音の良さはパーソナルテレビの新しい価値観となった!

画像: 音の良さはパーソナルテレビの新しい価値観となった!

 昨年の10月、福井県にある電機メーカー、オリオン電機から「極音」(きわね)という愛称の液晶テレビが発売された。32型の「RN-32SH10」、24型の「RN-24SH10」の2モデルだ。これは、「極音」という愛称の通り、内蔵スピーカーの音質に徹底してこだわったテレビだ。

画像: 写真は32型液晶テレビ「RN-32SH10」。下部にSOZOデザインとの協業で生まれたスピーカーボックスが備わる。なお、24型の「RN-24SH10」もある www.orion-electric.co.jp

写真は32型液晶テレビ「RN-32SH10」。下部にSOZOデザインとの協業で生まれたスピーカーボックスが備わる。なお、24型の「RN-24SH10」もある

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 この2モデルについて、私は発売に合わせて取材し、Stereo Sound ONLINEで速報レビューとして取り上げている。声も音楽も聴きやすいサウンドは、このクラス随一。追加スピーカー不要の再生能力には関心させられた。

 そして今年の5月1日。オリオン電機株式会社と株式会社SOZOデザインの両社の業務提携が正式に発表された。「極音」シリーズは、この両社が協業して開発した製品の第1号機だったのである。

 音質の良さは薄型テレビの大きな価値になる。オリオン電機とSOZOデザインが生み出した「極音」シリーズは、どのようにして誕生したのか。両社の協業がはじまった経緯などを含めて、両社の取り組みについてレポートする。

実績あるORIONブランド
だが、消費者の知名度は……

 薄型テレビのメーカーで、オリオン電機の名前を思い出す人はあまり多くはないだろう。創業60年の老舗メーカーであり、薄型テレビの開発も長年行っている。また、自社ブランドのテレビ製品も展開しているが、どうしてもOEM生産のイメージが強く、一般の消費者からの認知度は決して高くないのが実状だろう。

 そんなオリオン電機にやってきたのが、市川博文さんだ。彼は2015年までオーディオメーカーのディー・アンド・エムホールディングスの代表取締役を務めていた人物で、主にデノンブランドでオーディオ製品の企画・開発を行なってきた。元日本オーディオ協会理事でもある。

画像: オリオン電機 取締役 常務執行役員 市川博文さん

オリオン電機 取締役 常務執行役員 市川博文さん

 市川さんは、オリオン電機に入ると地デジ化後の需要の低迷で業績が悪化していたテレビ事業の立て直しを任され、戦略の一つに、音の良さを武器とした薄型テレビの開発を模索する。

 オリオン電機は、薄型テレビを100%自社で開発・量産を行なっているメーカーで、優れた技術やノウハウの蓄積もある。だが、音の良さを追求するという点においては、経験不足だった。

 そこで市川さんは、2016年にSOZOデザインを設立した山本喜則さんに協力を求めた。山本さんはソニーのオーディオ事業部本部長として、長くソニーのオーディオ事業に関わってきた音のプロフェッショナル。元日本オーディオ協会副会長として、市川さんとともにオーディオ普及のために尽力した仲でもある。メーカーは違えど、同じオーディオの世界で活躍した同志だったのだ。

私がオリオン電機に入ったのと、山本さんがSOZOデザインを興したのがほぼ同じタイミングだったのは、まさに奇跡でした。オリオン電機の技術力とSOZOデザインのオーディオ製品開発の技術やノウハウがあれば、薄型テレビに新しい価値を生み出すことができる。そう考え、山本さんにアプローチしました」(市川さん)

画像: SOZOデザイン 代表取締役 山本喜則さん

SOZOデザイン 代表取締役 山本喜則さん

 SOZOデザインは、オーディオ製品を中心とした設計・デザインを手がける会社で、基板設計からオーディオ製品の開発まで、豊富なノウハウを持った技術者が集まっている。そんなSOZOデザインのオーディオ開発の技術や知識と、オリオン電機の薄型テレビ開発・量産の技術を武器に、「極音」シリーズの開発がスタートした。

