パイオニア カロッツェリアのハイエンド車載スピーカー「PRS」。2010年に前作モデルを発売してから10年、満を持してニューカマー「TS-Z900PRS」が発表された。新たに基幹技術「CSTドライバー」を採用した2ユニット3ウェイ構成のTS-Z900PRSの実力を確かめるべく、同機が開発された東北パイオニア株式会社へとおもむいた。新モデルの仕様や音の印象を開発エンジニアの声とともにお送りしよう。

文=小原由夫/Photo:Atsuko Goto、Akio Shimazu

画像: 10年ぶりに新モデルが追加されたカロッツェリアPRSスピーカー。TS-Z900PRS(¥128,000/セット)は2ユニット3ウェイにパッシブクロスオーバーネットワークという構成。トゥイーター&ミッドレンジユニットのCSTドライバーには、ダッシュボード上に固定するための台座やバックカバー、振動板保護用グリルメッシュなどが用意される。

10年ぶりに新モデルが追加されたカロッツェリアPRSスピーカー。TS-Z900PRS(¥128,000/セット)は2ユニット3ウェイにパッシブクロスオーバーネットワークという構成。トゥイーター&ミッドレンジユニットのCSTドライバーには、ダッシュボード上に固定するための台座やバックカバー、振動板保護用グリルメッシュなどが用意される。

カーオーディオに一石を投じる
CSTドライバー採用3ウェイスピーカー

 カーオーディオとホームオーディオの抜本的な相違点は、空間容積の絶対的な差と、リスナーとスピーカーの近さ、そしてリスナーから見た各ドライバーユニットの角度や距離がバラバラという点だ。そうしたことによってどんな影響が出るかというと、音源に収録された正しい音像定位や忠実な音場イメージが再現されにくくなる。近年はデジタル信号処理によって時間軸の補正や位相制御などが比較的自在に設定できるようになったが、そうした調整がある程度まで物理的にアコースティックでできるに越したことはない。

 先日、そんなエクスキューズに一石を投じるであろうスピーカーに出会った。それは、carrozzeriaのNew PRS。中域と高域を受け持つドライバーユニットが同軸構造、すなわちひとつにまとめられている。私にとっては見慣れたその構造は、パイオニアの高級オーディオブランドである「TAD」の『CST(コヒーレント・ソース・トランスデューサー)』そのもの! そう、TS-Z900PRSは、TADの技術協力のもと誕生した、車載用同軸ドライバー採用の3ウェイスピーカーシステムなのである。

画像: CSTドライバーをアドオン中高域用ユニットとして単独使用するためにパッケージングされたのがTS-HX900PRS(¥78,000/セット)だ。専用のクロスオーバーネットワークが用意される。

CSTドライバーをアドオン中高域用ユニットとして単独使用するためにパッケージングされたのがTS-HX900PRS(¥78,000/セット)だ。専用のクロスオーバーネットワークが用意される。

 まず始めに CSTとは何かという説明が必要だろう。名称を要約すれば、『位相の揃った変換器』、つまり2つのドライバーの位相特性と指向特性があらかじめ最適に制御されているというわけだ。これはTADがホーム用スピーカーのために当初開発したもので、オリジナルは実に8.5オクターブもの広い帯域を1ポイント・ドライバー(あたかもひとつのスピーカーユニット)が再生しているに等しい結果を得ている。なぜそのようなことが可能なのかというと、同軸型の構造から発音源を同一とみなすことができ、なおかつトゥイーターの指向特性をミッドレンジのコーン形状(曲面)でコントロールできるからである。

画像: 東北パイオニアで試聴取材した際に使用したTS-Z900PRSのエンクロージュア。CSTドライバーがマウントされた部分はウーファーエンクロージュアとは独立した構造。

東北パイオニアで試聴取材した際に使用したTS-Z900PRSのエンクロージュア。CSTドライバーがマウントされた部分はウーファーエンクロージュアとは独立した構造。

 では、CSTのメリットとは何か? 前述したように、通常は異なる位置に取り付けられるトゥイーターとミッドレンジがひとつのハウジングに収められ、位相特性や指向特性が厳密に管理されており、その結果、カーオーディオの実践で問題視されることの多い音像定位や音場イメージをつくり(まとめ)やすいのである。また、現実的なインストール面においても、3ウェイであるのによりシンプルな取付けが可能となる(Aピラー+ドアミラー内側、またはダッシュボード上といった個別の取付けがなくなる)。

 試聴環境から見た車室内というのは、フロントガラスの反射や片側に寄ったシート位置(非対称性)など、条件面でかなり厳しい。その上、前述したようなスピーカー取付け位置の不均衡さがある。そうした点から考えて、CSTの持つ指向特性のよさや再生帯域の広さ、取付けの容易さなどは、車載用スピーカーとしては好適ということがわかる。

