近年、アナログレコードの復権に続き、CDの再評価が進んでいる。中国やアメリカなどでは中古CDの人気が高まっていると伝え聞くが、サブスクリプションで簡単に音楽を聴けるようになったことへの反動か、レコードほどの手間はかからず、モノとしての存在、確かにそこに込められた楽曲を手にしている実感を得るには12cmのCDは改めてちょうどよいサイズ感のパッケージメディアであると思う。
ここ日本でもサブスクで音楽を楽しむリスナーが大半となり、中古CDを取り扱うショップが減りつつあるが、安室奈美恵のように急にサブスクで楽曲が聴けなくなるという事態に対し、気に入った作品はCDのまま手元に残しておくべきと感じた方も少なくないだろう。加えて権利関係などの問題で未だにサブスクで配信されていないヒット曲も意外と多いのである。それゆえに改めてソフトを所有することの意義があるといえるだろう。
CDトランスポーター&リッパー:シャンリン CR60 ¥44,550(税込)
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●SoC:Junzheng製X1000E
●光学ドライブ:Philipsサーボ+SANYOHD850光ヘッド
●再生可能メディア:音楽CD/CD-R/CD-RW
●トランスポート出力端子:USB Type-A、同軸/光 デジタル出力
●リッピング出力端子:USB Type-A/B/C
●給電仕様:USB Type-C給電(5V・2A)、DC給電 DC9V/12V/15Vの互換対応
●寸法/質量:W180×H52×D205mm/約1.68kg
※付属品:USB Type-A to Cケーブル、USB Type-B to Aケーブル、リモコン、クイックスタートガイド、製品保証書
https://musinltd.com/Importbrands/885.html
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小型リモコンも付属しているので、普段使いでの再生操作も快適だろう
とはいえ、普段使いで持ち出せるような現行ポータブルCDプレーヤーの選択肢は少なく、90年代の充実した製品があふれていた頃を知る者にとって、音質的に納得できない現状であり、普段はリッピングしたものをスマホかDAPに保存し、持ち歩くことが前提となるのではないか。そうしたとき、自宅のオーディオシステムにディスクプレーヤーが既にないというケースも考えられるので、改めてCDを再生できるプレーヤー、リッピングドライブが欲しいところである。
しかしこのふたつの機能を持った製品の中で、ピュアオーディオとしてシステムに組み込めるクォリティのものはきわめて少ない。前置きが長くなってしまったが、今回レビューするシャンリン「CR60」は前述の課題をクリアーする、CD再生とリッピング機能を両立した製品だ。
ひとつ注意しなくてはいけないのはDACを内蔵しないCDトランスポートであるので、本機からCDの音を聴くにはアンプやアクティブスピーカーなどのデジタル入力が必要となる。同社に限らずいくつかのブランドでコンパクトな筐体のCDプレーヤーが存在するが、DACがない分、そこにかけるコストを省略できるため、トランスポートの方がプライスも幾分安くなるメリットも見逃せない。
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ディスクトレイを搭載しているので、近年話題になることの多い8cmシングルCDの再生も可能だ
まずブランドについても軽く紹介しておこう。シャンリンは1988年、中国で創業したハイエンド・オーディオ機器メーカーである。オーディオに特化した中国ブランドとしては老舗のひとつといえ、現在はハイレゾ対応DAPなど、ポータブルプレーヤー/デスクトップオーディオ機器を中心に、本国では据置き型ハイエンドセパレートシステムに至るまで、幅広いラインナップを展開。また長年オーディオ製品の生産・開発を行っている実績から、世界中のオーディオブランドのOEM製造も手掛けている。
CR60はコンパクトなデスクトップサイズのCDトランスポートで、筐体には振動への対策も考慮したCNC加工によるアルミパネルを採用する、堅牢性の高い仕様が特徴だ。CD挿入は一般的なトレイスタイルで、スロットイン型では対応していない“短冊CD”として再評価されている8cmシングルCDも再生できる。また、背面パネルに設けたスライドスイッチで通常のCD再生を行う「TRANSPORT」モードか、リッピングを行う「RIPPER」モードを選択できるため、特殊な操作は必要ない。
ドライブメカにはフィリップス製サーボシステム、レーザーピックアップに三洋電機製HD850を搭載。システムプラットフォームに同社の小型プレーヤー製品にも用いていたものより演算能力が大幅に向上したというJunzheng製 X1000Eプロセッサーを積み、電力消費の最適化や低遅延起動などにも効果を発揮する。フロントパネルには1.14インチのカラーディスプレイを設け、動作状況や出力端子情報などを表示できる。
