新鋭・中西舞監督のスタイリッシュホラー3作をオムニバスにした『LABYRINTHIA/ラビリンシア』の公開を記念した初日舞台挨拶が8月15日(金)、テアトル新宿で行なわれ、中西監督と、第三話「告解」に主演の 和田光沙が登壇した。

ヒッチコックの『サイコ』に触発されて、人間心理の奥底に潜む闇に興味を持ち、やがて映画監督としてその深層心理に着目したホラー・スリラーを創り始めたという中西監督。舞台挨拶は、司会を含めた3者の鼎談という形式で進み、人間心理に興味を持ったきっかけや、作品制作の経緯・裏側、また、和田については「告解」で演じた役柄の作り込み方など、興味深い話を披露してくれた。ここでは、その舞台挨拶の内容を簡潔に紹介していきたい。

まずは、中西監督が映画を作り始めたきっかけから。もともとは配給会社の社員として働きながら、空いた時間や有給を使って、助監督やプロデューサーとしての活動を行なっていたという。ある時(2018年)、釜山で開催されたワークショップに(プロデューサーとして)参加した際、参加者たちと仲良くなり、“君が監督する機会があったら手伝うよ”と言ってもらえたそうで、結果、滞在期間中(3週間ほど)にストーリー(第二話「HANA」)を膨らませ、そのまま短編として撮影、初監督を経験したということだ。

自身2作目となる「第一話『SWALLOW』」(2021年)については、釜山で開催されたイベントに参加した際、台湾のプロデューサーが「HANA」を気に入ってくれて、台湾での短編映画を作る企画コンペへの参加を促され、応募。結果として見事、選考され作品の制作にこぎつけた、という。
そして話は、なぜホラージャンルを志したのか、へ。司会にそう尋ねられると、監督は「ホラーが自分のDNAの中にあって」と返答。小さいころからホラー映画を見て育ち、それに魅了された自分がいたという。「影響を受けた作品はたくさんあるんですけど、ホラーっていうと単純にお化けやモンスターが出てくるものと思っていたら、『サイコ』(ヒッチコック)で、人間の心の闇というか、心理的な恐怖を垣間見て! それにすごく衝撃を受けたんです。これは周りの人に話さなくちゃだめだと思って、クラスの友達を呼んで上映会を開いたんですけど、翌日には友達をみんな失ってしまって……」。

そうやって、人が怖がってくれることに対して、「自分の中で快感というちょっと変な感覚が芽生えてしまったんです」とか。そして、人間心理の闇に触れる機会を得たホラージャンルが「ずっと好きで! だから自分が描く物語はやっぱり、ジャンル(ホラー・スリラー)にこだわって挑戦していきたい」とコメントしていた。
続けて話は第三話「告解」へ。まずは、主演の和田に参加の経緯が聞かれた。プロデューサーに作品の話を聞いて、企画書と脚本を読んで魅了されたそうで、「すぐに、やらせてほしい」と返事をしたそう。役作りについては、脚本にある、虫(生き物)を殺めることで自分の気持ちを満たす。そのことについて、自身の子供時代を振り返りながら「無邪気に生き物を殺めてしまう残酷さ」を深く話し合ったそうだ。

中西監督には、そのベースともいえる経験が実際にあったそうで、「同級生からカイコの幼虫を預かって帰宅するときに、すごくイライラしていて……。魔が差したんでしょうね、握りつぶしちゃったんです。そうしたらイライラが吹き飛んでしまって……。その感覚がずっと自分の中に残っていて、それがあることの不安とか怖さみたいなものを、ずっと抱えて生きて来たんです」。そして、大人になった時に、幼少時に生き物に対して虐待をすると、大人になった時に人に対する暴力に発展してしまう可能性が高い――という論文を見つけた時に、「自分の中にある過去の経験と結びついて、怖くなってしまって……」。それを作品としてまとめたのが「告解」になったということだった。それを聞いた和田は、「そういう話(心の闇)を聞いて、役に落とすことができた気がします」と話していた。

