コロナ禍で行われた無観客での東京2020オリンピック。その中で制作された公式映画『東京2020オリンピック SIDE:A/SIDE:B』。東京2020オリンピックでの競技数は33競技339種目。その公式映画の音響収録を担当された技術スタッフは、カメラマン(カメラマイク)を含めて延べ100人。その競技を記録した収録データも膨大な量で、音声データ(48kHz/24bit)だけで、なんと5.8TBにも及ぶ。
コロナ禍における様々な制約の中で、膨大な収録とミックスはどのように行われたのだろうか。ここでは、『東京2020オリンピック SIDE:A/SIDE:B』で、Supervising Sound Designerのロマン・ディムニー氏と、Production Sound Mixerの冨田和彦氏、Re-recording Mixerの藤林 繁氏に伺った。

体操競技の収録

 映画で、プロダクション・サウンド・ミキサーとしてクレジットされている冨田和彦氏は、当初は収録プランニングにも参加されていた。

PROSOUND(以下:PS) オリンピック映画の音響制作には、どれくらいの方が携わっていたのですか。

冨田和彦氏
映画、テレビドラマの録音エンジニア
主な映画作品は、『万引き家族』、『三度目の殺人』など。
『東京2020オリンピック SIDE:A/SIDE:B』では、Production Sound Mixerとして、主に体操会場の収録を担当

 

冨田 録音だけでも、ものすごい人数ですね。カメラマン(カメラマイクを使用)と録音部だけで延べ100人ぐらいです。

PS 冨田さんが担当されたのはどの部門ですか。

冨田 延期する前の2020年の時は僕が窓口みたいになって、機材のアレンジとか、どのように録ったらいいのかとか、制作のプロデューサーの方とお話してました。しかし、直前に延期になってしまって、2021年は僕のスケジュールの都合とかもあって、藤本賢一さん(Production Sound Mixer)にお願いして、僕はほぼ体操競技会場だけの収録を担当しました。

PS 収録プランはどのように考えられたのですか。

冨田 当初、どういうマイクがいいとか、どういう録音機にしたらいいのかとか、プランニングしました。競技によって目指すところは全然違いますが、まずは、5.1ch仕上げを考慮しました。映画の世界とかだと、ガンマイクを3本立ててLCRで録ったりしますが、それだと大きくなってしまうので、収録エリアが限られていましたから、ワンポイントの1本で360°録れるマイクロフォンがいいなと思って、アンビソニックス・マイクロフォンで臨場感が出るものを用意しようと考えました。SennheiserのAMBEO VRマイクは、以前テストした時に好印象だったので、最初から考えていました。ただ、AMBEO VRマイクは、広がりの環境音の収録が向いているので、マイクがもう1本必要ということで、ワンポイントで、しかも変換してステレオも録れるし、そのままショットガンマイクにもなるし、ユニット自体は定番のSennheiser MKH 416とほぼ一緒なので、MSも可能なMKH 418-Sも必要だと考えていました。

 

体操競技会場の収録
固定でセッティングされた時のSennheiser AMBEO VRとMKH 418-Sマイクロフォン

 

PS レコーダーはどのように選定されましたか。

冨田 フィールドレコーダーは、タイムコード対応ということと、AMBEO VRマイクの録音フォーマットは4chで、MKH 418-Sの2chを入れると計6chが必要ということで、さらに台数もある程度用意しなくてはならなかったので、ZOOMのF6にしました。それから、収録エリアが限られていたので、色々なところに仕込むために小型のハンディレコーダー(LTCで対応)も用意しました。

PS コロナ禍ということで、音声収録に制約はありましたか。

冨田 公式記録映画ですので、米NBC(National Broadcasting Company)、NHK、OBS(オリンピック放送機構)とは、別の収録になりますが、とにかく感染対策で、すごく厳しかったです。FOP(競技エリア)に入れる人数が限られていて、例えば、競技を終えてインタビューするのも人数が限られていて、録音チームがほとんど行けなくて、カメラマンとディレクターだけで、マイクをマイクスタンドに置いて録る感じでした。

 体操競技会場の収録エリアはおよそ2畳ほどに限られていて、許可の関係でそこにいられない場合もあったり、AMBEO VRマイクとMSマイクを固定して置いたり、その場所にいられる場合はMKH 418-Sをブームで追いかけたりしました。

