オートサウンドウェブグランプリ2019で、スペシャルアワードを獲得したドイツブランド「ブラックス」の最高位パワーアンプとDSPの組合せ。BRAX DSPはPCM192kHz/24bitのハイレゾファイル(オプションの入力インターフェイス組み込み時)をダウンコンバートせずにデジタルプロセッシングをおこなう。さらにオプションのデジタル出力を組み込むとMATRIX MX4 PROパワーアンプへ192kHz/24bitのデジタル伝送が可能となる。MX4 PROでD/A変換しスピーカーを駆動する独自のDiSACシステムが構築可能となる。本グランプリでは、組み合わせて実現できるDiSACのパフォーマンスについても評価するべく、2モデルあわせてのスペシャルアワードとした。ここでは、オートサウンドウェブグランプリの選考メンバーによる座談会をご紹介する。[編集部]
パネラー・オートサウンドウェブグランプリ選考メンバー
[石田功、鈴木裕、藤原陽祐、黛健司、脇森宏、長谷川圭]
(まとめ=ASW編集部/写真=嶋津彰夫)
ASW:スペシャルアワードを獲得しましたブラックスのBRAX DSPとMATRIX MX4 PROについて、みなさんのお話をうかがわせてください。
鈴木:今どきのカーオーディオの中で、パワーアンプはひじょうに大きいしDSPも大きいし、重いし、発熱もあるし……といういろいろ指摘したくなるところはあるんですけれど……。僕はこれが聴かせる音の世界が凄く良かったというのと、この組合せをデジタルでつないだときにブラックスの世界が完成したようにも感じられたんです。DSPでは192/24で信号処理して、192/24のままパワーアンプに伝送し、最後パワーアンプ内のD/Aコンバーターでアナログ変換した後にアナログ領域でボリュウムコントロールをしている、オーディオテックフィッシャー社では「DiSAC」と呼んでいるシステムですが、『なるほど、こういう音になるのか』という説得力がありました。
オーディオテックフィッシャー社ではマッチというパッシブネットワークみたいなサイズのDSPアンプを持っていて、いってみればこのブラックスのコンビはマッチを巨大にして2筐体にしたようなものじゃないですか。その2つをちゃんと意識して造り分けているメーカーなんです。そういうところにも感心しています。
ASW:オーディオテックフィッシャー社は偉いと?
鈴木:そうです。オーディオテックフィッシャー社は一流だと思います。一方でマッチのような製品を造り、一方でブラックスを造り、そのどちらも音に説得力があると感じましたので、そこを評価したかった。
黛:たとえば、小さなものですけれどコントロールユニットの出来具合にもそれは現れてますよね。ユニットとしての質感だったりとか手触り、操作感、それから表示の見やすさ。あと操作感のうちに入るかもしれませんが、自分が意図したとおりに動いてくれる。そんなことは当たり前だと思って使のだけれど、世の中当たり前に使えないものが多すぎる気がするんです。その中で、オーディオテックフィッシャーのメーカーとしてのキャリアの長さからくるのでしょうが、高級機というのはどうあらねばならないかというのをちゃんとわかっている。
同社のブランドではマッチ、ヘリックス、ブラックスで作り分けができています。ブラックスでは『こういう所で贅沢しようとすると高くなるんですよ』となるので、音はもちろん見た目や触れたときの感触などが気になる人は、受け入れざるを得ない造りができていると思う。ブラックスでは終始一貫、お金を払っただけの満足感はちゃんと与えてくれる製品作りがなされていて、どの製品をとっても高級感に溢れている。しかもいい加減な高級じゃなくて価値ある高級、本来の高級感というものをちゃんと理解した作り方です。もちろんスペシャルアワードのこのモデルにも共通していて、すごいなと思いました。
藤原:最近ホームオーディオ、それも高級機でもデジタルアンプが増えてますね。だいぶ質も良くなっているんですけれども、MATRIX MX4 PROのような本格的なアナログアンプを聴くと、やはり根底が違うんだなと久しぶりに思いました。音の温度感とかしなやかさとか、吹き上がるときの粘り感とか……デジタルはデジタルの良さがあるんですけれど、こういうのを聴いてしまうとまだアナログがいいなと思ってしまう。それだけのインパクトがある。低域の吹き上がり感みたいなものなどは、明らかに別世界ですよね。デジタルのすぱっと切れるような音とは少し違う。それでいて室内の静かなところでピアノが浸透していく繊細な感じとか、そういう表現力も懐が深いですね。
