲しいと思います。最近は爆音上映が話題ですが、爆音の前に、原音を忠実に体験してもらいたいですね。監督が意図した音をそのまま再生するイベントがあってもいいのでは?」と劇場への希望を語ってくれた。

 それを受け潮さんが、「古城さんのおっしゃる通りです。映画館は常にホームシアターのお手本であって欲しいですね」とオーディオビジュアルファンの想いを語ってイベントは終了となった。

画像: 約1時間半のイベントはあっという間に終了。テーマが多すぎてすべてを語り尽くせなかったとか

約1時間半のイベントはあっという間に終了。テーマが多すぎてすべてを語り尽くせなかったとか

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