PS モニターはどのようにされましたか。

冨田 ZOOMのF6は、AMBEOフォーマットのヘッドフォンモニターができます。ただ、AMBEO VRの音は一旦レベルを決めたら常時モニターする感じではないので、モニタリングの主はMKH 418-Sの方です。

 

マラソンと競歩競技の収録

 映画で、リ・レコーディング・ミキサーとしてクレジットされている藤林繁氏は、北海道でのマラソンと競歩の収録も担当されていた。

PS 藤林さんはどのようなシステムで収録されたのですか。

藤林 現場では、おのおのが自分の機材を使っていました。僕はほとんどひとりで歩き回っていたので、何かを見つけたら録るみたいな感じで、ZOOMのF8nが多かったです。それ以外にもZOOM F1やF2-BTという小型のレコーダーも使いました。マイクはRODEのNTG3とSONYのステレオマイクです。

PS マラソンと競歩の収録はどんな感じでしたか。

 

藤林繁氏
映画、テレビ他映像作品の録音・整音エンジニア
主な作品は、劇映画『FUNNY BUNNY』、TVドラマ『岸辺露伴は動かない(第2期)』など。
『東京2020オリンピック SIDE:A/SIDE:B』では、Re-recording Mixerとしてサウンド編集とダビングを担当。マラソン・競歩の収録も担当

 

藤林 マラソンは、札幌市内の大通公園の前からスタートして、北海道大学構内を3周してゴールというコースでした。あの時はメインのカメラマンとディレクターがいたので、3人のセットで色々なところを回りました。スタート時はスタート地点に入って、車が使えないので走って追いかけました。ショートカットして、次のポイントへ行って選手を待ち受けたりとか、あとは街頭へ出て無観客とはいえ人が来ているのでインタビューしたりとか、1位の人がゴールする時にはゴールに戻ったりとか、色々なところで収録しました。

 女子マラソンは、開始時間が1時間早まるというハプニングもありました。前日の緊急会議室に、その装備で突然呼ばれて。階段を駆け上がって、すぐに会議が始まって、その時はもう手に持っているもので何とかするしかないみたいな。手持ちのピンマイクを椅子に貼り付けたり、ステレオのマイクを壁際に置いたり、カメラマイクもありましたから、喋っている人をガンマイクで追いかけたりもしました。

PS 藤林さんは、ほかの会場では収録されなかったのですか。

藤林 北海道だけです。個人的には色々と回りましたけれど、スタジアムに行ってもスタンドに入れないので、周りをぐるぐる回って夜の蝉を録ったりとか、お台場の聖火もどんな音がしているんだろうと思って、ガンマイクを持って聖火の前に立っていたら、すぐに係の人が来て、「何してるんですか」という感じで、規制が非常に厳しかったです。

 

マラソンのスタート地点の収録 RODE NTG3マイクロフォン

 

ポストプロダクションへの過程

PS 各競技会場で収録された音声データは、どのようにされたのですか。

藤林 東京チームの録音データは、毎日、IMAGICAに集められました。毎日ひとりあたり60GBとかというデータが上がってきたので、トータルでものすごい量になりました。ぼくが扱っていた音声データは、トータルで5.8TBぐらいで、48kHz/24bitなので、仮にモノラルで時間換算すると10000時間強という莫大な量になります。

 AMBEO VRマイクの音は、現場に入ったらすぐに全RECで、バラシが始まるまでずっと録っておくみたいな感じでした。全部録るとなると、パラボラなどもあったり、チャンネル数はさらに増えます。

PS その莫大な音声データは、どのように編集されたのですか。

藤林 映像の編集で、映像と音をバラバラの状態で編集を始めてしまうと、巨大な量を考えると、戻すことはほぼ不可能なので、とにかく編集をする前に、録音部から来た音と映像を全部合わせた状態から編集を始めてくれるようにお願いしました。その映像全部に合わせていくという作業があったので、それが2カ月ぐらい、5、6人で大会中からずっとやっていましたので、編集の合わせチームはすごく大変だったと思います。

PS AMBEO VRマイクの録音は、AMBEO Aフォーマットでしょうから、変換はどのようにされたのですか。

藤林 変換はまだ先ですね。編集して映像が決まってから音を全部差し替えましたが、その時もずっとAフォーマットのままでやっていて、特にサイドAの方は、だいたいAMBEO VRマイクとMKH418-Sの音が並んでいて、シーンによってそのバランスを変えたりとか、AMBEO VRの広がりを変えたりとかっていうのはロマンさんがずっとやっていました。

