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アナログレコードプレーヤーを使ってみよう/調整編
前編では、レコードプレーヤーの組立て~スピーカーとの接続までを紹介した。後編では、実際に音を出すまでの調整方法を紹介したい。
まずはレコードプレーヤー本体の水平を確認する。オーディオラックなどに置くだけでも充分だが、オーディオラック自体がガタ付きのないようにきちんと設置されているかを確認したい。
もうひと手間をかける余裕のある人は、水準器を使ってプラッターが水平になるように調整しよう。水準器は水平を測る道具で、カメラ用のアクセサリーとして販売されている。スマホ用アプリにも水準器があるので、それを利用してもいいだろう。
プラッターが水平でないということは、レコード盤が回転するときに登り/下りが生じるわけで、回転ムラによって音楽の演奏速度が変わるし、正確なリズムが再現できない。水平の調整は本体の脚部の下に厚紙などを敷いて調整する。10円玉(銅板)やゴムシート、薄い木の板なども使える。材質によって音質にも影響するが、まずは水平にすることを目的として調整しよう。
手順4 トーンアームの水平の調整
次は、カートリッジを装着した状態で、トーンアームが水平になるようにする。調整は、トーンアームの後ろ側にあるカウンターウェイトの位置を動かして行ない、支え無しでもトーンアームが水平になるようにする。ちょうど天秤が左右で釣り合った状態にするわけだ。このあたりは、取扱説明書にも記載されているので、しっかりと読んで調整をしよう。
トーンアームはカートリッジの先に付いた針がひろった音(振動)を伝えるものなので、きちんと調整しないと正しく音が伝わらないし、トーンアームの動きにも影響が出て、きちんとレコードの溝に沿って針をトレース(なぞる)することができなくなってしまう。
このとき、カートリッジが接地してしまうと針を痛める恐れがあるので、取扱はていねいに。カートリッジによっては針を保護するカバーが付いているものあるので、カバーを付けた状態で調整するといい。
手順5 針圧調整
水平バランスが取れたら、カートリッジの針に合わせて針圧調整を行なう。針圧はカートリッジごとに指定されているので、カウンターウェイトの前端にあるメモリを使って正しく指定通りの針圧に合わせる。同じく、トーンアームの根元にあるダイヤル(インサイドフォースキャンセラーの調整機構)を針圧と同じ値にする。これで基本的な調整は完了だ。
アナログレコードをコンパクトなアクティブスピーカーで再生
セッティングと調整が終わった「TN-350」(ティアック)で、聴き慣れたアナログレコード『マイルス・デイヴィス/カインド・オブ・ブルー』(再生産版)をかけてみた。お手軽なアクティブスピーカーによる再生ではあるが、その音は思った以上に良かった。サックスやトランペットの音色も厚みがあり、息を吹き込んでいる感じも力強く再現される。小型サイズながらも低音もしっかりと出ていて、ベースやドラムスの刻むリズムもパワフルだ。
アナログレコードらしい中域の密度の高い音がきちんと再生できており、スピーカーやレコードプレーヤーの出来の良さにも感心した。特にTN-350に内蔵されるフォノイコライザーのクォリティは高く、入門用としては充分な実力を持っていることが分かった。
今回のようなミニマルなシステムであれば、システムを置ける台、スペースさえあれば、本格的なオーディオラックを揃えなくても、音楽を楽しむことができる(もちろん、設置する台がしっかりしていることは必要)。オーディオの世界はこだわりはじめるとキリがないので、まずは実現しやすい機器の組み合わせでスタートすることからはじめるといいだろう。
ステレオサウンドの高音質レコードをいくつか聴いてみる
続いては、ステレオサウンドが発売している高音質レコードを聴いてみよう。高音質で録音された貴重な音源を、オリジナルマスターからカッティング、180gの重量盤でプレスしたこだわりのレコードたちだ。
まずは、『ザ・ピーナッツ/ザ・ファースト・ディケイド1959~1967』。昭和の歌謡曲を代表する双子のデュオで、その名曲の数々は若い人であっても一度は耳にしたことがあるだろう。
このアルバムは、実にこだわった作りになっており、A面の最初の2曲はモノーラル録音の楽曲をモノーラルカッティング(溝を刻むこと)、以後のステレオ楽曲はステレオカッティングとなっている。モノーラル曲、ステレオ曲をそれぞれ専用のカッターヘッドで制作しているため、1、2曲目と3曲目を連続して再生できない仕様となっている(1、2曲目の再生が終わると、レコード盤は空回りを始めるので、一度カートリッジを上げ、3曲目の頭の位置にカートリッジを降ろして再生する必要がある)。