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写真左側にトランスポート/リッパー機能の切り替えボタンを備える。CR60はDAC機能は搭載していないので、接続端子はすべてデジタル用となっている。給電はACアダプターとUSB Type-Cの両方で可能
「TRANSPORT」モード時のデジタル出力はUSB Type-A端子の他、S/PDIF同軸/光をそれぞれ1系統用意。リッピング用にはトランスポート用と兼用のUSB Type-A端子、USB Type-B端子、USB Type-C端子が用意されている。ちなみにPC接続時、本機は外付けCDドライブとして恒常的に使用できないので注意しておきたい。
電源はDC入力を設けており、汎用ACアダプター(9V/12V)か、USBType-C端子(5V・2A)を使った供給を行う。後者のUSB Type-C端子については、大容量モバイルバッテリーをつなぎ、低ノイズなバッテリー駆動も実現可能だ。なお、セットにはACアダプターや電源用ケーブルは付属していないので、予め準備しておく必要がある。
まずCR60の基本的な機能であるトランスポートとしての実力をみるべく、Stereo Sound ONLINE試聴室にて、その音を確認した。前述の通り、本機にはDAC回路がないため、必要最小限のシステムをいうことでDAC内蔵プリメインアンプの中から最新の注目機、デノン「PMA-3000NE」を準備してもらい、スピーカーにはB&W「802 D4」を接続。アンプへはUSB、同軸、光と、それぞれのデジタルケーブルでつなぎ、各接続での音質差もチェックした。
デノン「PMA-3000NE」との組み合わせで、CR60のパフォーマンスをチェックする
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プリメインアンプ:デノン PMA-3000NE ¥528,000(税込)
CR60のCDトランスポートとしてのクォリティを確認するために、デノンのデジタル入力対応プリメインアンプ「PMA-3000NE」と組み合わせた。PMA-3000NEは同軸/光デジタル入力に加えて、USB Type-Bも備えているので、この3種類の接続方法で音に違いがあるかを確認している。また同じくシャンリンのポータブルプレーヤーにリッピングした音源もUSB接続で再生し、音の違いも聴いてみた。
はじめはUSB接続である。全体的に解像度の高い印象で、低域は引き締まり、低音パートも階調性良く描き出す。高域にかけてもクリアーかつシャープなタッチで、S/Nもいい。オーケストラの旋律も爽やかで、個々のパートの粒立ちもキレ良く表現。ティンパニのハリも自然で、余韻の収束も早い。ジャズピアノの響きはスッキリとした硬質なトーン。ウッドベースの弦の動きもフォーカス感良く描いている。ロック音源でもリズム隊は密度を保ちつつ、アタックのキレ味を確保。ヴォーカルは口元の動きをシャープに描き、締まり良いクリアーなエレキギターとともに、メリハリ良い音場を創出している。
次に光ケーブルでの接続を試してみたが、輪郭表現がより滑らかな描写となり、伸び良くゆったりとした、落ち着いたサウンド傾向となった。低域の密度も濃く、ベースも太め。ヴォーカルはしっとりとした滑らかな質感で耳当たりもいい。ジャズピアノの響きもウォームなトーンで、ウッドベースは弦のたわみを艶やかに描き出す。オーケストラの響きはふくよかさが感じられ、管弦楽器の艶やかなハーモニーを豊かに表現している。
聴き比べの最後は同軸ケーブルであるが、音像の硬軟のバランスでいえばUSBと光の中間といった印象だ。解像感の高さ、音場のクリアーさと共に音運びのスムーズさも際立っている。音像の重心も低く、ピュアオーディオらしい安定感のあるサウンドといえるだろう。オーケストラの旋律も立ち上がり・立ち下がりのキレ、収束の早さを実感。ティンパニの輪郭も明瞭で、密度感も高い。ハーモニーの抑揚も臨場感豊かに引き出している。
●主な試聴CD
『ホルスト:惑星・木星/レヴァイン指揮・シカゴ交響楽団』(ユニバーサル・グラモフォン:00289 477 5010)
オスカー・ピーターソン・トリオ『プリーズ・リクエスト』〜ユー・ルック・グッド・トゥ・ミー(ユニバーサル:UCCU-9407)
マイケル・スウィート「I'm not your Suicide」(BIG3 RECORDS:804983950020)
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ジャズピアノの響きもウェットかつ落ち着き良く描く。ウッドベースの胴鳴りもていねいにまとめ、スネアブラシの粒立ちも繊細に捉えている。ロックのリズム隊はアタックの力強さが印象的で、音像もコシのある密度を持つ。ヴォーカルは艶良くウェットで、口元の動きもリアルだ。音場の広がりも良く、音像定位も的確である。
