静かなネットワーク環境こそ、Qobuzの高音質を引き出すポイントだ
いまや一般家庭に広く普及しているホームネットワーク。家の中のパソコン、スマホ/タブレットやデジタル家電などの複数の機器をネットワークで接続し、インターネットへのアクセス、各種データの相互共有、あるいは定期的な情報のやり取りなど、高度な通信が24時間、日常的に行なわれている。
いまや我々の生活になくてはならない実に便利なシステムであり、多彩な音源を収納したミュージックサーバー(≒NAS)の再生や、各種音楽配信サービスの再生といったネットワークオーディオ機器についても同じシステムのなかで、動作しているというわけだ。
ただここまで多様なデータが常時行き来している状況は、オーディオ再生にとってどうなるかという疑問もわいてくる。デジタル家電、スマートフォン、タブレット、パソコンと、様々なデジタル機器間では四六時中、相互通信が行なわれているわけで、ネットワーク内は相当騒がしい状況が続いていると見て間違いない。
オーディオ機器としての動作に注目しても、同一ネットワーク上にある機器が通信を行なうと、ネットワーク上の別の機器がそれを一度受信したうえで自身が対象かどうか判別する必要があるし、基幹ルーターの負荷も大きくなるため、その配下にあるオーディオ再生への影響は不可避だ。

Wireless Access Point
OPT AP
¥33,000 税込
●型式:ワイヤレス・アクセスポイント
●接続端子:LAN端子2系統(RJ45、SFP)
●通信規格:RJ45・10Mbps、100Mbps、1000Mbps、SFP・1Gbps、2.5Gbps
●Wi-Fi規格:IEEE 802.11a/b/g/n/ac/ax(Wi-Fi 6)
●対応周波数帯域:2.4GHz、5GHz
●最大通信速度(理論値):2.4GHz帯・最大574Mbps、5GHz帯・最大2,402Mbps
●寸法/質量:W192×H38×D192mm/502g
Network Router
TOP WING
DATA ISO BOX
¥55,000 税込
●型式:オーディオ専用ルーター
●接続端子:LAN端子5系統(RJ45/オーディオ用×3、無線アクセスポイント用×1、上位ルーター用×1)
●通信規格:10Mbps、100Mbps、1,000Mbps
●寸法/質量:W128×H34×D86mm/243g
●備考:DATA ISO BOX単品販売は特約店のみの扱い(詳細はトップウイングホームページ参照)。OPT APバンドルセット(¥77,000税込/特約店以外での販売にも対応)あり
●問合せ先:(有)トップウイング
静かなネットワーク環境で本質的な品位向上を目指す
ネットワーク内に混在するデジタル家電やモバイル端末などの通信からオーディオ機器を隔離し、良質なオーディオ再生を可能にする純粋なネットワーク空間を構築できないものか。そんな発想から開発されたのが、トップウィングが5月にリリースしたオーディオ専用ルーターDATA ISO BOXだ。本機は、いわゆる「2重ルーター」として機能し、オーディオ機器/AV機器が加わるネットワーク環境を独立させることで、オーディオ再生に不要なデータのやり取りを極力防ぎ、「静かなネットワーク環境」を作り出すものだ。
本機の開発で徹底してこだわったのは、ルーターとして優れた基本性能を獲得すること。家庭内ネットワークとの分離を実現したとしても、新たなノイズ源になったり、動作が不安定になってしまっては本末転倒。音楽再生に特化することの優位性を明確にするために、業務用ルーターでも実績のある高信頼性CPUをベースに設計し、メモリーにもSK hynix製の高品質DRAMを採用している。またソフトウェアについても、オーディオ専用ルーター向けに徹底的に最適化を図っている。
ただ操作性面に注目すると、単純にDATA ISO BOXをネットワークに追加すると、メインのネットワーク環境としては分離されてしまうため、スマホ/タブレットとオーディオ機器が相互にやり取りできなくなり、ネットワークオーディオの再生上のアプリ操作などができなくなる問題が発生する。
ネットワーク関連の技術に精通した人であれば、ルーターなどの設定で回避できるというが、ひとつ間違えば日常のインターネット環境が損なわれる可能性もあり、われわれのような一般人にとってはハードルが高い。
そこでトップウイングでは、ネットワークオーディオ専用Wi-Fi親機(無線アクセスポイント)として動作するOPT APという製品を用意している。DATA ISO BOXにOPT APを組み合わせることで、ルーターやアクセスポイントの設定を変更することなく、スマホ/タブレットがオーディオ専用ネットワークに加わり、快適なアプリ操作が約束されるというわけだ。
DATA ISO BOXのLAN(RJ45)端子はオーディオ用3ポート、アクセスポイント用1ポート、ルーター用1ポートの計5ポート。ルーターポートは既存のルーター(上流ルーター)への接続を想定している。