 画面サイズは検討の結果、身近な価格でリビングからプライベートルームまで幅広く使える、ミドルサイズの32型と24型に絞った。このクラスは、他社が価格優先で製品を展開しており、特に音質がおろそかになっている傾向が強い。「このクラスなら音の良さで勝負できる」(市川さん)という目算もあった。

音が良いとはどういうことか?
スタッフ全員で試聴して理解を深めた

 SOZOデザインが関わったのは、内蔵スピーカーやオーディオ回路などの設計や開発への協力だ。しかし、それは単なる技術的な協業では済まないものだった。

 オリオン電機の開発チームは、音質を追求するといった製品づくりの経験がなく、「そもそも音の良いことが薄型テレビにとって必要なのか?」という疑問もあったという。

「私たちはまず、『薄型テレビの音質を良くするとはどういうことか』を、オリオン電機のエンジニアにレクチャーするところからスタートしました。安価な薄型テレビは、筐体に直接スピーカーユニットを装着して音が出るだけの代物でしたから、まずスピーカーユニットをきちんとエンクロージャーに入れると、こんなに音が良くなるのだということを知ってもらったわけです」(山本さん)

 このほか、さまざまなメーカーのスピーカーユニットを取り寄せ、それぞれMDF(木質繊維が原料の成形板)製の簡易エンクロージャーにセットして試聴を行なったそうだ。こうして、きちんと設計することで、テレビの音質が良くなること、テレビの音が良くなると同じ番組を見ていても満足度が違うこと、そんな音の良さという価値を、開発チームに理解してもらったのだ。

画像: 山本さんがMDF製の試作エンクロージャーを見せてくれた

山本さんがMDF製の試作エンクロージャーを見せてくれた

「オリオン電機の設計者は、良い意味で素直ですから、薄型テレビの音を良くすることの意義を理解して、そのための設計や開発に本気で取り組んでくれました。ミーティングをほぼ毎週、福井や東京で行なうなど、オリオン電機とSOZOデザインが『協業』の枠を超えて、一丸となって取り組んだ成果と言えます」(市川さん)

 「極音」シリーズの開発についても、SOZOデザインがスピーカーユニットの検討課程できちんと鳴らすためにMDFでエンクロージャーを試作する。その試作されたエンクロージャーを元に、オリオン電機側は薄型テレビの内部に収納できるエンクロージャーの設計を行う、というリレー形式で進んでいった。

 薄型テレビのデザインを損なわず、十分なエンクロージャーの容積を確保するのも大変だったが、それ以上に難しかったのがバスレフポートの設計だったそうだ。目指す低音域を出すには、バスレフポートはかなり長さが必要だった。これをオリオン電機のエンジニアが、ポートを折り曲げて収納をするアイデアを思いついたという。さらに、豊かでしっかりとした低音にするため、樹脂材料の強度・成型方法などの構造的なノウハウに加えて、量産設計での高い精度が要求される。しかし、これは同社が得意とするところ。長年積み重ねてきた技術力を駆使して難題をクリアしたそうだ。

画像: 山本さんがユニットやツイーター、バスレフポートについて詳しく解説してくれた

山本さんがユニットやツイーター、バスレフポートについて詳しく解説してくれた

 また、フルレンジのユニットだけでは、どうしても高域が荒くなるということで、32型ではツイーターを追加した。しかも、単にツイーターを増やすだけではなく、5度外側に広げて配置し、良好な音の広がりも獲得している。コスト的な制約がある中で、必要な部分にはきっちり予算を割く。その上で、試作や検討に時間をかけ、コストを上回る良い音に練り上げていったという。

