Qobuzに最もスマートにアクセスするデバイスは、ネットワーク機能内蔵のアクティブスピーカーだ。スマホやタブレットなどのアプリで設定、調整、選曲を行なえば、まさにスピーカーだけでQobuzが高品位かつミニマルに堪能できる。
KEFのアクティブスピーカー「LSシリーズ」は、そんなニーズにジャストミート。もとよりKEFならではの格段のハイクォリティサウンドであり、一般的なネットワークプレーヤー+アンプ+スピーカーの三点セットと比較しても、高音質にして抜群の省スペース、おしゃれなコスメティック……と、トータルな魅力度は高い。本稿では、LSシリーズの4製品でQobuzを再生してみよう。
検証は、価格順で行なった。具体的には、LSX Ⅱ LT(2024年発売。以下同)、LSX Ⅱ(2022年)、LS50 Wireless Ⅱ(2020年)のブックシェルフ型の3製品と、そしてフロアスタンディング型のLS60 Wireless(2020年)だ。再生楽曲は、Qobuzのストリーミング音源から、情家みえのアルバム『エトレーヌ』から「ムーンリバー」(192kHz/24ビット)と「リムスキー・コルサコフ:スペイン奇想曲/シャルル・デュトワ指揮モントリオール交響楽団」(44.1kHz/16ビット)の2曲。

[共通スペック]
●Wi-Fi規格:IEEE802.11a/b/g/n/ac(2.4GHz、5GHz)
●対応ストリーミングサービス:Qobuz、Spotify、Amazon Music、TIDALほか
●備考:Bluetooth5.0対応、Roon Ready、AirPlay 2対応
●オプション:LSX Ⅱ、LSX ⅡLT、LS50 Wireless Ⅱ用スピーカースタンド(S2 Floor Stand、¥66,000ペア税込)あり
LSX Ⅱ LT
軽妙で溌剌さが際立つ音
まずLX ⅡとLSX Ⅱ LT。初代LSX(2018年発売)をベースにネットワークおよびストリーミングサービス再生機能を追加、入力端子を増やしたのがLSX Ⅱ。LSX Ⅱ LTはその簡易版だ。共通仕様は、第11世代「Uni-Q」ユニット(高域用19mmアルミドーム+中低域用115mmアルミ振動板を同軸構造で統合)を搭載。

LSX Ⅱ LT
¥137,500(ペア) 税込
●型式:アンプ内蔵2ウェイ2スピーカー・バスレフ型
●使用ユニット:19mmドーム型トゥイーター+115mmコーン型ウーファー/同軸
●アンプ出力:30W(トゥイーター)+100W(ウーファー)
●接続端子:アナログ音声入力1系統(3.5mmフォーン)、デジタル音声入力3系統(光、USB Type C、HDMI ARC)、LAN端子、サブウーファー端子1系統(モノーラル)、ほか
●寸法/質量:W155×H240×D180mm/6.8kg(セット)
LSX Ⅱ LTは、Uni-Qユニット、ストリーミング対応、音の基盤はそのままで、コストや構成を見直した簡易版。主要な違いは左右スピーカー間の接続方法。LSX Ⅱはワイヤレスとワイヤードの両方式で接続可能。LSX Ⅱ LT は専用USB Type Cケーブルによるワイヤード接続のみ。入力関係ではアナログAUX入力が省かれている。電源とアンプ関係も違う。LSX Ⅱは左右にそれぞれに電源とアンプ回路を内蔵。LSX Ⅱ LTはプライマリースピーカーのみに電源回路を内蔵。同梱USB Type Cケーブルを介して、セカンダリースピーカーへ音楽信号と電源を同時に伝送、アンプ自体はプライマリーとセカンダリーの両個体に内蔵している。
ではLSX Ⅱ LTから聴き始めよう。Uni-Qシングルユニットのスピーカー構成のモデルには、以前から良い印象を持ち、自宅ではLS50 Anniversaryを現役として使っている。LSX Ⅱ LTは、Uni-Qの良き伝統に則り、微細から大振幅まで信号の強さに即応し、高いリニアリティを聴かせてくれる。「ムーンリバー」は曲全体を貫くメローなファンタジーが、きれいに醸し出され、ヴォーカルの艶感と、細かな部分への気配りなど、情家みえの表現の機微が楽しめた。山本剛のピアノも感情の濃さ、タッチの軽妙さで聴かせる。
「スペイン奇想曲」は冒頭の華麗なトゥッティの音模様がカラフルで、音進行が溌剌。弦の高域の華やぎが少しメタリックだが、それも含めて音色的な魅力は大きい。シングルユニットだから、空間における楽器配置が明瞭。コンパクトスピーカーでありながら、リムスキー・コルサコフのオーケストレーションの妙味が体感できた。まずはここまでオーディオ的にワイドレンジで、ハイスピード、そして透明感が高く、さらに音楽性が豊かな音が楽しめるというKEFスピーカーならではの醍醐味が早くも味わえた。

