旗艦モデルAV 10に次ぐバランス端子装備のコントロールAVセンター
マランツのコントロールAVセンターと言えば、現在も同社のフラッグシップとして君臨するAV 10を思い浮かべる方が多いと思うが、AV 30はそのエッセンスを存分に投入し、レギュラーラインの最高峰として開発された意欲作だ。

Control AV Center
Marantz AV 30
¥594,000 税込
●型式 : 11.4chプロセッシング対応コントロールAVセンター
●接続端子 : HDMI入力7系統、HDMI出力3系統、アナログ音声入力7系統(RCA×6、フォノ[MM]×1)、デジタル音声入力4系統(同軸×2、光×2)、11.4chアナログプリ出力2系統(RCA×1、XLR×1)、LAN1系統、ほか
●寸法/質量 : W442×H189×D414mm/11.1kg
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小さな丸窓形状のディスプレイを中央に据えて、両サイドに入力切替えと音量調整の2つの大型ノブを配置するというフロントパネルのデザインは、AV 10と瓜二つ。実はこのフロントパネルは、AV 10と同一構造で、横幅、高さと、サイズも一緒だ。
強靱なフロントパネルを本体シャーシと結合することで、筐体としての剛性が高められ、ひいてはクォリティの敵となる微細な振動が抑えられる。メインシャーシにベースプレートを追加して、トランス、電源基板を安定させるという手法もAV 10の開発から学んだこと。お馴染みの銅メッキビスも採用済だ。
高速電圧増幅モジュールHDAMについては、16chパワーアンプAMP 10などで実績のあるSA2仕様を11.4ch分投入し、電流帰還型バランス出力プリアンプを構成している。電流帰還型アンプは、一般的な電圧帰還型アンプに対して、信号経路の入力インピーダンスが低く抑えられ、位相変化が起きにくく、位相補償(負帰還)の負担も小さいのが強みだ。
HDAMについてはAV 10で採用したSA3仕様の1世代前の回路ということになるが、使いこなしの工夫によって、同等か、それに迫る効果が得られるという。その1つがLch系とRch系を基板から分けて、ベッドスピーカーとオーバーヘッドスピーカーを問わずに、L/R回路を分離して配置するというこだわりの技法であり、空間全体の左右のセパレーションの高さを確保できるとしている。

アンバランスに加えて、バランスの11.4chプリアウトを備えているのが、本機の一大特徴。ちょうど一体型AVセンターのCINEMA 30のスピーカー端子を配置している筐体下側部分に、バランス音声プリ出力端子を搭載している格好だ。コントロールAVセンターの上位機AV 10の11.4ch仕様というよりは、CINEMA 30からパワーアンプ回路を割愛、その空いたスペースにバランスプリ出力端子および回路を組み込んだ製品と考えてもよいだろう

強力な電源ブロックもAV 30のキーポイントだ。電源トランスはアルミニウム製シールドケースに封入、プリアンプ、ボリュウム/セレクター、DACの各セクションに独立巻線で分離供給。相互影響を避けたこだわりの仕様となる

リモコンは近年のマランツ製AVセンターの文法に従ったもの。中央の右側面に操作ボタンが光るライトボタンが備わる
D/AコンバーターICはAV 10同様、電流出力型のDACチップを採用している。IC内のアナログ回路用として、ディスクリートの低ノイズレギュレーター回路を投じているのもAV 10譲り。信号ラインには電流ノイズが抑えられる薄膜抵抗器を配置して、微細な信号の再現性を高めているという。
プロセッシング能力は最大11.4chで、バランス、アンバランス各出力を独立して用意している。ただオーバーヘッドスピーカーの設置は最大4本まで。4系統のサブウーファーは、全て同じ音を出力する「スタンダード」と、各サブウーファー近くの音源までサポートする「指向性」の選択が可能。つまりスピーカー配置としては最大7.4.4構成のシステムとなる。
サラウンドフォーマットについてもドルビーアトモス、DTS:Xに加えて、Auro-3D、MPEG-4 AAC、IMAXエンハンスド、MPEG-H 3D Audio(=360 Reality Audio)と、現存するサラウンド音源にほぼフル対応。
さらにハイトスピーカーやサラウンドスピーカーを設置しない環境でも、後方、高さ方向を含めて、一体感のあるサラウンド体験が可能になるバーチャル技術「Dolby Atmos Height Virtualizer」、「DTS Virtual:X」も対応済だ。
室内音響補正機能としてはオーディシーMultEQ XT32を搭載し、さらに有料オプションとしてDirac Liveを利用できる。もちろん最新版のHEOSを搭載し、各種音楽配信サービスをサポートしている。

