この時代だからこそ鑑賞されるべき、観終わってから考えるべき一作との印象を受けた。主人公となるのはアフリカ系男性のジュールズ。彼はドラァグクイーンとしてナイトクラブでダンスを踊ることを職業としているが、その姿のまま街中に出ることもある。ジュールズは雑貨屋の中で、マチズモ第一主義的な集団からヤジを浴び、店を出たところで暴力の標的となる。踊ることをあきらめなければならないほどの重傷だ。

 が、回復していくにつれて、彼の心の中には、なにかメラメラと燃えるものが起き始めたようだ。それが「情念」なのか「復讐」なのかは見る者の考えにゆだねられているようにも感じられたが、ある日、同性愛者用のサウナでジュールズと、プレストンという男が出会う。ジュールズはプレストンが先の「マチズモ的集団」の一員だったことに気づいたが、プレストンにとってジュールズは「初めて見る好みの男性」。だがプレストンは自身のセクシャリティを当然ながら集団にいるときは隠していた。いわばサウナは彼が解放される場でもあったのだ。

 プレストンから「自身を偽るつらさ、せつなさ」を感じなかった、といいきれるほど私は冷淡ではない。それに、ひとりだと、気の小さな男なのだ。が、集団でいるときに発揮される「虚勢」のために、罪もないひとりの男が大けがを負った。その事実は消せない。さあ、ジュールズはプレストンに復讐するのか、それとも「愛」で包み込むのか。その場合の「愛」は、どんな形なのか。いろんな「気づき」と「内省」をおよぼしてくれる作品だ。

 監督・脚本はサム・H・フリーマン、ン・チュンピン、出演はネイサン・スチュワート=ジャレット、ジョージ・マッケイ、アーロン・ヘファーナン、ジョン・マクリー、アシャ・リード等。

映画『FEMME フェム』

3月28日(金) 新宿シネマカリテ ほか ロードショー

監督・脚本:サム・H・フリーマン、ン・チュンピン
製作:ヘイリー・ウィリアムズ&ディミトリス・ビルビリス
撮影:ジェームズ・ローズ
編集:セリーナ・マッカーサー
プロダクションデザイン:クリストファー・メルグラム
衣装:ブキ・エビエスワ
音楽:アダム・ヤノタ・ブゾウスキ
出演:ネイサン・スチュワート=ジャレット、ジョージ・マッケイ、アーロン・ヘファーナン、ジョン・マクリー、アシャ・リード
2023年|イギリス|英語|98分|カラー|シネマスコープ|5.1ch|原題:FEMME|字幕翻訳:平井かおり|レイティング:R18+|配給:クロックワークス
(C) British Broadcasting Corporation and Agile Femme Limited 2022

公式サイト
https://klockworx.com/movies/femme/

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