音質のために徹底したこだわりを持つレコードから、まずは3曲目の「白鳥の恋」を聴く。ふたりの声は充実度たっぷりの豊かな再現だ。ステレオ収録なので、ふたりの声はセンター付近でふたりが並んだ状態で定位する。その歌は一人がメイン、もう一人がコーラスを担当するが、それが歌の途中で自由自在にメインを入れ替えながら歌っていく。こうしたメインとコーラスの入れ替わりがきれいに再現され、息の合ったデュオの歌を存分に楽しめる。
ふたりの声の定位もしっかりとしているし、双子ならではの声質の近いデュオによるハーモニーの美しさも鮮やかな音で楽しめる。レコードとしても実に楽しいし、滑らかな声とハーモニーの再現は実体感豊かでしかも抜群の鮮度の高さだ。お手軽と言えるシステムでも、優れたレコードの音の良さがしっかりと味わえたことも少々驚きだ。
もちろん、モノーラル録音の「情熱の花」(2曲目)も聴いてみた。通常のステレオ用のレコード針でも再生は可能なのでご安心を。もちろん、こだわって、モノーラル用のカートリッジに交換して聴けば、より素晴らしい音が楽しめるはず。
その音は、正直に言って驚きだ。ステレオ感はないので音は1点に集中するが、その音の存在感が凄い。厚みがあって豊かに響く。ふたりの声は絶妙に溶け合い、ハーモニーの美しさが際立つ。音像の定位が明瞭なので、声の響きや伴奏の広がりのある音との対比でモノーラルながら奥行のあるステージが感じられてしまう。若い人でも馴染みやすい懐かしいポップス曲なので、気軽に聴けるアルバムだが、その音の凄みは強烈だ。
続いては、ASKAのソロデビュー30周年を記念して制作したアナログレコード『Too Many people』。Disc1の1曲目「FUKUOKA」を聴いたが、ASKAの独特な色気のあるヴォーカルを、実にニュアンス豊かに描いている。声の伸び、エネルギー、そして強弱の抑揚の付け方が、目の前で聴いているかのようにはっきりと伝わってきた。力強い声なのだが、耳当たりは優しく、心地良く聴かせてくれる。郷愁を感じる優しいメロディがしみじみと身体に染み渡っていく感じだ。パワフルであっても耳によく馴染む。これこそ、アナログ的な音の感触なのかもしれない。
このほか、アンネ・ゾフィー・ムターの『カルメン幻想曲~ヴァイオリン名曲集』では、ヴァイオリンの艶やかな音色を力強く、ニュアンスたっぷりに楽しめた。高域の響きの伸びやかさ、倍音の重なったハーモニーの美しさは、デジタル再生とはひと味違うリアルな感触がある。音の厚みや実体感が大きく違うのだ。
こうした高音質盤は、高価なアナログプレーヤーや再生装置を持った人でないと良さが分からないと思いがちだが、決してそんなことはない。アナログ再生は比較的安価なシステムでも、レコードの音質がしっかりと分かる。基本的な原理や構造が単純だから、レコード盤のよさがダイレクトに現れると言ってもいいだろう。中古レコードは決して盤質が良くないものもあるので、それらばかりを聴いて「アナログの音ってこんなものか」と思ってしまうのもよくない。ぜひともこうした高音質レコードにも臆せず挑戦してみてほしい。
ステレオサウンドから発売されている「リファレンスレコード」シリーズには、クラシックやジャズ、歌謡曲まで幅広い作品がラインアップされているので、ぜひとも気になる作品を見つけて、高音質レコードの素晴らしさを体験してみてほしい。
デジタルとはひと味違う「音を操る楽しさ」をぜひ体験してほしい!
アナログレコードの再生は、CD以降のデジタルオーディオしか知らない若い人にとっては、なにかと難しいイメージがあるかもしれないが、やってみれば、自分でいい音を生み出しているという実感が得られることは間違いない。デジタルとはまるで違う、操る面白さはきっと楽しい体験になるはずだ。
今回紹介したような、お手軽システムでもこれだけの楽しさがあるので、臆することなく挑戦してみてほしい。そして、「音を操る楽しさ」が分かってきたら、カートリッジ交換による音の変化、より本格的なオーディオシステムへのグレードアップなどにも挑戦してみてほしい。音楽を楽しむ時間がもっと魅力的になるはずだ。
ティアック(TN-350)
https://teac.jp/jp/product/tn-350/top
オラソニック(TW-S9)
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