D/A変換専用の基板を独立化させて、クリアーな信号処理を追求。その直近にジッター除去回路と、薄膜抵抗とオーディオグレードコンデンサーを多数用いたポストフィルターを配置している

正方形の四角いチップがDACチップ。8回路仕様の電流出力型で、チップパッケージからESSテクノロジー製と思われる。このDACチップを2基搭載。周辺回路も入念に作り込まれており、AVセンターづくりの長いキャリアを感じさせる部分だ

HDAM(ハイパー・ダイナミック・アンプリファイアー・モジュール)は、マランツの看板技術ともいうべき高速アンプモジュール回路。16 chパワーアンプAMP 10の入力バッファーに使われているHDAM SA2仕様の基板をLチャンネル系とRチャンネル系で分離独立して配置。サラウンド空間の左右セパレーションの向上を目指す

プリアンプ基板。アナログ信号を扱う基板で、HDMIやDSP、HEOS回路を配置したデジタル基板やDAC基板、HDAM SA2による出力バッファー基板と、基板自体を分離することで、回路同士の相互干渉を徹底して抑え、信号経路の短縮化を図る設計思想が徹底的に貫かれている
Qobuz再生で基本音質を確認。絶妙なバランスで素性の良さを実感
では早速、そのサウンドを確認していくことにしよう。今回の試聴は山中湖ラボで行ない、スピーカーシステムは7.1.4構成、パワーアンプにはマークレビンソンNo322(フロントL/Rch用)とインテグラリサーチRDA-7×2台(フロントL/R以外のスピーカー駆動用)を使用している(接続はバランスケーブル)。各種音響補正機能は全てオフ。
まずはHEOSのQobuz Connect機能を活用し、セリーヌ・ディオン「My Heart Will Go On」、ビリー・ジョエル「ビッグ・ショット」、チョ・ソンジン独奏「モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番」などの楽曲を再生してみたが、ストレスのない空間の拡がり、的確なリズム感、そして細やかな声のニュアンスと、随所でその素姓の良さが実感できた。
荒っぽさのない繊細で丁寧な聴かせ方で、音楽の内面のニュアンスまでしっかりと描き上げていく。太すぎず、細すぎず、中肉中背の絶妙なバランス。聴き手を柔らかな空気で優しく包み込んでくれるような独特の包容力が伴なう。しかも大音量時でも足元が揺らぐことなく、危なっかしさがない。
高い熱量で、張りのある歌声で聴かせるセリーヌ・ディオン、力強く情感豊かに歌うビリー・ジョエル、そしてしなやかな鍵盤のタッチがそのまま音として感じ取れるチョ・ソンジンと、独特の世界観を感じさせるサウンドを楽しませてくれた。

