2014年に設立されたN&E AUDIO(香港)を主宰するエディソン・ウォンのオーディオ・ブランドが、エディスクリエーション(EDISCREATION)。IT関連技術を知悉し、オーディオマニアであるウォン氏によって開発されたネットワークオーディオ周辺機器がSILENT SWITCH OCXOとFIBER BOX2だ。2021年春にはそのアップグレード版がわが国に輸入され、大きな話題を呼んだことは記憶に新しい。ぼくも自室でこの2モデルを試し、その音質向上効果、とくに音楽ストリーミングサービス再生時のメリットに感銘を受け、光絶縁ツールであるFIBER BOX2を購入した。
そして昨年秋、この2モデルの後継機となるSILENT SWITCH OCXO 2とFIBER BOX 3が登場することに。日本向けモデルはJPSM(JAPAN STANDARD MODEL)、さらに贅沢なパーツを奢ったJPEM(JAPAN EXCLUSIVE MODEL)の2機種で、それぞれ英文字が型番末尾に付けられている。ともに横幅27cmのコンパクトサイズで、ブラック・フェイスのシンプルで美しいデザインが施されている。

写真(左)SILENT SWITCH OCXO 2 JPSM、(右)FIBER BOX 3 JPSM
Switching Hub
EDISCREATION
SILENT SWITCH OCXO 2 JPSM
¥330,000 税込
●型式:スイッチングハブ
●接続端子:LAN端子6系統(RJ45×5、SFP×1)、シンクロナイズド・クロックバス入力1系統ほか
●寸法/質量:W270×H87×D220mm/3.0kg
●備考:全端子個別にグラウンドアイソレーションスイッチ/動作スイッチ装備
●ラインナップ:SILENT SWITCH OCXO 2 JPEM(¥616,000税込)
Optical Network Isolator
FIBER BOX 3 JPSM
¥330,000 税込
●型式:光ネットワーク絶縁ツール
●接続端子:LAN入力1系統(RJ45)、LAN出力1系統(RJ45)、シンクロナイズド・クロックバス出力1系統ほか
●寸法/質量:W270×H87×D220mm/2.8kg
●ラインナップ:FOBER BOX 3 JPEM(¥616,000税込)
●オプション:シンクロナイズド・クロックバス接続用専用ケーブル(CS CABLE 0.75M、¥33,000税込)
●問合せ先:(株)タクトシュトック TEL. 042(316)9517
SILENT SWITCH OCXO 2はいわゆるスイッチングハブとかネットワークスイッチと呼ばれるジャンルの製品。FIBER BOX3は、(金属導体を使いRJ45端子を備えた)通常のLANケーブルから入力されたネットワーク信号を内部で電気/光変換、絶縁することでノイズを除去した後に光/電気変換、RJ45端子で、ネットワーク信号を出力するものだ。

SILENT SWITCH OCXO 2 JPSMは、高信頼性のノイトリック製RJ45端子5系統、SFP端子1系統の6ポート仕様のスイッチングハブ。RJ45端子は、グラウンドの接続(Connect)と遮断(Isolate)が個別に可能となるのが非常にユニーク。どちらが優れているかは設置環境によって変わるが、それを個別に試せるというのがマニアックであり、設計者エディソン・ウォンの細部までのこだわりが垣間見える
SILENT SWITCH OCXO 2、FIBER BOX3ともにトランスを積んだアナログ・リニア電源回路と同等スペックのOCXO(恒温槽付水晶発振器)クロックが搭載されている。また前モデルに引き続き、SILENT SWITCH OCXO 2にはグラウンド絶縁スイッチが実装されていて、本機に接続された機器からのグラウンドノイズを遮断することが可能。これは端子ごとにスイッチ一つで「グラウンドを繋ぐ/切る」が簡単に切り替えられる。また、本機には新たにSFPポートが1系統設けられたので、SFPポートを使ったオーディオ機器とのダイレクト接続も可能となった。
値段が2倍近くするJPEMの特徴は以下の通り。①3点支持のフットに特許を取得した「リップル・ベース・フッター」を採用。これは内部にセラミックボールを埋め込んでダンピングをかけた手の込んだもので、輸入元は単品売りするそうだが、税別価格で10万円もするという。②フルテック製高級インレットの採用。③英国オーディオノート、独ムンドルフの音響用コンデンサーの採用。④内部配線材に性能の高いUPOCC(Ultra Pure OCC)ケーブルの採用などである。
FIBER BOX3は、新たにSILENT SWITCH OCXO 2と同サイズ、同デザインに変更されている。内部構造にも手が入り、光ファイバーケーブルも新タイプのものが採用されている。本機にもJPEMタイプが用意されるが、その内容は先述したSILENT SWITCH OCXO 2とまったく同じ内容だ。

FIBER BOX 3 JPSMは、RJ45によるLANケーブルを本機に接続、RJ45端子で出力するという、見かけ上はシンプルなハードウェアだが、内部で電気/光変換→ファイバーケーブル→光/電気変換を行なうことで、光絶縁によるノイズ遮断を行なう高度な技術を盛り込んだアイソレーターだ。前世代機から、内部パーツや光ファイバーケーブルなど一新、フルモデルチェンジを果たした。筐体もSILENT SWITCH OCXO 2と同じサイズ、同デザインに変更され、実使用時の使い勝手に配慮された
そして、今回新たな試みとして提案されたのが「シンクロナイズド・クロックバス・テクノロジー」である。SILENT SWITCH OCXO 2とFIBER BOX3を専用ケーブルで繋いで制御信号(クロック信号ではない)を相互に送ることで両者のクロックを同期させるというもの。こうすることで、SILENT SWITCH OCXO 2に接続された複数のネットワーク対応製品、たとえばネットワークプレーヤー、ネットワークサーバー等が高精度クロック信号を共有することになり、この同期によりすべての製品が完璧なタイミングで動作し、ジッター(デジタルデータの時間軸上の変動)が最小限に抑えられ、音質向上を図れる。この手法はとても興味深い。
スイッチ、光絶縁ツールとも大きな効果を確認。これは驚異的
こちらのページで取り上げたラックスマンNT-07+DA-07Xを用いて、SILENT SWITCH OCXO 2 JPSMの効果を調べてみよう。①HiVi視聴室常設のW-FiルーターとNT-07をLANケーブルでダイレクトにつないだ場合、②HiVi視聴室常設のバッファロー製ハブBS-GS2016/Aを介してNT-07をLAN接続した場合をまず確認する。