驚きの低歪みと指向特性のCSTドライバー

 では、今回採用されたCSTドライバーの仕様の詳細を見ていこう。トゥイーターはアルミ合金製のドーム型で、銅線のボイスコイルとネオジウムマグネットという構成。ミッドレンジは73mm口径のクロスカーボン/抄紙によるコーン型で、ネオジウム磁石を採用する。全体はアルミダイキャストのフレームに固定され、ABS樹脂のバックカバー(ハウジング)に収められており、とてもコンパクトに仕上がっている(バックチャンバーは約0.07L)。

画像: 中央のバランスドドームトゥイーターダイヤフラムはアルミニウム合金製。同色のホーン形状パーツは、ミッドレンジのコーンとトゥイーターダイアフラムをシームレスな形状とするためのマッチングホーン。この構造により優れた指向特性を獲得したという。

中央のバランスドドームトゥイーターダイヤフラムはアルミニウム合金製。同色のホーン形状パーツは、ミッドレンジのコーンとトゥイーターダイアフラムをシームレスな形状とするためのマッチングホーン。この構造により優れた指向特性を獲得したという。

画像: CSTドライバーの構造図。ユニットを支えるフレームにはアルミダイキャストを採用している。中央のトゥイーター部と外周のミッドレンジ部は、磁気的および機械的な相互干渉によるひずみを防ぐアイソレーションキャップが採用されているが、この技術はTADと同様のテクノロジーである。トゥイーター部の磁気回路には、狭スペースで効率よく磁束を高めるための反発ネオジウムマグネットを組み込んでいる。

CSTドライバーの構造図。ユニットを支えるフレームにはアルミダイキャストを採用している。中央のトゥイーター部と外周のミッドレンジ部は、磁気的および機械的な相互干渉によるひずみを防ぐアイソレーションキャップが採用されているが、この技術はTADと同様のテクノロジーである。トゥイーター部の磁気回路には、狭スペースで効率よく磁束を高めるための反発ネオジウムマグネットを組み込んでいる。

 驚かされるのはその歪みの少なさだ。可聴帯域上重要な800Hz以上が、一般的なスピーカーと比べて一段と低歪みなのだ。また、軸上特性についても、指向角0度/15度/30度の差異が極少だ。

 これに組み合わされる170mmウーファーは、ネオジウムマグネットを搭載したクロスカーボン/抄紙コーン型。振動板の素材はミッドレンジと同一なので、音色の整合性も期待できる。フレームはアルミダイキャスト製だ。

 本機には3ウェイのパッシブネットワーク、ダッシュボードなどの取付けがより手軽にできる角度調節付き台座が付属している(トゥイーターのみ「TS-HX900PRS<¥78,000税別>」の単品販売には、2ウェイのパッシブネットワークが付属)。

画像: TS-Z900PRSの周波数特性(黒線)とインピーダンスカーブ(緑線)、そして2次および3次ひずみ(青線と赤線)の測定グラフ。音圧は広帯域に渡ってピークディップが少ないことがわかる。またひずみも少なく、グラフの横軸で見る中頃で低くまた暴れが少ないことも驚かされる。

TS-Z900PRSの周波数特性(黒線)とインピーダンスカーブ(緑線)、そして2次および3次ひずみ(青線と赤線)の測定グラフ。音圧は広帯域に渡ってピークディップが少ないことがわかる。またひずみも少なく、グラフの横軸で見る中頃で低くまた暴れが少ないことも驚かされる。

画像: こちらは指向特性を測定したグラフ。ユニットの正面(0度)に対して、15度、30度とユニットの軸上から外れても音圧が極端に落ちることがない結果が現れている。このことから車室内での聴取条件により適した特性を持つスピーカーであろう事がうかがえる。

こちらは指向特性を測定したグラフ。ユニットの正面(0度)に対して、15度、30度とユニットの軸上から外れても音圧が極端に落ちることがない結果が現れている。このことから車室内での聴取条件により適した特性を持つスピーカーであろう事がうかがえる。