「Uni-Q(ユニキュー)」と呼ぶ、高域/低域を同芯上に配置した同軸型ユニットがKEFの技術的アイデンティーだ。写真はLS60 WirelessのUni-Qユニットで、中央部分にフィンを配置し、指向性とエネルギーを制御している

LSシリーズは、接続端子類が備わる個体をプライマリースピーカーと呼んでいる。LAN端子やセカンダリースピーカー連携用端子、テレビとの連携が可能なHDMI端子まで豊富な装備がシリーズ共通の特徴だ。写真はLSX Ⅱ
LSX Ⅱ
ナチュラルで清涼な音が魅力
LSX Ⅱは、プライマリーとセカンダリーの両スピーカー個体にそれぞれ電源とアンプを内蔵。前述したように左右を連携する方法が、Wi-Fiによるワイヤレス伝送と専用ケーブルによるワイヤード伝送の2つある。

LSX Ⅱ
¥198,000(ペア) 税込
●型式:アンプ内蔵2ウェイ2スピーカー・バスレフ型
●使用ユニット:19mmドーム型トゥイーター+115mmコーン型ウーファー/同軸
●アンプ出力:30W(トゥイーター)+100W(ウーファー)
●接続端子:アナログ音声入力1系統(3.5mmフォーン)、デジタル音声入力3系統(光、USB Type C、HDMI ARC)、LAN端子、サブウーファー端子1系統(モノーラル)、ほか
●寸法/質量:W155×H240×D180mm/7.2kg(セット)
まずは、ワイヤレス伝送を試してみよう。「ムーンリバー」の冒頭のバンド前奏を聴いただけで、左右両個体に電源とアンプを内蔵した効用がすぐ分かった。ピアノ、ベース、ドラムスの各楽器の音の重心が下がり、安定感が増した。ヴォーカルの質感もリジッドになり、音の粒の形がスムーズに整う。感情がより濃く籠もり、語尾のニュアンスが実に細やかだ。山本剛のピアノの強弱と微妙なタッチ感の表現、繊細なアーティキュレーションでその違いが明白に聴き取れた。音の粒子の細かさ、充填の濃密さも聴きどころだ。「スペイン奇想曲」は細部まで確実に描写され、各パートの音像の立ちが明瞭。本演奏の華麗でカラフルな側面をさらに色濃く表出している。
さてここまでのワイヤレス接続でも感心したが、ワイヤード接続はさらに良い。ポイントはナチュラルさだ。楽音が音場の定位置から、まさに自然に、忽然と湧いて来る。弱音から強音へのクレッシェンドが実にスムーズ。ヴォーカルはレンジがワイドにになり、ピアノの伸びもクリアーに変化した。
「スペイン奇想曲」は整然とした音進行をベースに、音場の空気がより清涼になった。煌びやかさと細やかな階調感が並立した。独立電源/アンプ+ワイヤード接続のメリットは大きい。オーディオ的な情報性とKEFならではの音楽性が融合し、Qobuz音源のリソースを縦横に引き出した。
本ページで紹介しているKEFのアンプ内蔵スピーカーは、各種音楽ストリーミングサービスに対応し、専用の操作アプリ「KEF Connect」も用意されている。
LS50 Wireless Ⅱ
淡麗に描かれる音の情景
LS50 Wireless Ⅱには二つの流れを受けた製品だ。ひとつが、2012年にリリースされた、11世代Uni-Qドライバー搭載の創立50周年記念モデル「LS50 Anniversary」が源流。限定モデルだったが評判が良く、2012年には標準モデル「LS50 Standard」に格上げされ、2020年に第12世代Uni-Qドライバーを搭載し、さらに吸音効果を持つ迷路機構MAT(Metamaterial Absorption Technology)が加わえた「LS50 Meta」になった。