 オーディオ回路の開発では、オペアンプなどのパーツの違いによる音の変化、回路基板の配線の引き回しなどでも音質に違いが出ることを、オリオン電機側とSOZOデザイン側の両方で試作と試聴を繰り返しながら確認。そこで得た成果を元に、新設計のオーディオ回路の開発が進んでいった。

画像: 最終的にできあがった32型「極音」のスピーカーボックス部のスケルトンサンプル

最終的にできあがった32型「極音」のスピーカーボックス部のスケルトンサンプル

異なる文化を持った2社の協業がもたらしたもの
それは、大きな変化と成長

 オリオン電機とSOZOデザインの協業は、お互いの企業文化にも及んだようだ。

「スピーカーのエンクロージャーの設計ひとつとっても、理想を追求するのは大変です。試作や試聴にじっくりと時間をかけることで、結果的に効率のよい開発ができました。オーディオ機器とテレビという文化の異なる会社の協業は大変でしたが、とても楽しい仕事でしたね」(山本さん)

極音シリーズの開発に、オリオンの設計者全員が参加したわけではありませんが、機構設計や回路設計、それぞれの担当がミーティングの結果や試聴のインプレッションなどを文書でまとめて社内で音質設計のノウハウを共有するようにしています。これは、私や上司が指示したのではなく、メンバーから自発的に始まったのです。極音チームが何か面白いことをやっているらしいと同僚が聞きつけ、教えるようになったのが始まりでした。こうした社内の変化も、SOZOデザインとの協業の産物ですね」(市川さん)

画像: 市川さんもこのMDF製エンクロージャーを手に、今回の協業の成果と、今後の可能性について熱く語ってくれた

市川さんもこのMDF製エンクロージャーを手に、今回の協業の成果と、今後の可能性について熱く語ってくれた

 オリオン電機は、2015年に経営陣が一新されて以降、市川さんのように外部からの優秀な人材を積極的に採用することが増えているという。元大手テレビメーカーに居た人物なども多いとか。新しい知識やノウハウを採り入れ、社内で共有していく。こうした変化はオリオン電機の大きな成長につながるはずだ。

 オリオン電機は、自社の製品を日本で企画・開発していることを大きな価値としている。自分たちで考え、独自の目標を立てて取り組む。設計者としてもやりがいのある仕事になるし、より良い物が生み出せる土壌が出来てきたという。

オリオン電機とSOZOデザイン
二人三脚はこれからも続く

 「極音」シリーズの音の良さは、発表時に大きな話題となった。前述の通り私もその聴きやすさに驚かされた。発売から約10ヵ月経過し、反響はどうなのか。

「ユーザーからの反響は大きくたくさんの声をいただいています。中でも多いのが『テレビの音が聴きやすくなった』という感謝の声です」(市川さん)

 極音」シリーズは音質チューニングにおいて、声が聴き取りやすく明瞭であることにこだわっている。このクラスでは底面や背面にありがちなスピーカー配置を、本機では前向きにしている。当たり前のことだが、テレビの前で見ている人にしっかりと音が届く機構にしたのだ。それゆえ、小音量でも明瞭な音が得られる。さらに、エンクロージャーやスピーカーユニット、ツイーターなどの効果が相まって低音が充実。音楽や映画でも満足度が高い。

 音が悪くて当たり前とさえ言われていた普及価格帯の液晶テレビでも、ここまでの製品を作り上げることができたのは、オリオン電機とSOZOデザインによる協業があってこそのものだった。

 もちろん、この協業は今後も続いていく。今後は注目度の高い4Kテレビや大画面モデルなども検討しているとか。それらにも、またオリオン電機とSOZOデザインの新しい仕掛けが盛り込まれるはずだ。どんな製品が飛び出すのか、登場が今から待ち遠しい。

特別企画/協力:SOZOデザイン

画像: 極音 RN-32SH10, RN-24SH10 | オリオン電機株式会社 www.orion-electric.co.jp

極音 RN-32SH10, RN-24SH10 | オリオン電機株式会社

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