画像: トゥイーターとミッドレンジの隙間はわずか0.34mm。非常に高い精度で組み立てる技術が要求される設計だ。

トゥイーターとミッドレンジの隙間はわずか0.34mm。非常に高い精度で組み立てる技術が要求される設計だ。

画像: CSTドライバーを構成するパーツ類。中央に見えるのはミッドレンジの磁石で銅製のショートリングが組まれているのが確認できる。

CSTドライバーを構成するパーツ類。中央に見えるのはミッドレンジの磁石で銅製のショートリングが組まれているのが確認できる。

画像: ミッドレンジのコーン振動板は2層構造のカーボン製。ウーファーの振動板と素材を揃えている。

ミッドレンジのコーン振動板は2層構造のカーボン製。ウーファーの振動板と素材を揃えている。

TADのエンジニアにサジェスチョンを求めつつ
幾度にも渡るカット&トライの末に完成

 私は自宅のホームオーディオシステムで、TADのフラグシップ機TAD Reference Oneをかれこれ13年愛用してきている。その耳でも、今回のTS-Z900PRSは、CSTの美点を正統に引き継いでいると感じた。開発を主導した東北パイオニア(株)スピーカー事業部 市販部 市販商品部 企画設計二課の安西貴史さんによれば、その開発は決して一筋縄ではなかったという。

「初代PRSからのコンセプトである“Open & Smooth”を継承するべく、特性を追い込んでいきました。最も苦労した点のひとつは小型化です。小型化した車載用CSTでも、従来の滑らかな立ち上がりを実現するため、Qtsを1.0以下に抑えるように努めました。また、私自身初の取り組みとなる、車載用3ウェイネットワークの設計にも苦労しました。音質面においても、自然な音場と音像を追求するために、TADのエンジニアと協力しながら、幾度にも渡るシミュレーションやカット&トライを繰り返しました。スピーカー単品、ネットワークなどの個々の仕様、特性はもちろんですが、そこに在るような自然な音場と、音の実像感を再現し、音楽として楽しめる音づくりを一番大切にして開発をしました」(安西氏)

画像: 東北パイオニアの安西貴史氏。TS-Z900PRS開発の中心人物である。

東北パイオニアの安西貴史氏。TS-Z900PRS開発の中心人物である。

画像: TS-Z900PRSの構成パーツを前に、開発者である安西氏の説明を聞く筆者。興味深い話も多く、予定取材時間を大幅に超えてしまった。

TS-Z900PRSの構成パーツを前に、開発者である安西氏の説明を聞く筆者。興味深い話も多く、予定取材時間を大幅に超えてしまった。

画像: ウーファーユニットのアルミダイキャストバスケットフレームを手にする筆者。フレームはV字型の支柱を6本備えたデザインで、素材および構造によって不要な振動を抑える設計となっている。

ウーファーユニットのアルミダイキャストバスケットフレームを手にする筆者。フレームはV字型の支柱を6本備えたデザインで、素材および構造によって不要な振動を抑える設計となっている。

画像: カーボンと抄紙を貼り合わせた2層構造のウーファーコーン。軽量かつ高い剛性を持ち、なおかつ適度な内部損失をも兼ね備えた素材だ。エッジにはコルゲーションエッジが採用されている。

カーボンと抄紙を貼り合わせた2層構造のウーファーコーン。軽量かつ高い剛性を持ち、なおかつ適度な内部損失をも兼ね備えた素材だ。エッジにはコルゲーションエッジが採用されている。

すこぶる克明な音像定位、見晴らしの良い空間を再生
車載時に大きなアドバンテージをもたらす取付け性も魅力

 試聴はまず屋内のテストルームで行なった。システムは同社のサイバーナビ χシリーズ、パワーアンプにカロッツェリアχのRS-A09Xを用いた。エンクロージュアは、容積が約28Lの密閉型。CSTドライバーは天面に独立した形で固定されている。

 第一印象は、すこぶる克明な音像定位だ。ヴォーカルのフォルムがくっきりとしている上、伴奏の楽器との距離感や位置も明瞭に表現されている。また、CSTドライバーとウーファーとのつながりも良好で、よくできたフルレンジドライバーを聴いているような一体感があった。

 もうひとつ重要なことは、TS-Z900PRSが、普段自宅で聴いているTADスピーカーと共通した質感再現と空間イメージを表したことだ。もちろんスケール感や音圧エネルギーではReference Oneとは比べものにならないが、それらのファクターについてもほぼ相似形である上、ナチュラルなニュアンスと立体的なアンビエンスが感じられたのである。『きっと同じDNAが流れているんだろうなぁ』と私は感じ入った。

画像: テストルームでTS-Z900PRSのサウンドをチェックする筆者。スピーカーユニットがマウントされたエンクロージュアはスタンド上に固定されている。TS-Z900PRSの奥に見えるのはTADのReference One。今回の取材では比較試聴はしていないが、東北パイオニアでは製品評価時のリファレンスのひとつとして活用しているという。

テストルームでTS-Z900PRSのサウンドをチェックする筆者。スピーカーユニットがマウントされたエンクロージュアはスタンド上に固定されている。TS-Z900PRSの奥に見えるのはTADのReference One。今回の取材では比較試聴はしていないが、東北パイオニアでは製品評価時のリファレンスのひとつとして活用しているという。