ネットワークオーディオに特化した「オーディオ専用ルーター」DATA ISO BOX。家庭内の様々な機器がインターネットに繋がれることが当たり前になったいま、多数のデータ通信がネットワーク内でやり取りされている。そうしたデータ通信は、オーディオ機器のネットワーク再生においては「ノイズ」となりえる。DATA ISO BOXは、そうした環境からネットワーク通信を「隔離(アイソレート)」し、静かなネットワーク環境をもたらすコンポーネント。高度なネットワークの知識なしに、本機を追加することだけで独自ネットワーク環境を構築できる点が画期的だ

接続している様子。本体は243gと非常に軽量なので、太いオーディオ用LANケーブルなどを使う場合は、安定した設置のため、天面にウェイトなどを使う必要があるかもしれないが、放熱用ヒートシンク部分を避けるなどの工夫を施したい

一般的なRJ45規格のLAN端子が4系統備わるだけと、接続端子はシンプル。左からオーディオ接続用端子が3系統、「AP」と印されたアクセスポイント用端子、上位ルーターとの接続用端子となる。指定された端子にそれぞれの機器を繋ぐ。なおオーディオ用端子から、さらにスイッチングハブなどを介して接続するオーディオ用機器を増やすことも当然可能だ
OPT APはシンプルな無線アクセスポイントで、特別な機能はあえて搭載せず、安定した動作を優先させている。SFPポートは、SFPポート搭載のスイッチングハブとの接続を想定しているようだ。

DATA ISO BOXは、静かなネットワーク環境を得るために、「2重ルーター」の状態を作り出す機器。DATA ISO BOXのオプション的アイテムとして、同機と繋がれているオーディオ機器の操作に、スマホやタブレットなどWi-Fi経由での端末を組み込むための専用の無線アクセスポイントOPT APが用意されている。汎用の無線アクセスポイントを使う場合は、然るべき設定が必要であるが、高度なネットワークの知識が要求されるため敷居が高い。OPT APは、DATA ISO BOXとの連携を前提にした設定済で出荷されるため、LANケーブルで接続するだけですぐに使用可能であり、しかもルーター機能を省いており、単体アクセスポイントとしてのソフトウェアが最適化されている

OPT APは、SFP(左)とRJ45(中央)の2系統のLAN端子を装備。DATA ISO BOXとはRJ45端子を使い一般的なLANケーブルで繋げばよい。SFPポートは、SFP端子を備えたスイッチングハブとの接続を意図しているようだ。なお、SFPとRJ45とは排他仕様になっている
情報量向上にとどまらない期待を大きく超える変化に驚く
ではHiVi視聴室にDATA ISO BOXとOPT APの組合せを持ち込み、その効果を確認していくことにしよう。ちなみに同視聴室はステレオサウンド社のオフィス内にあり、ネットワーク回線を執務エリアと共有、モバイル端末を使うために、Wi-Fiアクセスポイントを壁面LAN端子に接続している。今回の取材は平日の午後2時前後にスタート、業務時間内だったため、回線は相当ビジーだと思われる。
試聴コンテンツはQobuzの再生に限定し、ベッド・ミドラー、リンダ・ロンシュタット、セリーヌ・ディオン、チョ・ソンジンなど、日頃から聴き慣れた楽曲を中心に再生。システムはデラのミュージックサーバーN1A/3をトランスポートとして使用し、デノンのSACDプレーヤーDCD-SX1 LIMITEDのDAC部でアナログ変換後、プリメインアンプPMA-SX1 LIMITEDに送り、Bowers & Wilkinsの802 D4スピーカーを駆動している。
まずHiVi視聴室に常設しているバッファロー製アクセスポイントとN1A/3の間にDATA ISO BOXとOPT APを設置して、LINN appで動作を確認してみたが、プレイリストの呼び出し/選曲/再生と全く問題なし。DATA ISO BOXとOPT APは基本設定を済ませた状態で出荷されるため、既存のネットワークシステムに接続するだけで、そのまま使用可能だ(OPT APとスマホ、タブレットのWi-Fi接続設定は新たに必要)。
さて気になるサウンドだが、期待値を大きく超える変わり様に驚いた。両機を加えたことで、静寂感が増す、微細な響きが鮮明になる、あるいは目の前に拡がる空間が大きく、雄大になるなど、情報量の向上は明らかだが、単にそれだけにとどまらない。
リンダ・ロンシュタットの声がより優しく、穏やかに感じられ、チョ・ソンジンのピアノは響きの質感が向上し、力強く浸透する。とにかく生き生きとして、しなやかで、聴き心地のいいサウンドに変化するのである。
ワンアイテム(いや正確にはツーアイテムだが)の追加でここまで音が変わってしまうとは――。