ちなみに中西監督は、新作の企画(長編作)も進行中だといい、「アジア3か国の合作という形で(ヨーロッパが入るかも)、第二話「HANA」の要素を取り入れたサイコスリラーを開発中」とのことだ。
最後には各々からメッセージが発せられ、和田は「中西監督の、初めての劇場公開という記念すべき時に来ていただいて、ありがとうございます。ホラーというと、お化けが出たり、血がブシューって飛び散るものを想像しがちですけど、人間の心の闇とか、誰しもが持っているであろう自分の中にある見たくない部分、愛せない部分に光をあてて、それを希望の方向に寄せていく。私にはそう見えました。作品を観た方が、少しでも自分を愛せるようになったら嬉しいです」、中西監督は「この劇場の座席数を知って、震えていたんですけど、今日は来てくださってありがとうございます。分かりやすいホラーではありませんが、何かしらが、みなさんの心の琴線に触れたらいいなと思っています。今後もジャンル映画を創っていきますので、もっと成長した作品をお届けできるように頑張ります。今日は、ありがとうございました」、というコメントを以て、舞台挨拶は終了した。

映画『LABYRINTHIA/ラビリンシア』
2025年8月15日(金)より テアトル新宿、テアトル梅田、アップリンク京都、ほか全国順次公開中
●第一話『SWALLOW』
永遠の若さ、その代償は──。
タンペレ映画際Special Mention、CINEMAZ International Film Festival 最優秀監督賞、ハワイ国際映画祭、高雄映画祭、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭、富川ファンタスティック映画祭 他

原題:喰之女/2021年制作/22分/中国語/スコープ/ステレオ/台湾 ・日本合作
出演:韓寧(Netflix『返校』)、劉黛瑩(『先生、本当の恋って?』)、陳雪甄(『黙視録』)
監督・脚本・編集:中西舞
プロデューサー:郭柏村、沈樺、中西舞
撮影監督:衛子揚
音楽:ユン・チェヨン(Netflix『SKYキャッスル~上流階級の妻たち』)
サウンドデザイン:Monofoley Sound Works(『ディヴァイン・フューリー/使者』『哭声/コクソン』)
特殊メイク:IF SFX Art Maker(『哭悲/THE SADNESS』)
【あらすじ】
女優として成功する事に全てを注ぐ雪蘭(シュラン)。ある日彼女は女優仲間の??(ミミ)から招待制の晩餐会に誘われる。10年前から変わらない??の若さと美貌の秘密は、晩餐会で出される料理に隠されていると期待を膨らませる雪蘭だったが、そこで待ち受ける狂気の渦に彼女は呑み込まれて行くー。
●第二話『HANA』
あるベビーシッターの恐怖の体験……
シッチェス・ファンタスティック映画祭、Monsters of Film Sweden 最優秀短編賞、Portland Horror Film Festival最優秀作品賞、Fright Fest、大阪アジアン映画祭 他

原題:――/2018年制作/13分/韓国語/ビスタ/ステレオ/韓国・日本合作
出演:イ・チョンビ、チョン・ヒジン、キム・ドウン
監督・脚本・編集・美術:中西舞
プロデューサー:イ・ジュンサン、中西舞
撮影監督:イ・ジュンサン
音楽:ユン・チェヨン(Netflix『SKYキャッスル~上流階級の妻たち』)
サウンドデザイン:Monofoley Sound Works(『ディヴァイン・フューリー/使者』『哭声/コクソン』)
【あらすじ】
ベビーシッターの面接を受けにある高級マンションを訪れた大学生のスジン。彼女を待っていたのは4歳になる娘ハナの母親だった。威圧的な態度で面接を進める母親に圧倒されるスジンだったが即採用となり、その日からベビーシッターをする事に。母親が外出し、スジンはハナが昼寝から目覚めるのを待つが、彼女の周りで次々と不思議な現象が起こり始める。
●第三話『告解』
その懺悔は、聞いてはいけないものだった――。
ファンタジア映画祭コンペティション(短編部門)、ニッポン・コネクション 他

英語タイトル:CONFESSION/2025年制作/15分/日本語/ビスタ/5.1ch/日本
出演:和田光沙(『岬の兄妹』)、水澤紳吾(『室町無頼』『二人静か』)
監督・脚本・編集・美術:中西舞
プロデューサー:森田一人、中西舞
撮影監督:芦澤明子(『春画先生』『レジェンド&バタフライ』)
音響:弥栄裕樹(『化け猫 あんずちゃん』)
【あらすじ】
教会で静かに祈りを捧げる神父の元に訪れる一人の若い女性。自身の犯した罪を告白したいと言う女性の願いを聞き入れる神父だったが、穏やかな世界を根底から揺るがす不穏な真実が神父を待ち受けていた。
配給:インターフィルム
(C)SWALLOW FILM PARTNERS.
(C)2018 HANA
(C)CONFESSION Film Partner.

