オーディオ機器の性能を引き出すうえで、電源はどのような役割を果たすのか。電源関連アイテムの専業メーカー、IsoTek(アイソテック)のCEOであり創業者のキース・マーティンさんが10月23日から開催された東京インターナショナルオーディオショウに参加するために来日。電源専業メーカーとしての歩みと、新製品であるV5 GENESIS、V5 SUPER TITANの設計思想について単独インタビューに応じてもらった。
電源をシステムの一部として考える
ーーIsoTekを立ち上げた当初、どのような製品を作ろうと考えていたのでしょうか。
キース・マーティンさん(以下、略) ブランド名のIsoTekは「Isolation Technology」に由来します。家庭内のノイズからシステム全体を守るだけでなく、接続された機器が電源ラインへ出すノイズによって、ほかの機器が影響を受けることも抑えたい、ということからの命名です。われわれは創業以来25年に渡って、電源製品を単なるアクセサリーではなく、オーディオシステムを構成するコンポーネントとして設計してきました。そのような考えの下、創業時は、まずは電源タップではなく、ラックマウントスタイルの筐体に複数の電源のクリーンアップ回路を搭載した製品を作りました。ひとつの回路で複数のコンセントをまとめて処理するのではなく、それぞれの出力に独立した回路を設ける考え方を適用した製品を作ったのです。ご存知かとは思いますが、その後は様々な電源関連アイテムをお届けてしています。
残念なことではありますが、創業した25年前から考えると、電源環境は極めて劣悪な状況になっています。具体例を挙げてみましょう。いま私たちにとって、Wi-FiやBluetoothなどのスマホやパソコンに代表される数々の無線通信機器が欠かせない存在になっていますね。また冷蔵庫や照明器具など、スイッチング電源を使う機器に囲まれて、日々の暮らしをしているといってもよいと思います。
いっぽうでそれらは、オーディオ機器やオーディオビジュアル機器には悪影響をもたらします。Wi-FiやBluetoothなどの電波によって発生する「コモンモードノイズ」は、正しくシールド処理していない電源ケーブルがアンテナの役割を果たすため、、オーディオ機器やオーディオビジュアル機器の電源へノイズを混入させるです。
スイッチング電源の影響は、「ディファレンシャル(差動)モードノイズ」と呼ばれ、壁の電源コンセントからオーディオ機器、オーディオビジュアル機器の電源への悪影響をもたらします。RFI(Radio Frequency Interference)などと呼ばれるノイズです。
つまり家庭内で使われる機器や通信環境が増え、電力網への負荷が高まっているのが現状です。こうした環境が電源にどのような影響を与えるかは、今後も重要なテーマになるでしょう。
夕方と夜で音の印象が違うと感じることがありますよね。私たちは、家庭で使われる電気機器が増える時間帯には、電源ラインの状態も変化し得ると考えています。その影響でオーディオ機器のパフォーマンスも変わるのだと思います。ここではっきり申し上げたいのは、電源こそ、オーディオシステムにおける「スタート点」というべき入力なのです。電源はオーディオシステム、オーディオビジュアルシステムの一部と考えるべき存在と見做すべきなのです。
昨日(10月24日)のナスペックブースで行なった講演では、電源ラインに伝わる、この2つのノイズ、「ディファレンシャルモードノイズ」と「コモンモードノイズ」の影響と、われわれの機器がそれらのノイズからの影響を抑え、効果的に音質を改善するかについてのデモを行ないました。

ナスペックブースで行なわれたIsoTekのデモの様子

IsoTek Brand Founder / CEO Keith Martin(キース・マーティン)さん。日本のオーディオファン向けデモのために来日された
ーー講演では、電源機器を入れ替えながら試聴する実験を行ないましたね。
最初は壁コンセントから一般的な電源タップを介して電源を取り、プレイバック・デザインズのディスクプレーヤーからプリアンプ、プライマーのモノラルパワーアンプ、モニターオーディオのPL300-5Gスピーカーなどを使って再生しました。その後、ソース機器とプリアンプにはV5 SIGMASをパワーアンプにはV5 TITANを用いて音の変化を体験していただきました。さらに、新製品であるV5 GENESISとV5 SUPER TITANとに入れ替えて試聴していただきました。
ーー昨日の講演をお聴きしましたが、音の変化が非常に明確だと感じました。
ありがとうございました。講演では、個人的な印象として、音がより開放的になる、細部が聴き取りやすくなる、低音が引き締まり、音場の広がりや定位が変わる、といった感想を述べましたがいかがでしたか。アンプやスピーカー、音量などを変えず、単純に電源機器を入れ替えて音の比較を行ない、その変化をお客様にご確認いただきました。こうしたイベントの場では変化は微妙過ぎて、分かりづらいことが多いのですが、今回は明瞭な音の違いが現われたのではないでしょうか。いずれにしても、最終的には、ご自身のシステムで試して判断していただくことが大切だと考えます。
V5 SIGMASは7つの出力コンセントを備え、それぞれに独立した電源クリーンアップ回路を持ちます。うち3系統はパワーアンプやサブウーファーなど大電流を必要とする機器向け、残る4系統はCDプレーヤー、ネットワークプレーヤー、コントロールアンプなど、比較的小電流を扱う機器に向けた構成です。出力ごとに回路を分けることで、接続機器どうしのノイズの影響を抑えることを目指しています。