PS ポスプロはどのように行われたのですか。

藤林 ポスプロは、まず音声の差し替え作業がありました。編集部での映像の編集が終わると、音声をオリジナルの音声に差し替えるという作業が膨大にありました。これは、ロマンさんと僕と一坂早希さんがメインで行いました。それに山口満大さんにも時々ですが、手を貸してもらいました。音声は莫大な量でしたので、5.8 TBの素材のハードディスクを何個か作って、それを各々に渡しておいて、それ以外の映像とかAAFとか、Pro Toolsのセッションとかを、Dropboxの中で作業しました。これはロマンさんの提案でもあったのですが、僕は自宅からリモートで音を編集して、ロマンさんと一坂さんは東映の別々の部屋で、山口さんも自宅で、Dropboxを仲介して作業が進んでいった感じでした。

 

映画のポストプロダクション

PS ポストプロダクションは、Supervising Sound Designerとして、ロマン・ディムニー氏が担当されていた。ロマン・ディムニー氏は、収録から、編集、ダビング、ミックスと、すべてをひとりでこなしてしまうサウンド・エンジニアで、今回も全てにかかわる予定だったそうだが、コロナ禍で予定が変わってしまったそうだ。

PS この映画では何を担当されましたか。

ロマン・ディムニー(以下:R. Dymny) 音の編集からダビング、ファイナルミキシングまで手がけました。サイドAで藤林サン、一坂サン、サイドBでティボー・マッカールというクルーと行いました。

 

東映デジタルセンターのダビングステージDUB2でのロマン・ディムニー氏(右)とティボー・マッカール氏

画像: 東京2020オリンピック公式映画の音響制作。アンビソニックス・マイクロフォンが活躍【FILM SOUND PRODUCTION by PROSOUND】

ロマン・ディムニー氏(Roman Dymny)
ロケーション収録から、サウンド編集、ファイナルミックスまで手がける独特のスタイルのサウンド・エンジニア。日本やベトナムなど、アジアの監督と国際共同制作も多い。主な作品は、『Timbuktu by Abderrahmane Sissako』、『Asa Ga Kuru by Naomi Kawase』、『The Velvet Queen, by Marie Amiguet and Vincent Munier』など。
『東京2020オリンピック SIDE:A/SIDE:B』では、Supervising Sound Designerとして、編集、ダビング、ファイナルミックスを担当

 

ティボー・マッカール氏(Thibaut Macquart)
映画のサウンド編集、サウンド・エンジニア
主な作品は、『La nuit a dévoré le monde』、『Irma Vep』、『As Mil e Uma Noites - Volume 2: O Desolado』など。
『東京2020オリンピック SIDE:B』では、Re-recording Mixerとして、ダビングとミックスを担当

 

 

PS 河瀨直美監督から、この映画の音について、最初にどのような要望がありましたか。

R. Dymny 河瀨監督は、撮影した人物に寄り添うような映画にしたかったのです。映画はクローズアップを多用して撮影されます。そのため、音は彼らに近づき、彼らの気持ちに寄り添い、表情の細部にまで迫り、彼らの精神状態や感情を表現しなければなりませんでした。また、特別な瞬間、スポーツのパフォーマンス、選手や組織のスタッフの感情などに観客の注意を引きつけること。そして、私たちの提案に応えて、より深くこの方向性を追求するために、音の差し替えや追加を要求していました。

PS 主な競技会場が無観客でしたが、最初に、どのようなサウンド・デザインにしようと思いましたか。

R. Dymny フランスからニュースを追っていました。当初は2020年夏にクルーに参加する予定でしたが、できませんでした。その後、新型コロナの状況の推移を追いかけました。そして、2021年夏のオリンピック期間には、ついにクルーに参加することができませんでした。しかし、撮影の進展は知らされていました。残念ながら、サウンドテイクの技術的な部分のシューティングには参加できませんでした。しかし、その選択は素晴らしく、撮影の組織が課す制約(カメラや音響機材は特定の場所に置かなければならず、会場内を動くことができない)に抵抗するものでした。

