バンダイナムコアーツから、日本アニメ史上屈指の名作が、6月22日に4Kソフトでリリースされる。ラインナップされるのは、『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』、『機動戦士ガンダム F91』、『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』、『イノセンス』だ。そのリマスター作業やクォリティのインプレッションについては、現在発売中の「月刊HiVi7月号」(https://www.stereosound-store.jp/fs/ssstore/bookshop-ss/3011)に詳しく掲載している。ここでは、発売に先駆けて行なわれたマスコミ向けの上映会で語られた、『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』&『イノセンス』の押井監督や、4Kリマスター作業を行なったキュー・テック担当者のコメントを紹介したい(Stereo Sound ONLINE 編集部)
押井守監督の代表作のひとつであり、国内外で高く評価された『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』(以下『攻殻機動隊』)。オリジナルのマスターポジフィルムを使って4Kリマスターを行なった「『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』4Kリマスターセット(4K ULTRA HD Blu-ray&Blu-ray Disc 2枚組)」(以下、4Kリマスター版)が、6月22日に発売となる。また、本作の続編である『イノセンス』を同梱した「『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』&『イノセンス』4K ULTRA HD Blu-rayセット」も同時発売される。
「『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』4Kリマスターセット(4K ULTRA HD Blu-ray&Blu-ray Disc 2枚組)」
¥9,800(税別) BCQA-0007
発売:バンダイナムコアーツ・講談社・MANGA ENTERTAINMENT
販売:バンダイナムコアーツ
(C)1995 士郎正宗/講談社・バンダイビジュアル・MANGA ENTAERTAINMENT
「『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』&『イノセンス』4K ULTRA HD Blu-rayセット」
¥12,800(税別)
BCQA-0008
販売:バンダイナムコアーツ
『イノセンス』製造元:ウォルト・ディズニー・ジャパン
(C)2004 士郎正宗/講談社・IG,ITNDDTD
発売に先んじて、4Kリマスター版を上映するイベントがマスコミ向けに開かれた。上映会場には視聴用ディスプレイとして、パナソニックの有機ELテレビの最新モデル「TH-65FZ1000」(http://www.stereosound.co.jp/news/article/2018/05/08/67446.html)が用意され、同社の4K ULTRA HD(以下UHD) Blu-ray対応プレーヤーを使って再生が行なわれた。
『攻殻機動隊』は筆者も大好きな作品で、LD、DVD、BDとメディアが変わってもすべて買い集め、何度も見てきた。そんな熱心なファンはかなり多いだろう。デジタルリマスターされたBD版でも劇場公開当時の感触がしっかりと味わえたのだが、4Kリマスターされた映像は、これまでの印象とは大きく異なっていた。情報量が膨大と言えるほどに増えているのだ。特に暗部の再現性には驚かされた。暗部が豊かに再現されることで、暗い室内や雑踏は存在感を増し、そしてより鮮やかになった色彩が作品の舞台となる世界を生き生きと蘇らせていく。高解像度でありながら、ノイズが目立つこともなく、実にスムーズな映像で、この作品を何度も見てきた熱心なファンならば、その情報量の豊かさに驚くことは間違いなしだ。
上映会の後で、押井守監督と、4Kリマスター版の制作を行なったキュー・テックの今塚誠さんが登壇し、この驚きの高画質について解説をしてくれた。
「『イノセンス』はIMAXでも上映され、とても見応えのあるものでした。IMAX版は決して多くの人が見たわけではありませんから、それを見ていない人にはぜひ4Kリマスター版を見てもらいたいですね。4K化にためらいはなかったですし、うれしかったですよ。」(押井守監督)
一方、『攻殻機動隊』はアナログ制作のフィルム作品だ。押井監督曰く、制作時には、映像のレイアウト設計を重視したため作画のスケジュールはかなり圧迫されたそうで、やり残したと感じるカットなどもあるし、23年も前の作品ということで「4K化することには不安もあった」という。しかし、出来上がった4Kリマスター版は思っていたよりずっと良く、「フィルムが持つ想像を超える情報量、その“魔法の力”を引き出している」と語っていた。
