エイミー・ワインハウスの不在からもう13年が経つ。彗星のごとく母国イギリスでデビューして、地歩を固めて世界に進出、グラミー賞で5部門に輝いたのに(諸事情によりセレモニーにはイギリスからの中継で登場)、まもなく(何度目かの)ブランクに入り、結果、傑作と呼ぶにふさわしい2枚のオリジナル・アルバムを残して他界。「日本で歌うとしたら、武道館か、それともサマソニのヘッドライナーか何かかな?」という自分の予想は「本人の早すぎる死」という形で裏切られた。
エイミーの関連映画にはすでにドキュメンタリーの『AMY エイミー』があるけれど、この『Back to Black エイミーのすべて』は俳優のマリサ・アベラがエイミーを演じたドラマ作品。破滅的な人物を演じるのは並大抵のマインドでは務まらないことなのではないかと思うが、まさしくマリサにはエイミーが「乗り移っている」。よくぞあの、ビタースウィートな歌声を、ここまで自身のノドから出し得たものだ。エイミーにとって「自分の生涯を左右することになる男性」(彼に出会わなければ、依存しなければ、それなりに健康だったのではないかという意味も含めて)であったろうブレイクとの関係についても相当な時間を割いて描かれている。ちなみに映画タイトルの「Back to Black」(暗闇に戻る)は、一時期ブレイクと別れていた時期に生まれた楽曲の題名だ。
また、劇中ではオヤと目を見張るほど、エイミーの「ジャズ愛」について触れられている。「私はジャズの人だから」みたいな発言もあったはずだし、父の運転する車から流れるセロニアス・モンクを聴いて「ジャズを好きにならない人はおかしい」的なことを言ったり、ロンドン最高峰のジャズ・クラブ「ロニー・スコッツ」に飛び入りしたり、ビリー・ホリデイ、サラ・ヴォーン、ダイナ・ワシントン、トニー・ベネット(彼との共演がエイミーのおそらく最後のレコーディングになった)などの音源も実に効果的に用いられている。
ほか、1960年代の米国ガール・ポップスを代表する“シャングリラス”の作風がエイミーに与えた影響力の強さを改めて思い知った。監督はサム・テイラー=ジョンソン、脚本はマット・グリーンハルシュ。
映画『Back to Black エイミーのすべて』
11月22日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ、渋谷シネクイントほか全国公開
監督:サム・テイラー=ジョンソン 脚本:マット・グリーンハルシュ 製作:アリソン・オーウェン、デブラ・ヘイワード、ニッキー・ケンティッシュ・バーンズ
キャスト:マリサ・アベラ、ジャック・オコンネル、エディ・マーサン、ジュリエット・コーワン、サム・ブキャナン、レスリー・マンヴィル
配給:パルコ ユニバーサル映画 宣伝:若壮房
2024年/イギリス・フランス・アメリカ/英語/123分/ビスタサイズ/原題:Back to Black/PG12
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