 その後、フランスでインターネットで送られてきた音のサンプルを聴き、その後訪日した際に収録された全メディアにアクセスすることができました。幸いメディアの構成は非常に明快だったおかげで必要な素材を探し出すことができたのですが、もちろんすべてを聴く時間はありません。そのため、様々なイベントの録音の中から、面白い瞬間を見つけなければなりませんでした。また、試合前に収録されたもの、予選大会のもの、トレーニングのものなどもたくさんありました。その中には、とてもいい音で録音されているものもあるので、それらをすべて探し出し、ベストな瞬間を選び出すようにしました。

PS 今回の音の収録は、かなり制約があったとお聞きしましたが、収録クルーからは、どのような音素材が届いたのですか。

R. Dymny 彼らはマイクを置く場所も自由に選べませんでした。交渉が難航し、後から変更することはできなかったようです。大会の期間中、ずっと録音されていたのですが、マイクの位置はあまり変わりませんでした。そのため、ほとんどの録音で距離感は非常に似通っていました。マイクの前で面白い瞬間が起こることもありましたが、マイクが遠すぎることも多々ありました。しかし、音の厚みや奥行きを出すためには、映像の視点に合わせて、近くから音を聴き、遠くから音を聴くという距離の遊びが重要なので、全てのカメラに付いているカメラマイクを全て探り、そのマイクからの音も多く使っています。

 また、会場では音楽が流れていたのですが、音楽著作権の関係で使用することができませんでした。そこで、音楽がない、あるいは音楽が特定されない瞬間で、会場の雰囲気や、イベントをサポートするスタッフや選手から聴こえてくる音を聴き取ることができる瞬間を探さなければなりませんでした。

PS 収録クルーからの音を聴いた時は、どのように思われましたか。

R. Dymny いい音、いい瞬間がたくさんある一方で、膨大な量の素材、たくさんの音楽もありました。そのため、適切な瞬間を見つけるのが難しいこともありました。でも、経験を積んでいくうちに、面白い音をたくさん見つけることができるようになりました。

 しかし、オリンピック前に収録された素材にアクセスできたのは素晴らしいことで、異なるサウンド・エンジニアがマイクの配置を変えたり、アクションに近づいたりして試すことができました。その結果、最終的なサウンド編集に深みを持たせることができました。

PS AMBEO VRマイクの環境音を聴かれて、どう思いましたか。

R. Dymny 瞬時に空間感、音に厚みが出てきました。もちろん、使うたびに調整が必要ですが。扱いも簡単で、イメージ通りに調整することができました。デコードの自動化のおかげで、音の空間的な聴き位置を再調整することができ、同じテイクの中で違う向きに音を出すことも可能でした。これは、映画の観客に、その場所に入り込んでいるような感覚を与えるのに、とても役立ちました。普段はABステレオ方式とORTFステレオ方式マイクやサラウンド用の複数間隔のマイクを使用していますが、AMBEO VRマイクの録音から得られる空間感覚に驚き、その感覚を修正・調整できることに感謝しています。

 もちろん、調整には限界があるので、最終的には他のマイクや他の録音を編集に加える必要がありました。しかし、AMBEO VRマイクのおかげで、様々な瞬間に5.1chのベースを作ることができ、とても興味深かったです。

PS 映画の中で、AMBEO VRマイクの音は、どのような位置づけになりますか。

R. Dymny ほぼ全てのスポーツシーンでAMBEO VRマイクの音が使用されており、オープニングやクロージングセレモニーでも5.1chをベースにしたサウンドが使用されています。そして、他のマイクを使って、ショット間のコントラスト、近い音、異なるパースペクティブをもたらしました。空手、柔道、プール、アスリート、バドミントンのロケで、観客(実際にはそこにいることが許された少数の観客)、その場にいる感覚、その場所の空間感覚をもたらすのに大いに役立っています。ミックスして、これらのシーンの音のバックボーンとしています。

PS ロマンさんが、今後、ドキュメンタリー映画を収録されるとしたら、AMBEO VRマイクを使っていきたいですか。

R. Dymny 確かに、実際に買ってみようかな。ドキュメンタリーの音声収録は、時にはとても慌ただしく、素早く移動したり、風の強い場所で屋内から屋外へ移動したりする必要があります。だから、マイクにはとても優れたサスペンションと、扱いやすい風防が必要なのです。特にこのマイクの場合、通常は音声を録音するメインマイクにはならないので、バックパックに入れたり、小型のレコーダーと一緒にリモートスタンドにつけたりすることになるでしょう。