「動きの面白さを追求したアニメは、極端な話、画質は問いません。しかし、僕の作品のような、緻密な情報を盛り込んで密度の高さで勝負するものでは、4Kの高画質が生きてきます。『攻殻機動隊』の4Kリマスター版は、監督として、しっくりくる出来に仕上がっています」(押井監督)
色再現は忠実に、しかし透過光などの効果は積極的に光らせる
今度は4Kリマスターの作業を行なったキュー・テックの今塚誠さんに、より技術的な解説をしていただいた。
作業としては、まずフィルムを5K解像度でスキャンし、フィルムの傷やゴミを除去するといった修復作業を4K解像度で行なう。これについては、明らかなキズやゴミは除去するが、フィルムグレイン(粒子感)については、フィルムの質感を残すために適度に残しているという。
「フィルムスキャナーは、レーザーグラフィックス社のスキャンステーションを使い、5K/16bitで行ないました。35mmフィルムの情報量をほぼすべて取り込むことのできる解像度です。従来のHDテレシネと比べても、フィルムグレインの見え方や暗部の階調表現も大きく変わっています。フィルムのグレイン(粒子感)については、きれいに消してしまうと不自然になりますから、あえて残しています。ただし、残し過ぎても見づらくなりますので、カットごとに補正を加えました。グレインやノイズの見え方も、暗部や高輝度の部分、彩度の高い色などで変わってくるので、それぞれが同じ見え方になるように調整しています」(今塚氏)
続いて最終的にカラー(色味)や階調の補正などを行なうグレーディング作業に移る。暗部の再現性は、このグレーディング工程での調整具合が大きいようだ。
「アニメ作品のHDRグレーディングでは、色彩を変化させないことがまず重要です。アニメの制作では、厳密な色彩設計が行なわれていることあり、それを変えてしまうのは他のアニメ作品も含めて好まれないからです。つまり、色彩を変えずに、高輝度の部分はより強く出すことが大事になります。特に、アニメの透過光は色で作った輝きではなく、リアルな光ですから、HDRではしっかりと再現されます。暗部の階調もより良いディテイル感を再現するために、監督にご確認頂き、微調整を行ないました」(今塚氏)
高輝度で表現したい部分だけを光らせる場合、他の部分の色彩を変えないためには、光らせたい部分だけを抜き出すマスクを新たに作って処理を行なうという、手間をかけたカットも少なくないそうだ。
また、色彩そのものはオリジナル(フィルム)に忠実なものとなっており、特にUHD Blu-rayでは再現できる色域(色の範囲)が従来(DVDやBD)の2倍以上にもなり、今までは出しにくかったシアンやブルー系の発色がかなり良好になっているという。
なお、4Kリマスターの現場では、様々なモニター/テレビで映像をチェックしたそうだ。特に、有機ELテレビは視野角の影響が少ないので使いやすく、今回の上映会で使用したパナソニックの「TH-65FZ1000」も、制作時に確認した通りの映像が再現できていたという。作り手が意図した通りの映像をそのまま見るという意味では、有機ELテレビは大きく優位にあると言えそうだ。
音声のリニューアルもやりたかった!? 今後の展開にも期待したい
音声については、『攻殻機動隊』はドルビーサラウンド(アナログの3-1方式によるサラウンド方式)音声をそのままデジタル化したリニアPCM収録。『イノセンス』はオリジナルの6.1ch音声をDTS:Xで収録している。基本的にサウンドはオリジナルのままだ。
しかし、押井監督は可能ならばサウンドのリミックスもやってみたかったとか。
「劇場版のパトレイバーでサウンドリミックスをしたことがありますが、音声のリニューアルはかなり面白いので、チャンスがあれば他の作品でもやりたいです。『スカイ・クロラ』はぜひともドルビーアトモス化してみたいですね」(押井監督)
4Kリマスターにも大きな期待を持っており、制作当時かなり黒の再現にこだわったという『天使のたまご』(1985)は、ぜひとも4K化したいとか。今回の『攻殻機動隊』4Kリマスター版が好評で、セールスも良ければもしかして? ファンならばぜひとも応援したいところだ。
フィルムで制作された作品のUHD Blu-ray化は、4Kの高解像をフルに活かし、フィルムの情報量をあますことなく再現できる。これは実写作品ばかりでなく、アニメ作品でも同様だ。これからの名作のUHD Blu-ray化にも期待がかかるが、まずは『攻殻機動隊』のUHD Blu-rayで、その映像を体験してみてほしい。年季の入ったファンならば、当時の思い出が蘇るし、若い人ならば20年以上も前の作品とは思えない映像に驚くはず。この機会にUHD Blu-rayの真の実力を堪能してみよう。