写真最下段の3つのアイテムがIsoTekの電源アイテム。左からV5 GENESIS、EVO3 NOVA、V5 SIGMASとなる
V5 GENESIS 上流機器向け超弩級電源ジェネレーター
ーー電源のデモでお使いになった2つの新製品の話をお聞かせください。まずV5 GENESISは、どのような製品ですか。
V5 GENSISは、「ジェネシス(日本語で創世記、起源)」というネーミングの通り、ゼロからクリーンな電源を生み出す役割を持った電源ジェネレーターです。上流側の機器に対して、安定した電圧と周波数、歪みの少ない電源を供給することを目指した製品となります。コントロールアンプやソース機器など、システムの上流側にあるコンポーネント向けのアイテムで、いわゆるアクティブ型の電源機器で正弦波を作り出します。別の言い方をすると、V5 GENESISはパワーアンプのような大電流向けの電源アイテムではありません。
V5 GENESISはコンセントから得られた交流から直流にいったん変換したうで、2基のクラスAB動作の300W出力のアンプ、ーーこれをわれわれは「セル」と呼んでいますがーー、を使って合計600Wの正弦波を連続的に生成します。全高調波歪率は0.05%と極めて低く、RFIノイズの除去は85dBに達します。
ーー発電セルを2基に分ける利点は何でしょうか。
2つのセルが互いに独立し、完全に絶縁されることで、信号歪みや機器間の相互汚染を抑えることが可能になります。片方のセルに接続した機器を使っていない場合は、そのセルだけを停止できるため、消費電力を抑えられるというメリットもあります。
出力コンセントは4口で、各出力は個別に絶縁されています。前面ディスプレイには、入力・出力電圧、入力・出力の高調波歪み率、接続機器の消費電力、発電セルの稼働状態も表示されます。
ーー電圧や歪みはどのように管理されるのでしょうか。
出力電圧を100V±2%に維持し、入力電源の品質に左右されない「完全なカーブ」の正弦波を生成します。一般的な負荷で高調波歪率は0.05~0.17%、複雑な負荷でも0.3%を大きく下回るスペックを備えています。極端な電圧変動をマイクロ秒単位で測定し、回路を調整する保護機能の搭載も特徴です。

V5 GENESIS。東京インターナショナルオーディオショウ直前に日本に到着したばかりの新製品とのことだ
V5 SUPER TITAN パワーアンプなど大電流を要する機器に最適
ーーパワーアンプ向けのアイテムとしては、パッシブ型のV5 SUPER TITANが用意されているわけですね。
はい、そのとおりです。パワーアンプ向けの電源アイテムには、大きな電流を供給できることと、低いインピーダンスのスピーカー再生時での安定した動作のが求められます。ソース機器向けのV5 GENESISとは必要な特性が異なります。IsoTekでは、同じ方式で全てのコンポーネントに対応しようとは考えていません。
V5 SUPER TITANは、従来のEVO3 SUPER TITANに比べて電流供給能力が2倍という非常に大きな改善を実現したパッシブタイプの電源アイテムです。基板上の銅箔量は3倍に増やし、7段フィルター回路を4系統組み合わせた32A対応の「Direct-Coupled回路」も専用部品を使って強化し、連続負荷で約8,000Wの供給能力を備えています。その結果、コンモードノイズとディファレンシャルモードノイズに対して、それぞれ約85dBもの低減を実現しました。
V5 SUPER TITANでは、大型のパワーアンプ、モノーラルパワーアンプ、アクティブスピーカー、大型サブウーファー向けの大電流出力を4口備えます。System Linkという専用端子で、V5 GENESISと組み合わせて、V5 GENESISは上流側の機器、V5 SUPER TITANは大電流を必要とするパワーアンプなど、役割の異なる製品への最適な電源供給を担う一連のシステム構築が可能です。

