ディスクパッケージという形態を根強く支持し続けてきた日本の音楽コンテンツ市場だが、CDは1998年をピークに漸減し続けて、20年後の2018年には半分以下まで縮小、さらにその3年後2021年のCDの売上実績は金額ベースで1998年の5分の1近くまで減少している。趣味性の高いアナログレコードの価値が見直され、世代を超えて支持する音楽ファンが増えてはいるが、CDの減少分を補うまでの勢いはない。
苦戦を強いられているディスクパッケージの横目に、存在感を高めているのが、サブスクリプション(サブスク/定額使い放題)音楽ストリーミング配信サービスだ。高速モバイルデータ通信が可能なスマートフォン(以下、スマホ)が広く普及したこともあり、手軽に、どこでも、好みの音楽が楽しめるサブスクサービスが一気にブレイク。
さらに再生した楽曲傾向からおすすめ曲が提示されたり、独自のプレイリストが友人、仲間と共有できたり、あるいはアーティストの関連情報が素早く確認できたり、これまでにない新たなサービスへの評価も高く、ユーザーの意識は、「ディスクパッケージを“所有”して楽しむ」から「サブスクを“利用”して楽しむ」に変わりつつあると見て間違いない。
サウンドクォリティについては、MP3、AACといったロッシー圧縮音源がまだまだ主流だが、昨今、Deezer HiFi、Amazon Music Unlimited、Apple Musicなど、CD並の音質とされるロスレス圧縮音源や、さらに情報量の多いハイレゾ音源を扱うサービスも登場し、オーディオファイルの関心も高まりつつある。
ただひとつ悩ましいのは、これらの高音質サービスのほとんどがパソコン、スマホ、タブレットなどでの再生を想定したもので、オーディオ機器で楽しむことが重要視されていないことだ。もちろんパソコンやスマホからUSB出力して単体D/Aコンバーターと組み合わせることで、その持ち味を引き出すことは可能だが、理想を言えば、使い慣れたオーディオ機器の操作だけで、高品質の音楽を享受したい。
主な定額制音楽配信サービス
※2025年2月末現在




邦楽、洋楽、旧譜、新譜問わず、ロスレスまたはハイレゾ形式でストリーミング配信を行なうサービス「Qobuz」が2024年10月から日本でもスタート。先行するApple MusicやAmazon Musicとはオーディオ機器との親和性の高さという強みがある。Spotifyは「Spotify Connect」という機能でオーディオ機器との親和性は高いが、音質がロッシー圧縮形式となっている
いい音で音楽を聴きたい音楽ファンに
そんな我々の声に応えるかのように、咋2024年10月24日、日本国内向けのロスレス&ハイレゾ対応音楽ストリーミングサービス、Qobuz(コバズ)がローンチされた。2007年、フランス発の高音質の音楽ストリーミング/ダウンロードサービスで、現時点では欧州、北米、南米、オセアニア地域を中心に世界各国でサービスを展開中だ。
Qobuzの最大の特徴は、音の品質の高さに加えて、ネットワークプレーヤー/トランスポートをはじめとするオーディオ機器との連携を積極的に行なっていることだ。
実際、リンのSELEKT DSMやラックスマンNT-07などの高級機から、WiiM Ultraのようなエントリーモデルまで、すでにQobuz対応を謳ったモデルは数多く登場している。
もちろん、他のサービス同様にパソコンやスマホでの再生も可能で、使い勝手も他のサービスとほぼ変わらないが、様々なオーディオ機器とここまで高い親和性を確保した高音質配信サービスは初めて。
本特集では『いい音で音楽を聴きたい音楽ファン』に向けて、再生方法の詳細からおすすめ楽曲の提案、いい音の引き出し方、さらには、対応コンポーネントの俯瞰した紹介と、多彩かつ多様なアプローチでQobuz再生に迫っていく。Qobuzを楽しむためのヒントが詰まった本特集を、じっくりとお楽しみいただきたい。
>本記事の掲載は『HiVi 2025年春号』