PS 東映デジタルセンターでのダビング、ファイナルミックスでは、どのようなアウトボード機材を使われましたか。

R. Dymny 映画とサウンドテイクのセットアップは、すべてPro Toolsの中に入っています。モノラルトラック、ステレオトラック、MSトラック、アンビソニックストラックがありました。オリジナル音源をDear VR MicroでBフォーマットに変換してからRODE Sound Fieldプラグインで5.1chに変換しています。声の処理はすべてPro Toolsのプラグインで行いました(コンプレッション、マルチバンドコンプレッション、ノイズ除去、EQ、ダイナミックEQなど)。

 

画像: 東映デジタルセンターのダビングステージDUB2でダビング中のロマン・ディムニー氏とティボー・マッカール氏(手前)

東映デジタルセンターのダビングステージDUB2でダビング中のロマン・ディムニー氏とティボー・マッカール氏(手前)

画像: ダビングステージDUB2でのロマン・ディムニー氏使用のPro Toolsとプラグイン

ダビングステージDUB2でのロマン・ディムニー氏使用のPro Toolsとプラグイン

画像: ダビングステージDUB2でのティボー・マッカール氏使用のPro Toolsとプラグイン

ダビングステージDUB2でのティボー・マッカール氏使用のPro Toolsとプラグイン

PS サイドBのダビングで、隣にいらしたティボー・マックアールさんは何を担当されていたのですか。

R. Dymny サイドAを完成させた時点で、スケジュールはかなりタイトになっていました。サイドBのミキシングを始めなければならないのですが、まだほとんどのムービーでサウンド編集が進行中でした。音響編集、映像編集の変更、サウンドミキシングを同時にこなさなければならないので、もうひとり必要でした。

 最終的なミキシングはティボー・マックアールが手伝ってくれることになり、映画のさまざまな部分を同時に進めることができました。時間通りに仕上げるために、2台のミキシングマシンを使って同じミキシングセッションを行いました。つまり、最初の10分を1台のミキサーで、次の10分を2台目のミキサーで、そしてまた1台目のミキサーで、というように。2台のミキシングマシンは、最終的に同じレコーダーに録音していました。サイドBのミックスでは1台のマシンでヘッドフォンを使ってシーケンスのミックスを準備し、もう1台のマシンでスタジオのモニターシステムを使って別のシーケンスをミックスし、他のスタッフが新しいシーケンスを編集している間、ミックスの準備をすることができました。

PS この映画では、どのような部分を大切にしてファイナルミックスされましたか。また、ファイナルミックスで心がけていることは、どんなところでしょうか。

R. Dymny 観客には、撮影された選手や人々を身近に感じてほしかったのです。もちろん、インタビューはとても重要で(特にサイドB)、言葉をはっきりと聴き取ることが最優先でした。しかし、それだけではなく、実際の環境では聴こえないような細かい音(距離が離れていたり、観客が騒いでいたり)を聴いてほしかった。通常、スポーツイベントの音では、選手の息づかいや細かい動きなどは聴こえないものです。今回のオリンピックでは観客が限られていたため、より静かな会場となり、そのような細かい音が聴こえる可能性が出てきたのです。

PS 最後に、この映画をまだ見ていない方に、豊富をお願いできますか。

R. Dymny この映画では、様々なアスリートがオリンピックに参加する動機や夢を身近に感じることができます。また、アスリートの背後にいる「人」に焦点を当てることで、スポーツイベントに対する珍しい視点も多く持っています。

 サイドBは、オリンピックを実現した人たちに焦点を当て、彼らのモチベーションや乗り越えなければならない困難について描いています。

 サウンド面でも、アスリートやその努力に寄り添い、スポーツサウンドを別の角度から見ることができる作品です。

 

画像: DEAR VR AMBI MICROプラグイン Sennheiser AMBEO Aフォーマット入力をBフォーマット(AmbiX)に変換

DEAR VR AMBI MICROプラグイン
Sennheiser AMBEO Aフォーマット入力をBフォーマット(AmbiX)に変換

画像: RODE Sound Fieldプラグイン Bフォーマット(AmbiX)を5.1chに変換

RODE Sound Fieldプラグイン Bフォーマット(AmbiX)を5.1chに変換

画像: AMBEO VRとMKH 418-Sマイクのトラック。AMBEO VRの音が数多く使われている

AMBEO VRとMKH 418-Sマイクのトラック。AMBEO VRの音が数多く使われている

 