 続いてテスト用車両として用意されたトヨタ・ハリアーで試聴した。やはりここでも克明な音像定位が感じられ、微動だにしない音像フォーカスに感心させられた。加えて驚かされるのは、編成の大小に関わらず、ソロと伴奏の楽器の位置関係を鮮明に見通すことができ、それぞれが並ぶ様子がクリアーにイメージできることだ。カーオーディオにおけるこうした再現・表現は、コンポーネントの性能がいくら優れていようと、よほど高いインストールの技量が伴っていなければ不可能だろう。TS-Z900PRSは、比較的簡便な取付けでそれが実現可能といえる。設計上800Hzから使える(上限は80kHz)ということは、実質的にこのCSTドライバー1基で約7オクターブという広い周波数帯域をカバーしていることになる。これは驚異的で、ダッシュボードとドアという離れた位置の通常の取付けに対して大きなアドバンテージとなり得る。

 そうした恩恵もあってか、クラシックを聴いても、オーケストラの響き/アンサンブルに自然な広がりが感じられる。今回は純粋にTS-Z900PRSの音質評価ということで、サブウーファーなしの3ウェイシステムだったこともあり、グランカッサやティンパニ等の打楽器やコントラバスのエネルギーにやや物足りなさを感じたが、エンドユーザーが導入する際の実際の運用面では、良質のサブウーファーが加えられることと思う。その際、ほんの少し低域の厚みを加えるようなチューニング・バランスができれば、前述の印象も補えるはずだ。

画像: 車両装着時のテスト車両も聴くことができた。車種はトヨタ・ハリアー。CSTはAピラーに埋め込まれる形で固定され、ドライビングポジションからすると若干見下ろす高さに配置されていた。

車両装着時のテスト車両も聴くことができた。車種はトヨタ・ハリアー。CSTはAピラーに埋め込まれる形で固定され、ドライビングポジションからすると若干見下ろす高さに配置されていた。

画像: ウーファーは、ドアの純正スピーカー位置にレイアウトされる。マウントにあたっては同社のメタルインナーバッフルを介して固定されている。このインナーバッフルを使用することでカスタムフィット化することができ、幅広い車種への装着が一定の音質とともにかなう。

ウーファーは、ドアの純正スピーカー位置にレイアウトされる。マウントにあたっては同社のメタルインナーバッフルを介して固定されている。このインナーバッフルを使用することでカスタムフィット化することができ、幅広い車種への装着が一定の音質とともにかなう。

前方定位と豊かなステレオイメージが
カーオーディオでより深まる事を期待させる

 今回の試聴取材を通じて、ダッシュボード上のスピーカーで広帯域再生を実現しようというカロッツェリアのコンセプトは十二分に成果を上げていることが確認できた。しかもそれが比較的容易にインストールできるというのは、専門店やエンドユーザーにとって大きなプラスだ。しかも今回聴いたような高い次元のクォリティ感を達成できているのは大いに魅力である。

 TS-Z900PRSの登場によって、車載オーディオの確かな前方定位と豊かなステレオイメージという理解がより深まることを期待してやまない。

specification
TS-Z900PRS
●構成:3ウェイ2ユニットスピーカー
●使用ユニット:ウーファー・170mmコーン型、ミッドレンジ&トゥイーター・同軸型73mmCSTドライバー(コーン型ミッドレンジ&ドーム型トゥイーター)
●定格入力:50W
●最大入力:180W
●出力音圧レベル:84dB
●再生周波数帯域:30Hz~90kHz
●インピーダンス:CSTドライバー、ウーファーとも4Ω
●クロスオーバーネットワーク:CSTドライバー用2ウェイパッシブネットワーク、ウーファー用ローパスネットワーク
TS-HX900PRS
●2ウェイハイレンジスピーカー
●ユニット:ミッドレンジ&トゥイーター・同軸型73mmCSTドライバー(コーン型ミッドレンジ&ドーム型トゥイーター)
●定格入力:50W
●最大入力:180W
●出力音圧レベル:84dB
●再生周波数帯域:173Hz~90kHz
●インピーダンス:4Ω
●クロスオーバーネットワーク:CSTドライバー用2ウェイパッシブネットワーク

■問合せ先
パイオニアカスタマーサポートセンター
電話番号:0120-944-111(固定電話から/フリーダイヤル:無料)
     0570-037-600(携帯電話から/ナビダイヤル:有料)
受付時間:月曜~金曜・10:00~17:00(土日祝日および休業日をのぞく)
メール:ウェブサイトメールフォーム https://form.jpn.pioneer/ja/support/contact/car/

提供:パイオニア株式会社

This article is a sponsored article by
''.