筐体内部最上段にはHDMIトランスミッター/レシーバーやDSPチップ、そしてHEOS処理用回路を配した基板をマウント。HDMIやHEOSは発熱の大きいチップなので、直近に電源レギュレーターを配置しつつ、放熱用ヒートシンクを取り付けて安定した動作と、他の回路への影響を最小限に抑える
鮮烈で浸透力の高いサラウンド再生。緊迫感を増強するS/N感の良さが秀逸
こうなるとサラウンド再生への期待が高まる。まずUHDブルーレイ『アリー/スター誕生』の冒頭を再生。実在感のあるセリフを中心に、多彩な音が入り混じる効果音、そしてその外側に拡がる音楽と、目の前のスクリーンから沸き上がるように描き出していく。
チャプター2。口笛、拍手、歓声と、様々な雑音に取り囲まれながら、レディー・ガガ扮するアリーが酒場のステージで「ラ・ヴィアン・ローズ」を歌うシーン。ざわついた空間に浸透するように拡がる彼女の歌声の艶やかなこと。歌声は酒場の雑音にかき消されることなく、フワッと漂い、吸い込まれるように消えていくが、その様子が実に生々しい。歌声の質感の良さと細部まで描き出される効果音は、まさにシステムとしてのS/Nの高さの恩恵と見て間違いない。
チャプター7、アカデミー賞の歌曲賞を受賞した「シャロウ」。骨格の太いスケール感に富んだサウンドが素早く立体的に拡がり、コンサート会場の興奮が一気に高まる。ここでも浸透力のある歌声、チャンネル間の滑らかな繋がり、一体感のある雄大な空間描写と、コントロールAVセンターとしてのAV 30の確かな仕事ぶりが実感できた。
続いて米国盤UHDブルーレイ『シビル・ウォー アメリカ最後の日』の冒頭、大統領の演説から始まり、給水車を狙った爆破テロのシーンの後まで再生した。映画冒頭、大統領が演説のリハーサルを始めるが、静寂の空間に響く声が、すぐそこまで迫っている、不吉さ、恐さを予感させる。
ニューヨーク。給水車の前で警官と市民の小競り合いが続く中で、自爆テロによる大爆発が起きる。その音の威圧感にドキッとさせられた。ただ激しく、一気に吹き上がるというよりも、一瞬タメを作って、全身を揺さぶるように、どちらかと言えば穏やかに拡がっていくという印象だった。
爆破音なら耳を劈(つんざ)くような激しさが欲しい、という意見もあろうが、刺さるようなエッジをほとんど感じさせないような精緻な爆破音が、俊敏かつスムーズに浸透するように拡がっていく様子は、なかなか新鮮であり、聴き応えもある。このあたり好みの分かれるところだと思うが、私の経験上、本機のように、爆破シーンで反応の良さ、質感の高さを感じさせてくれるAVセンターは、そう多くはない。
給水車が送り込まれた市街地が一瞬のうちに戦場へと変貌する。そんなリアルな空気感にグッと引き込まれる。静寂のなか、ケイリー・スピーニー扮するジェシーが切るシャッター音が響くが、その音の鮮烈なこと。浸透力が伴なって、その場の緊迫感をにわかに増強する。これもS/N感の良さ、反応の良さを裏付けるものと言っていいだろう。
マランツが地道に築き上げた技術、ノウハウをAVプリに適用
AVセンターの市場は普及機、高級機を問わず、アンプ内蔵の一体型が主流で、パワーアンプを備えないコントロールAVセンターの市場は限定され、どうしても割高になりやすい。とは言え、一体型AVセンターにはない魅力を持ったモデルが存在するのも事実であり、今回、試聴したAV 30も例外ではなかった。
質感が高く、押さえの効いた色濃いサウンドは、まさにマランツが地道に築き上げてきた技術、ノウハウに支えられたもの。特に電流帰還型のバランス出力プリアンプの恩恵は、期待していた以上に大きかった。
リファレンス機器
●ユニバーサルプレーヤー : パイオニアUDP-LX800、パナソニックDMR-ZR1
●パワーアンプ : マークレビンソンNo322(L/Rch用)、インテグラリサーチRDA-7×2台(L/Rch以外のスピーカー用)
●スピーカーシステム : ウエストレイクBBSM15(L/C/R)、BBSM10VNF(LSB/RSB)、リンAV5140(LS/RS)、ALR/ジョーダンEntry Center 3M(Overhead Speaker×4)、マグナットOmega 530(LFE)
本記事の掲載は『HiVi 2026年春号』