オリンピック公式映画を担当されての感想

PS 最後に、オリンピック公式映画を担当されての感想をいただけますか。

冨田 今回の収録で、アスリートって本当に精神力がすごいなと思いました。それもフィジカルだけではなくて、メンタルがすごいなって思いました。それを間近で見られたというのがすごく面白かったです。その音を捉えられたのが良かったです。無観客で、その静かなシーンとしてるというのも、競技の音が響いてるというのも、コロナ禍でしかあり得ないから、それはそれで通常では経験できないことでした。いい経験になりました。

藤林 データ容量も、チームの数も、これほどまで大きなものは今後はやることはないだろうなという、やってすごく良かったけれども、この経験を次にいつ生かせるかなといううれしい不安もありますね。それはロマンさんたちとも、職域がすごい何かゆるい中でやったことも、普段は全部かかわらないので楽しかったです。今回の映画の場合、録音って、基本、セリフを録ってというのが、主になるのとは違って、もうちょっと引いた目線で、音全体をどうするかという発想を、しかも結構長いこと、半年以上やっていたので、それはとても面白かったです。

PS もう上映は終わってしまったようですが、パッケージのミックスもされましたか。

藤林 ええ、いわゆるパッケージ向けのミックスはやっているので、それがネットとかBlu-rayとかという形には絶対なると思っています。

PS 5.1chですか。

藤林 5.1chサラウンドですね。

PS 楽しみにしています。

 

最後に

 冨田氏は、すでに、ほかの映画でもAMBEO VRマイクを使われているということだ。

PS AMBEO VRはもう別の映画でも使われているのですか。

冨田 そうですね。映画のアンビエンスでワンポイントでパッと録れるのがいいですね。室内で、大きい声で、セリフを言ってる時とかの空間のアンビエンス成分とか。あと、僕らはガヤって言うんですけど、人がいっぱいいる時のその会話している広がり感とか。室内空間だけではなくて、外でも、例えば森の中での鳥のさえずりとかの環境音としても、すごくいいいですね。それから、チャンネル数が少ないのに後処理で変えられるというのもすごいです。AMBEO VRの録音は4chですが、5.1chとか、7.1.4chとか、Dolby Atmosにも対応できるので、フォーマットに縛られないで、後処理で変えられるというのはすごいメリットだと思います。

 冨田氏をはじめとして、冨田氏のエンジニア仲間も、AMBEO VRをすでに5、6人が購入されたそうである。今後、どのようなAMBEO VRマイクの音を使った映画が出てくるのかも楽しみである。

 

アンビソニックス・マイクロフォン

 アンビソニックス方式とは、全周360°で空間の音全体を録音し、それを再現する技術。従来のステレオで得られる左右の音だけではなく、上下、前後までをも含むサラウンドを収録・再現することができる。

 Sennheiser AMBEO VRマイクロフォンは、これ1本でアンビソニックス方式の録音を可能にしている。AMBEO VRマイクには4面体に配置された4つの単一指向性カプセルが取り付けられており、それぞれのカプセルが集音する音声をアンビソニックスのAフォーマットと呼ばれる信号で出力する。Aフォーマット信号で記録されたものはそのままではアンビソニックスとして取り扱えないため、Bフォーマットへ変換する必要があり、AMBEO A-Bフォーマットコンバーター(無償提供プラグイン)が用意されている。これを使用して、アンビソニックスのBフォーマットへと変換。Bフォーマット信号からサラウンド・イマーシブなどの信号を取り出すデコード・プラグインは、多くのメーカーから無償・有償のものが提供されている。

 このアンビソニックス技術により、AMBEO VRマイクは1本で、機動力・柔軟性に優れたステレオ・サラウンド・イマーシブと各種フォーマットに対応する環境音などの収録・再現を可能にしている。

 因みに、今回の東京2020オリンピック公式映画では、ほぼ全編にわたり、AMBEO VRマイクのサウンドが使われていた。

画像: Sennheiser AMBEO VRマイクロフォン

Sennheiser AMBEO VRマイクロフォン

Sennheiser Webサイト

 

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