DSPの機能については詳しく試していませんけれど、BRAX DSPとMX4 PROを組み合わせるとブラックスの音の色が濃くなる印象はありますよね。『やはりブラックスはこういう音だな』というね。ブラックスの世界観みたいなものは強く表現されていたと思います。
DSPにデジタルを直で入力できるから、対応するデジタルプレーヤーであれば192/24で送り込んで、そのままDSP処理して、さらにそのままパワーアンプまで送れるので、鮮度は抜群にいい音で再生できますよね。
鈴木:確かにブラックスの音ではありますけれど、15年くらい前から比べると明らかに現代的になってますし、一番大事だと思うのはとろみを多少は感じるんだけれどとろい感じはしないし……タイミングが合っている……位相が合って聴ける。だけど、深みのある音色感がでている、その両立を実現できているのだと思います。
石田:パワーアンプのMATRIX MX4、PROではないモデルからPROになってどれほど変わったかというと、それほどではなく感じています。でも、やはり出てくる音には凄味がありますよね。今年出てきたさまざまなモデルと比べても、出色の出来でしょう。
脇森:僕は基本的にDSPが好きじゃないんですね。
長谷川:昔からですよね。
脇森:昔からです(笑)。好きじゃないんですけれど、ここまでの音が出てくれると『認めざるを得ない』、正面から音を聴いてもいいなという印象です。デジタルの信号処理って今まで他のモデルってここまで本気でやってなかったんじゃないの? と……このモデルが出てきてくれたおかげでそんな思いすらわいてきました。実際に調整をしてみても凄くきめ細かくて、それがしっかり音に反映されてくるという信頼感のようなものが、他のモデルとはまるで違う。そんな気がします。
パワーアンプでは、石田さんはあまり変わっていないとおっしゃいましたけれど、ブラックスの一番最初のモデルのXシリーズで聴けたパワー感が、だいぶ戻ってきたような印象を持っています。これまであまり姿を変えずに、でもモデルチェンジする中で多くの試行錯誤があったと思うけれど、表現力とか音色とかね、そのあたりがこのモデルではうまく合わさってのっているのではなかろうかという感じがする。とても完成度が高いパワーアンプだと思います。
長谷川:オーディオテックフィッシャーという会社が創業社長のハインツ・フィッシャー氏から、息子のジュリアン・フィッシャー氏に世代交代していて、デジタルへの取り組みが積極的になりました。ジュリアン氏自身がデジタル分野に精通していて、DSPの開発に尽力しているのでしょう。ハインツ氏は、ご自身は「デジタルはよくわからない」と言っているそうですが、アナログアンプの開発に関しては現在も取り組んでおられる。この親子の歯車がいま、絶妙にかみ合っているのでしょう。そういうところも音に現れているように感じました。迫力というか凄味みたいなものに加えて、こまかなニュアンスの表現力も備えている……こういう音は最近あまり聴けていなかったと思うんです。しみじみと『いい製品ができた』なと噛みしめながら聴きました。DSPもMX4 PROもどちらも高額なのですけれど、できることならこの組合せで聴きたいですね。
鈴木:高いですけどね。組み合わせて使いたいというのは僕も同じです。どちらもそれぞれいいものだから、単体で使うのももちろんいいんです。でもどうせなら一緒にと思いますね。
長谷川:MX4 PROが4チャンネルですから、3ウェイ+サブウーファーといったスピーカーを駆動させようとすると、その金額は……ちょっとドキドキしてしまいますけど(笑)。でもこのコンビネーションでなければ得られない音があるし、できることならその音で聴きたいを思わせる。
石田:そうですよね。これでイートンのCORE-S3を鳴らそうと思ったら……それだけで300オーバーですものね(笑)
長谷川:おそらく消費電力もかなりなものでしょうし、覚悟が必要かもしれません。でも、その覚悟の先には、驚くほどの高音質カーオーディオが現れるのでしょうね。
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