大人気アニメ『ガルパン』の音響監督として有名な岩浪美和氏が、現在公開中のアニメ映画『ニンジャバットマン』の特別音響上映館の音響監修を行なった。劇場は、「極上爆音上映」や「極上音響上映」など、音にこだわった上映を行なうことで有名な、立川にあるシネマシティだ。岩浪氏は本作の音響監督も務めており、自らが作り上げたサウンドを、実際の劇場でどのように調整したのか? アニメ大好きな鳥居氏が作業に密着した。(Stereo Sound ONLINE 編集部)

画像: wwws.warnerbros.co.jp
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 現在、上映中のアニメ作品『ニンジャバットマン』。これは、DCコミックスのキャラクターであり、何度となく映画化されている「バットマン」を、日本のクリエーターたちによって、"ジャパニメーション化"した作品だ。『ジョジョの奇妙な冒険』のオープニング映像や『ポプテピピック』で注目を集めている神風動画が制作を担当し、監督はもちろん水崎淳平。キャラクターデザインには『アフロサムライ』の岡崎能士、脚本は『天元突破グレンラガン』で知られる劇団☆新感線の中島かずき、音楽は『PSYCO-PASS サイコパス』の菅野祐悟と、世界からも注目されるトップクリエイターが集結している。

●『ニンジャバットマン』
6月15日より全国公開中

 本作の魅力はすべてが型破りであること。物語のスタートこそ、ゴッサムシティでの戦いが描かれるが、突如起こった謎の時空震によってバットマンやヴィラン(悪党)たちは戦国時代の日本へとタイムスリップしてしまう。日本の戦国時代を舞台に、バットマンの壮大な戦いが始まるというわけだ。

 バットマンは最初こそ、バットモービルやバットサイクル(変形してパワードスーツになる!! デザインは荒牧伸志)を駆使して悪党たちと戦うが、やがて戦国武将さながらの甲冑で身を固め、馬を駆って抗戦することになる。序盤から見せ場の連続で、怒濤の勢いで展開していくアクションが実に楽しい。ニンジャ、サムライといったニッポンならではの要素はもちろんだが、変形や合体(!?)とジャパニメーションの要素もたっぷりと注ぎ込まれ、何でもありのエンターテイメント作品に仕上がっている。

 そして、その映像に劇場ならではの音響環境のポテンシャルを最大限まで拡張する調整を手がけたのが、本作の音響監督を務めた岩浪美和さんだ。『ガールズ&パンツァー』などで一躍話題となった彼が、迫力たっぷりのサウンドを、ドルビーアトモスで立体的に作り上げているのである。

 岩浪さんは、より本格的な音を楽しんでもらうため、実際に映画館に出向いて音響監修をしていることでも知られる。『ニンジャバットマン』でもそれは踏襲されており、今回は東京・立川にあるシネマシティ シネマ・ツーでの音響監修の現場に同行、その模様を取材した。

画像: シネマシティのスタジオaの様子。最終上映の終了後の深夜に音響調整が行なわれた

シネマシティのスタジオaの様子。最終上映の終了後の深夜に音響調整が行なわれた

爆音とダイアローグや音楽とのバランスを絶妙に調整していく

 本作はドルビーアトモス制作だが、シネマ・ツーはスタジオ(劇場)a/bともにドルビーアトモスには対応していないため、アトモス版をベースに作られた5.1ch、7.1chサラウンドでの上映となる。内訳は、スタジオaが7.1ch版、スタジオbは5.1chだ。ただし、そのサウンドには特別音響、通称「爆音ミックス」ミキシングが施されており、元々、シネマシティの極上爆音上映を想定したサウンドになっているとか。果たして、どんな仕上がりになっているのかが気になるところだ。

 1Fにあるスタジオaの調整からスタートだ。音響調整はまず、ピンクノイズを出力して、各チャンネルのバランスを確認していく。岩浪音響監督は劇場内の座席に座り、自前のレベルメーターとスマホのRTA(リアルタイム・スペクトラム・アナライザー)アプリで特性を測定しつつ、実際の音を確認している。

