映画評論家 久保田明さんが注目する、きらりと光る名作を毎月、公開に合わせてタイムリーに紹介する映画コラム【コレミヨ映画館】の第14回をお送りします。今回取り上げるのは『日日是好日』。日本の片隅から宇宙を感じられる、美しく芯のある人生ドラマ。とくとご賞味ください。(Stereo Sound ONLINE 編集部)
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『日日是好日』(にちにち これ こうじつ)
10月13日(土)より、シネスイッチ銀座ほかにて全国ロードショー
この作品の撮影期間は昨年の11月20日から12月23日まで。余命宣告を受けたのは今年の春だというから、体調を考えながらの仕事だっただろう。物腰は柔らかくいつものユーモアをまとっているけれど、背筋はピンと伸び、生徒たちの所作を注視している。樹木希林がお茶の先生を演じた、美しく芯のある人生ドラマ。
1998年、20歳のときに従姉妹の美智子(多部未華子)と一緒に近所の茶道教室に通い始めた大学生の典子(黒木華。大好演)。私は何がしたいんだろう。生真面目で不器用な典子の周りで季節が巡り変わってゆく。
演出は『ゲルマニウムの夜』『さよなら渓谷』『光』など、ヒトの暗部を見つめる暴力的なドラマを多く発表してきた大森立嗣。表層は異なるけれど、今回も原作(森下典子の「日日是好日 お茶が教えてくれた15のしあわせ」)を巧みに映像化した作品で、物語が時の流れに支えられているのは共通している。
茶室の障子窓の向こうに雨が降り、雪が落ち、緑が萌えて風がそよぐ。照明や撮影、整音、セット。すばらしい映画美術! この小さな世界で、典子はやがて世の中にはすぐわかるものとすぐにわからないものの二種類があることに気づくのだが。
不思議なことだけれど、鑑賞中、クリストファー・ノーラン監督の『インターステラー』を思い出した。黒木華と樹木希林が座る質素な茶室は、自転し公転する地球の隅っこにあり、その地球が属する太陽系はいまこの瞬間も秒速8万キロで天の川銀河系のなかを回り、その銀河系もまた、という広がり、めまいを感じたからだ。
誰にも止められぬ時の流れのなかで自分の立ち位置を考えるという意味では、このささやかなヒロイン成長のドラマはSFでもあるんじゃないかしら。縁側に座りお茶を飲みながら空を見上げているような作品。心に残る。一見をお奨めする。
『日日是好日』
10月13日(土)より、シネスイッチ銀座ほかにて全国ロードショー
監督・脚本:大森立嗣
配給:東京テアトル/ヨアケ
2018年/日本/1時間40分/ビスタサイズ
(C)2018「日日是好日」製作委員会
公式サイト http://www.nichinichimovie.jp/