どの接続でも価格を超えるクォリティを実感できる、良くまとめられたトランスポートであるという感想を持った。所有するシステムに合わせ、使っていないデジタル入力へ簡単にアドオンできる手軽さも魅力である。CDを改めて楽しみたいというリターナーの方にとっても最適なトランスポートといえるだろう。
続いて本機ならではの特徴のひとつ、リッピングについて見ていこう。前述したようにリッピングしたデータの出力先は3系統用意されているが、それぞれで保存形式が異なる。リッピングのドライブ速度は4倍速で、アルバム一枚数分〜10分程度で完了する。USB Type-A/B端子での保存ではWAV形式のみ、USB Type-C端子についてはiOS端末には対応しておらず、シャンリンの操作系アプリケーション「Eddict Player」をインストールしたAndroid端末、もしくはシャンリン製DAPによってWAV形式かFLAC形式で保存可能だ。背面パネルで「RIPPER」モードへ切り替え、どのUSB端子を使うのか、前面パネルのPOWER/MODEスイッチで出力先を設定する。
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シャンリン製ポータブルプレーヤーやAndroidスマホとUSBケーブルでつなぐことで、それぞれのデバイスにCDの音源を保存できる。他にもUSBメモリーをCR60に直接取り付けたり、PCとつないでのリッピングも可能だ
USB Type-A端子にUSBメモリーなどの外付けストレージをつなぎ、CDを読み込むと自動的にファイルを作成し、リッピングを開始。USB Type-B端子にはPC(WindowsOS/Mac OS対応)をつなぐことでCR60がドライブとして認識され、CD内の全トラックが表示されるので、任意の場所へコピーすることでリッピングが開始される。WAV形式で保存したファイルについてはFLACへの変換を行うファイル変換ソフトや、タグ編集ソフトなどを活用することで、アルバムタイトルや楽曲名などの編集が可能だ。
そしてUSB Type-C端子での場合だが、「Eddict Player」をインストールしたAndroid端末(Android OS搭載DAP)であっても、機種によってはCR60を認識できないこともあるので、その場合は他の手段を試してもらいたい。Android端末では「Eddict Player」アプリ内のメニュー項目の「CDリッピング」を選択。シャンリン製DAPについては「M1 Plus」や「M5 Ultra」などが対応しており、メニュー項目の「CD Ripper」を選択すればいい。Android端末やシャンリン製DAPがWi-Fiにつながっていれば「freedb」より自動的にタグデータを取得するが、そうでない場合はタグ情報を自ら編集するといいだろう(Android端末の場合は内蔵カメラでジャケット撮影も可能)。
実際にM1 Plus、M5 UltraへCDをリッピングし、その音も確認してみた。リッピングしたデータを保存したふたつのDAPをトランスポートとし、USBケーブルでPMA-3000NEとつなぎ、リッピングデータを試聴する。CR60をUSB接続した時と同様、解像度の高さ、空間性の良さを感じるが、低域方向の引き締めの良さ、楽器の艶やかな表現もより明確に掴むことができる。音像の重心はさらに低く、ディテイルについてもていねいで上品なタッチだ。
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岩井さんが愛用しているシャンリン「M1 Plus」に保存されている楽曲を、USB Type-C→Type−Bケーブルを使ってPMA-3000NEで再生した。CDとは微妙にニュアンスの違う音で、これはこれで魅力的だった
オーケストラやバンドの楽器は分離良く定位し、ヴォーカルの質感は一層クールで清涼な描写となる。CR60をバッテリー駆動してリッピングした場合の音も確認してみたが、よりS/Nが高く、音像の輪郭もさらに際立っていた。CR60の共振を抑える筐体構造も相まって、PCで直接リッピングするよりもより精度感の高い音になるようだ。
現在のリスニングスタイルとしてはCD音声もファイル化した方が扱いやすい時代となっているが、自宅でくつろいでいる時間は手軽にCDで直接聞きたいという方も少なくないはずだ。CR60はその両方のニーズに応えられるトランスポートであるとともに、コンパクトな設計であるため、設置場所にも困らない。
例えば今、家の中で音を出せるハードウェアがサウンドバーしかないといった場合でも、そのサウンドバーに光デジタル入力がついていれば、CR60をつなぐことでCD再生も楽しめるスマートなオーディオシステムが完成する。CR60は手軽な環境でのCD再生を諦めたくない方にこそ最適なツールといえるだろう。