①と②を比較すると、やはりオーディオ的なつくり込みが施された②のほうが音質的な優位性が明らかに認められる。サマラ・ジョイの「ア・フール・イン・ラブ」(96kHz/24ビット)を聴くと、①は音数が少なく躍動感に乏しい。比較すると②は音場が立体的に広がり、ドラマーのブラッシュワークなど細かな音がクローズアップされるようになる。
③次にBS-GS2016/AからSILENT SWITCH OCXO 2に換装して音を聴くと、これがまた断然違う。ホーン・セクションの響きが俄然厚くなり、余韻が深く長い。ヴォーカルのニュアンスもひときわ豊かになる印象だ。ユン・サン・ナが歌う「Shenandoah」(88.2kHz/24ビット)では、スタジオの隅々まで響きで満たされる実感が得られ、ナイロン弦を爪弾くギタリストのアルペジオの強弱が克明に捉えられるようになり、このギタリストの巧さが如実にわかるようになったのである。聴感上のSN比が向上したということだろう。
SILENT SWITCH OCXO 2には、先述した通り入出力ごとにルーターからのグラウンドを遮断できるスイッチがある。「Isolate」がグラウンドを<切る>、「Connect」がグラウンドを<繋ぐ>設定になる。これはなかなか微妙な違いで、今回のHiVi視聴室の構成では「Connect」のほうが音楽のニュアンスの再現でいくらか良い結果が得られた。前モデルで別の環境下でこの切替えを比較したときは「Isolate」のほうが立体的な音場感の再現でより好ましかったのだが……。購入した方は、実際に自室で聴き比べてどちらに設定するかを決めればよいと思う。
ではFIBER BOX3の効果はどうだろうか。④Wi-FiルーターとSILENT SWITCH OCXO 2の間にFIBER BOX3をLAN接続してみた。するとどうだろう、サマラ・ジョイ、ユン・サン・ナの楽曲ともにサウンドステージがぐんと広がり、その中にリアルな声や各楽器が手でつかめるような実在感を伴なって定位するようになったのである。トランスペアレンシーの驚異的な向上というべきだろう。

クロックを同期させた2台連携動作は圧倒的な効果
最後に、専用ケーブルでSILENT SWITCH OCXO 2とFIBER BOX3間を繋ぎ、先述した「シンクロナイズド・クロックバス・テクノロジー」の効果を検証してみた。SILENT SWITCH OCXO 2のクロックシンク設定を「Internal(内部クロック動作)」から「External(外部クロック動作)」に変更しての比較試聴である。

両モデルを使う場合に、クロックを同期しての動作「シンクロナイズド・クロックバス・テクノロジー」が可能となる。クロック信号を同期させることで、シグナルデータのパケットが正しい順序かつ正しいタイミングで送受信でき、結果としてSILENT SWITCH OCXO 2に繋がれたネットワーク機器に低ジッター信号が供給できる

シンクロナイズド・クロックバス・テクノロジーを使うには、両モデルのほかに専用ケーブル(CS CABLE 0.75M、¥33,000税込)が必要となる

これは効いた。クロックを同期することで、ローレベルの情報量が増え、眼前に繰り広げられるサウンドステージの空気がいっそう澄んだかのようなクラリティが得られるようになったのである。とくに「シンクロナイズド・クロックバス・テクノロジー」の効果を強く実感させたのは、ユセフ・デイズの「ブラック・クラシカル・ミュージック」(48kHz/24ビット)だった。トランジェントの向上は明らかで、弾むようなキックの音圧感が増し、スネアやタムの立ち上がりがより鮮明になるのである。
総じて言えば、各楽器の音像定位がより安定し、盤石なサウンドステージが形成されると断言していい。超高級ディスクプレーヤーに匹敵する安定感という言い方もできるかもしれない。
「ネットワークオーディオ高音質化のカギはネットワーク上流のノイズ対策にあり!」ということを強く認識させられたエディスクリエーションの新製品2モデル。どこか遠い場所にあるデータ配信サーバーから音楽ファイルがリアルタイムで送られてくるQobuzのような高音質ストリーミングサービスの再生においてこそ、このアプローチは重要だと思う。
とくにSILENT SWITCH OCXO 2とFIBER BOX3をクロック同期させる「シンクロナイズド・クロックバス・テクノロジー」が実現する高音質を、ぜひ多くの方にご体験いただきたいと思う。
Column
ネットワーク上流のノイズ対策で動画ストリーミング画質が明確に向上
SILENT SWITCH OCXO 2とFIBER BOX3を用いることで、ネットワーク動画の画質が変化するかどうか、Apple TV 4Kストリーミング端末とパナソニックTV-55Z95A有機ELディスプレイで検証した。Apple TVでデジタル購入した4K映画『雨に唄えば』を観たところ、コントラストが向上し、女優さんたちが着るドレスの色合いが豊かになるなど、明らかな画質向上が認められた。ネットワーク上流のノイズ対策は画質に効くことも覚えておこう。(山本)

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>本記事の掲載は『HiVi 2025年春号』