2016年に起きた振り込め詐欺事件をモチーフにした一作。「これが実際に起きたことなのか!」との驚きが、観終えた後にも、じわりと残った。といっても「市民が、命知らずにも犯人を捕まえようとする」という筋書きに驚いたわけではない。犯罪詐欺集団の水も漏らさぬ連携、絶対的ボス(直接悪事に手を染めることはない)とその下で働く者たち(その間にもカースト的ピラミッドが形成される)の位置関係、などなど。つまり容易に「トカゲのしっぽ切り」ができるシステムになっていて、風上の者にはなんの損害もないはずの、鉄壁の、構築された狡猾さに驚かされたのだ。そこに「おばちゃん市民」が立ち向かうのだから、痛快ではないか。
その「おばちゃん」の名こそ、ドッキ。小さい子供ふたりをひとりで育てながら、毎日ハード・ワークを続けている。クリーニング店が火事になり、どうしてもお金が必要だった。そこに「銀行の者」から実においしい内容の電話がかかってきて、その資格(といえばいいだろうか)に達するためには手数料が必要と言われ、それじゃと数少ない持ち金を送金していくと……。貧困から脱出したいという強い願いに加え、「まさか騙されることはあるまい(そこまで世の中は堕ちていないだろう)」という気持ちもあったのかもしれないが、結果として彼女はこっぴどく騙された。「死」を考えてもいいほどに。
だが彼女はより強い「生」へと踏み出す。警察もなんだか動きが鈍い。自分でどうにかしなくちゃ。そこからの行動がもう、ファイティング・スピリットのかたまり。彼女のエネルギーに、友人たちも協力を惜しまない。とくに「中国語が話せる同僚」は物語のキーとなるひとりとの印象を受けた。ドッキ役はラ・ミラン、ドッキに振り込め詐欺を密告する詐欺組織の一員ジェミン役はコンミョン、監督はパク・ヨンジュ。
映画『市民捜査官ドッキ』
12月13日(金)シネマート新宿ほか全国公開
監督:パク・ヨンジュ
出演:ラ・ミラン、コンミョン、ヨム・ヘラン、パク・ビョンウン、チャン・ユンジュ、イ・ムセン、アン・ウンジン
2024年|韓国|114分|シネマスコープ|DCP5.1ch|日本語字幕:朴澤蓉子|英題:CITIZEN OF A KIND|レイティング:G
配給:クロックワークス
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