V5 SUPER TITAN。こちらもショウ直前に届いたそうだ

V5 SUPER TITANの背面。出力は4口となっている
振動から回路を隔離する制振構造「ISIS」
ーー両製品には、振動を抑えるISISというメカニカル・グラウンディング構造が採用されています。
はい。回転系を持つソース機器は当然として、アンプやスピーカーも筐体の共振を精密に制御することが当たり前になっていると思いますが、それは電源コンポーネントも全く同じです。
V5 GENESISとV5 SUPER TITANは、ほぼ全ての主要回路を吊り下げ式のサブシャーシを介してマウントしています。ISISとは「Independent System Isolation Support」の略称で、Clearlight Audioの創設者Kurt Olbert氏と共同開発した機構となります。フローティング方式により微小振動から回路の余計な振動を徹底的に抑えると同時に、筐体を積み重ねた設置においても問題なく使用できる構造を実現しています。
ISISについてもう少し詳しくご説明しましょう。筐体に配置された上下のパネルでサブシャーシを点支持し、特殊な制振材を高密度プレートで挟み込み、それをさらにアルミニウム製支柱で支える構造です。空気伝播振動やマイクロフォニックノイズに加え、機器内部の非常に微細なサブソニック領域の振動や共振を効果的に抑えるという仕組みになります。
電源特化メーカーだからこその優れた電源アイテムをお届けします
ーー製品開発では何を大切にしていますか。
IsoTekは電源技術に集中してきました。ひとつの分野に取り組み続けることで、機器ごとに異なる電源の要件を理解し、適した技術を追求できると考えています。ソース機器とパワーアンプでは、必要とされる電源の性質が異なります。様々なジャンルの製品を発売している総合オーディオメーカーさんが電源アイテムを発売しているケースもありますが、われわれは電源アイテムに特化したブランド、メーカーです。電源だけに特化した開発、研究ができるという強みを徹底的に活かして、総合メーカーさんではたどり着けないような優れた電源製品を、オーディオ、オーディオビジュアルという素晴らしい趣味を愛好する方々に向けてお届けしていきます。
今回はV5 GENESISとV5 SUPER TITANという新製品を日本のみなさまにお披露目出来ましたが、新製品を発売すること自体が目的ではありません。新製品は、従来の製品より明確に優れていると確信できたときだけ、発売致します。製品を改良するには時間、そしてコストがかかりますが、電源技術に集中して取り組むことで理解を深め、より高度な製品を開発しております。
最後に日本の皆さまへお伝えしておきたいことがあります。われわれは、IsoTek製品に自信を持ってお届けしていますが、私たちの説明をそのまま信じていただく必要はありません。ぜひご自身の感覚でわれわれの製品の効果をご体験したうえで、そのパフォーマンスを判断していただきたいと考えています。
日本ではわれわれの代理店であるナスペックさんの強力なサポートで数多くの販売店さんで製品をご体験できると聞いています。ぜひ店頭で、そしてご自身のシステムでお試しくださっていただければと思います。私の役割は、より豊かな音楽体験につながる可能性、製品をご提供することです。試すかどうか。そしてそれをどう評価するかは、聴く方に委ねたいと思います。

10/24に行なわれた講演の翌日、10/25に単独インタビューに応じてくれた。電源の重要性を熱く語る姿が非常に印象的だった
インタビューを終えて〜電源は全エレクトロニクス機器の出発点であると再認識
イベントでは、一般的な電源タップからの給電、V5 SIGMAS+V5 TITAN、そしてV5 GENESIS+V5 SUPER TITANという順で電源機器を入れ替え、同じシステムで聴き比べた。キースさんは、その差はご自身の耳で確認してほしいと語ったが、なるほど、確かに大きな変化が感じられた。ショウという制約がある状況ではあったが、電源というオーディオ、オーディオビジュアルの「スタート点」での改善効果は明確に感じた。
キースさんいわく、V5 GENESISとV5 SUPER TITANのような超高価格の電源製品だけでなく、電源ケーブルでもいいので、IsoTekの電源アイテムの効果をご自身で体験してもらい、お使いの機器のパフォーマンスをできるだけ引き出していただき、オーディオとオーディオビジュアルの魅力をより楽しんでほしい、とのことだ。IsoTekは、電源をシステムの出発点として見直すきっかけを与えてくれる、そんな製品に違いないのだろう。優れた「オーディオコンポーネント」、「オーディオビジュアルコンポーネント」を送り出すブランドとして、IsoTekに今後も注目していきたいと確信した取材だった。
(取材・まとめ/HiVi編集長・辻 潔)