小細工なしの大変化。まさに「音楽が楽しい!」
ここでふと気づいたのが、このシステムでは視聴室常設のアクセスポイントは特に必要ない、ということ。ならばそれを取り除いてしまった方がよりシンプルで、無駄のない接続が実現するではないか。早速、壁面のLAN端子とDATA ISO BOXをダイレクトに接続して、同じ楽曲を再生してみたところ、その効果は歴然だ。
視聴室の常設セッティングにDATA ISO BOX(とOPT AP)を加えたことで、刺激的なテイストが抑えられ、肌合いのいい穏やかな音調が楽しめるようになった。そこから、さらに余計なアクセスポイントを経由しない状態へと接続を替えることで、音像の定位、音場の拡がりともにフォーカスが鋭く、曖昧さを感じさせない状態に変化。チョ・ソンジンのピアノは立ち上がりの素早さ、確実なリズム感と、過渡応答の良さに磨きがかかる印象だ。
まさに「音楽が楽しい!」と皮膚感覚で実感させてくれるサウンド。もう1度、同じ楽曲を聴き直したくなってしまった。
まず、ベッド・ミドラーの名曲「ローズ」を聴いたが、淡々と、それでいて愛情深く、ゆったりと歌う様子が実に心地いい。ダイナミックレンジに余裕があり、音の線が太く、そして落ち着いて、余韻が生々しい。彼女の声により近づき、息づかいまで感じながら、親密に聴いている感覚。音の粘り、しなやかさ、ニュアンスの表現力が傑出している。
セリーヌ・ディオンが歌う「マイ・ハート・ウィル・ゴー・オン」は、聴き手を柔らかな空気で優しく包み込んでくれるような独特の包容力を感じさせる。声を張り上げるクライマックスでも、刺激的にはならず、きめ細かな質感はそのまま変わらない。小細工なしで、ど真ん中の直球で堂々と勝負してくるような気持ちよさは、格別だ。
Qobuz再生の伝送経路にDATA ISO BOX+OPT APが加えただけだが、最終的なパフォーマンスは劇的に変わり、オーディオシステムとしての表現力が力強く押し上げられた。特に802 D4スピーカーが軽やかに、気持ちよさそうに音楽を奏でる様子が印象に残った。
OPT APが加わることで、機器操作の不具合は事実上なし。DATA ISO BOX+OPT APのセット価格は7万7,000円。投資に対する見返りは、すこぶる大きい。
再生楽曲はこちら> https://open.qobuz.com/playlist/35034440

Column
Apple TV 4K端末での効果をチェック。動画再生でも、音そして映像面で効果大!
Apple TV 4Kの動画再生でもDATA ISO BOXの効果を確認してみたが、画質/音質ともにその変化は少なくなかった。音質はQobuzの再生と同様、音の芯が明確になる。質感がきめ細かく、場面、場面の気配、空気感をより鮮明に描き出す印象だ。映像の注目点は、コントラスト感に余裕が生まれ、細部まで色濃く描き出されること。ノイズの粒子が細かく、質感が上がったことで、黒が締まり、濃密な色が楽しめるようになったのだろう。(藤原)

▲DATA ISO BOXが作り出す「静かなネットワーク環境」は動画再生でどのような効果をもたらすか。それを確認するため、動画再生端末の定番、Apple TV 4K(Wi-Fi+Ethernet仕様)を使って、120インチ大画面+7.2.6構成ドルビーアトモス対応サラウンドシステムでチェックしてみた。動画作品は、主にApple TVでデジタル購入した映画作品を用いた。なお、Apple TV 4Kの操作は(スマホなどのモバイル端末ではなく)映像機器に表示される画面での制御になるので、OPT APは必要としない
>本記事の掲載は『HiVi 2025年秋号』