画像: 音響チェックを行なう岩浪さん。手に持っているのはトランシーバーで、上映室にいるスタッフとやりとりをしている

音響チェックを行なう岩浪さん。手に持っているのはトランシーバーで、上映室にいるスタッフとやりとりをしている

画像: 音量レベルの確認中。RTAアプリやレベルメーターの測定を確認しつつ、0.1dB単位でチャンネルの音量バランスを揃えていく

音量レベルの確認中。RTAアプリやレベルメーターの測定を確認しつつ、0.1dB単位でチャンネルの音量バランスを揃えていく

 各チャンネルのレベル(バランス)調整が整ったら、いよいよ作品の要所を再生しての音響確認だ。アクション場面をいくつかピックアップし、大きな音の出る場面を次々とチェックしていく。

 メイヤーサウンド社のスピーカーを使用したシステムは、フロントのアレイスピーカーも凄いが、スクリーン下にあるサブウーファーに注目! なんと3基(6ドライバー)構成となっているのだ。低音はさすがの迫力で、映画館が揺れるほどの重低音を響かせている。

画像: メイヤーサウンドのサブウーファー。2つのユニットで1台となるが、それが3台に増強されていた

メイヤーサウンドのサブウーファー。2つのユニットで1台となるが、それが3台に増強されていた

 「こんなに鳴らしていいの?」と聞く岩浪さんに対し、スタッフは「いつもの音量です」との返答。「ここに来ると耳がマヒしちゃうよね」と岩浪さんは苦笑い。実は、数日前に他のドルビーアトモス劇場の音響チェックを行なったばかりだそうで、こういう感想が出るということは、低音に関してはかなりハードなレベルになっていることが予想できる。

 引き続き、大きな音のシーンを見ていくが、低音の伸びはかなりのもので、大砲の音はもちろんのこと、格闘でのパンチの音まで身体に深く響くような力強いものになっている。怒濤の勢いで展開するアクションも興奮ものだが、スリリングでテンポの良い音楽と身体に響く重低音は、なかなか病みつきになりそうな感覚がある。

 ところで、スタジオaのサラウンドスピーカーは、1年半ほど前に7ch化に合わせて新調されたモデルが配置されている。岩浪さんによれば、エージングが充分に進んできたようで、チャンネルのつながりが良くなってきた、という感想を持ったそうだ。これからが(サウンドの)美味しい時期と言えるのかもしれない。

画像: スタジオaにあるメイヤーのアレイスピーカー。フロントチャンネルはスクリーンの両脇に配置

スタジオaにあるメイヤーのアレイスピーカー。フロントチャンネルはスクリーンの両脇に配置

 一通りシーンのチェックが終わったところで、フロント左右のレベルを下げ、サブウーファー(LFE)も合わせてレベルを下げた。音が混濁しないように、そしてセリフが聴こえにくくならないようにするための微調整だ。サブウーファーのLFEの再現については、レベル調整だけではなく、ローパスフィルターのカットオフ周波数の調整を行なうかどうかも含め、ただの爆音にならないように繊細な調整が繰り返された。

 細かな所では、センターチャンネルのイコライザーで120Hzをほんの少し下げるといった調整もしている。これはダイアローグ(セリフ)が多く含まれるセンターの音の中低音を下げることで、声の明瞭度を高めるため。ただし、バットマンの声を演じる山寺宏一さんの深い低音ボイスが痩せてしまわないように、調整には、細心の注意が払われていた。

 調整がまとまってきたところで、もう一度いくつかのシーンを見直し、エンディングのメインテーマ音楽を再生して最終確認を行なえば、チェックは完了。

ドルビーアトモスではないが、強烈な爆音は他にはない魅力

 続いては4階にあるスタジオbの調整。スタジオaと同じように、まずは各チャンネルのバランス調整からスタートする。

画像: スタジオbでの音響監修の様子。こちらもスピーカーはメイヤーサウンドのものだ

スタジオbでの音響監修の様子。こちらもスピーカーはメイヤーサウンドのものだ

 スタジオbのスピーカー群は、スタジオaのものよりも旧モデルだが、その分、鳴らし込みが充分に済んでいるせいか、空間のつながりがスムーズで、一体感のある音場空間になっていた。