LS50 Wireless Ⅱ
¥363,000(ペア) 税込
●型式:アンプ内蔵2ウェイ2スピーカー・バスレフ型
●使用ユニット:25mmドーム型トゥイーター+130mmコーン型ウーファー/同軸
●アンプ出力:100W(トゥイーター)+280W(ウーファー)
●接続端子:アナログ音声入力1系統(3.5mmフォーン)、デジタル音声入力3系統(同軸、光、HDMI eARC)、LAN端子、サブウーファー端子1系統(モノーラル)、ほか
●寸法/質量:W200×H305×D311mm/20.1kg(セット)
もうひとつがアクティブ化の流れ。LS50 Standardを基本に、パワーアンプを内蔵し、ネットワークオーディオ機能のほか、デジタル/アナログの多彩な入力端子を備えた「LS50 Wireless」が2016年に登場。
この2つの流れを受けて、2020年には「LS50 Meta」を基本にした「LS50 Wireless Ⅱ」へと進化したのである。第12世代Uni-QとMATを搭載しつつ、内蔵アンプが強化され、384kHz/24ビット対応となった。
「ムーンリバー」は繊細にして精妙なヴォーカル音調が、実に芳しい。端正で精妙なピアノを背景に、歌詞の発音と節回しに込めた情家みえの熱い想いや感情が聴き取れた。新世代Uni-Qの130mmドライバーのメリットは、低音が格段にリッチになるというより、表現力のさらなる向上に資し、それにMATの効果が加わる。
音数の多い「スペイン奇想曲」こそ、本スピーカーの真骨頂であろう。多彩なディテイルがピラミッド型のサウンドバランスの中で整然と並立、音の情景が端麗に描かれる。音場表現でもオケ全体のマッシブさ、体積の大きさに加えて、オケを構成するプレイヤーたちの個の名人芸が巧みにバランスしている。各音像の間の空間の透明感が高く、見渡しがよい。
LS60 Wireless
俊敏で伸びやかな音の小宇宙
KEFの技術とノウハウを結集した、堂々のハイエンド仕様のワイヤレススピーカー。3ウェイのスピーカーに専用アンプをあてがい、MAT搭載100mm口径の12世代Uni-Q同軸ドライバーと、135mmユニットを背中合わせに配置し同相駆動するUni-Core技術を採用した2組4基構成のウーファー。フラッグシップグレードスピーカー「BLADE」の技術を援用した全帯域での点音源放射思想などKEFの独自技術が搭載されている。インターフェイスも豊富だ。
LS60 Wireless
¥880,000(ペア) 税込
●型式:アンプ内蔵3ウェイ5スピーカー・バスレフ型
●使用ユニット:19mmドーム型トゥイーター+100mmコーン型ミッドレンジ/同軸、100mmコーン型ウーファー×4
●アンプ出力:100W(トゥイーター)+100W(ミッドレンジ)+500W(ウーファー)
●接続端子:アナログ音声入力1系統(RCA)、デジタル音声入力3系統(同軸、光、HDMI eARC)、LAN端子、サブウーファー端子1系統、ほか
●寸法/質量:W212×H1,090×D394mm/62.4kg(セット
複雑なユニット構成でありながら、そんな素振りを全く感じさせず、見事に前面のUni-Qドライバーの位置を中心に、点音源的な音響的広がりを描く、その離れ業に驚く。「ムーンリバー」では、ヴォーカルが音場中央にアキュレイトに定位し、背後の楽器もきちんと在るべき位置から発音。まさに本スピーカーのユニット配置が醸し出す濃密で立体的な空間から、実体感のある音像が忽然と姿を現すのである。ヴォーカルは伸びやかで、優しい。ピアノは細部まで気配りが行き届き、端正で美しい。
LS60 Wirelessの美質はそれだけにとどまらない。音色の端麗さが際立つのである。艶々した音の粒子が煌々と輝く様は「スペイン奇想曲」で十全に聴ける。高彩度で、ハイコントラストな鮮明音調で貫かれ、特に弦の倍音が豊か。またレスポンスが俊敏なのも特筆されよう。100mm口径Uni-Qドライバー+135mmのクアッドウーファーと、比較的小さな口径ドライバー群ゆえの、音の速さだ。音の浮力が強く、広く深い空間内に美しく漂う。まるで2つのスピーカーの間に、凝縮された音楽の小宇宙が見えるようだ。
結論。音源へのリスペクトこそ
LSシリーズに共通する魅力
小型から大型までKEFの4つのLSシリーズのアクティブスピーカーを聴いたが、共通するのは、音源へのリスペクトだ。Qobuzから与えられた豊潤な音と音楽情報に誠実に反応し、そのリソースの魅力をKEFサウンドの文脈にて、音場空間に解き放ち、堪能させてくれる。システム構成はQobuz再生の最も簡潔なアンサンブルではあるが、音のパースペクティブは広くて、深い。


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