 しかし、岩浪さんはさらにバランスを追い込むために、各チャンネルのレベルを0.1dB単位で細かく調整していき、センターチャンネルについては、セリフの明瞭度に関わる125Hzや250Hz、あるいは2000~3000Hzあたりの帯域ついてもイコライザーで微調を加えて、バランスを整えていた。

画像: 音響監修をする岩浪音響監督。測定器のほか、ノートPCでメモをとって音響のチェックを行なっている

音響監修をする岩浪音響監督。測定器のほか、ノートPCでメモをとって音響のチェックを行なっている

 そして、主な場面を上映しての確認が始まった。暴力的と言えるくらいの低音の迫力はスタジオaに比べるとややマイルドに感じたが、それでもシアター全体が震えるようなエネルギーはあり、迫力は充分。そして、暗闇の中に姿を消したジョーカーが前後左右のあらゆる場所に移動しながらバットマンに声をかけるシーンでは、その声の定位感や移動感がよりスムーズに再現されていた。

 個人的な意見としては、空間や音楽の再現はスタジオbの方が気持ちよさそうだ。初見でサウンドを迫力たっぷりに味わいたいのならスタジオa、何度も繰り返し見るようになったらスタジオbがおすすめという感じ。こういう使い分けもなかなか楽しいだろう。

画像: スタジオbに設置されたメイヤーのスピーカー群

スタジオbに設置されたメイヤーのスピーカー群

ドルビーアトモスもいいが、シネマシティの音も聴き逃せない!
アクションの迫力を体感できる楽しい音

 最後に、岩浪音響監督にドルビーアトモス版とここでの極上爆音上映との違いを聞いてみた。

 「ドルビーアトモスはいわばサーカスを見ているようなイメージです。立体的な音の定位や移動感を存分に楽しんでほしいです。シネマシティの音はライブ感にふった音です。身体に響く音を含めて体感できるような楽しい音になっていると思います」(岩浪音響監督)

 筆者の感想としても、オリジナル音声であるドルビーアトモス版もぜひ見てみたいが、それと同じくらいシネマシティの音も魅力的で、『ニンジャバットマン』にハマってしまった人ならば、聴き逃しはできない音だと感じた。ある意味暴力的とも言える、身体に響くサウンドはここだけのものかもしれない。

 『ニンジャバットマン』は、あらゆる面で型破りで、頭を空っぽにして楽しめる爽快なエンターテイメント作品だ。それと同時に、作画やデザイン、声優の熱演、音楽や音響まで、作り手が大まじめに面白さを追求している作品だとも感じた。ドルビーアトモス版と極上爆音上映の「時空震サウンド」は、当然ながら映画館での上映だけのもの。ぜひともシネマシティに足を運んで、迫力のある音を体験してほしい。

画像: 写真は左から、音響監修した岩浪さん、シネマシティの映写クルーの雨宮さん、シネマシティの遠山さん

写真は左から、音響監修した岩浪さん、シネマシティの映写クルーの雨宮さん、シネマシティの遠山さん

●『ニンジャバットマン』
6月15日より劇場公開中
時空震サウンド/ドルビーアトモスの上映劇場
東京:シネマシティ(時空震サウンド/極上爆音上映)
千葉:イオンシネマ幕張新都心(時空震サウンド/ULTIRA/ドルビーアトモス)
神奈川:川崎チネチッタ(時空震サウンド/LIVE ZOUND)
愛知:イオンシネマ名古屋茶屋(時空震サウンド/ULTIRA/ドルビーアトモス)
愛知:ミッドランドスクエア シネマ(時空震サウンド/ドルビーアトモス)
愛知:安城コロナシネマワールド(時空震サウンド/重震シアター)
京都:イオンシネマ京都桂川(ULTIRA/ドルビーアトモス)
兵庫:アースシネマズ姫路(時空震サウンド/ドルビーアトモス)
岡山:イオンシネマ岡山(ULTIRA/ドルビーアトモス)
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