音(foley)の迫力がすごい。音楽(music)の選択にも耳を奪われる。かなり前衛的なストリングスの音楽と、ブレンダ・リーやコニー・フランシスら“ケネディ大統領暗殺前/ビートルズのアメリカ侵略前”に大人気を集めたシンガーの歌う甘美なアメリカン・ポップ・ソングがほぼ交互に現れてはストーリーにひんやりした感触を加える。主人公の顔は苦痛に歪み、自分も他人もどちらも責める。しかも、すさまじく過酷な練習ぶりでもある。ケガをしたら血が出ることもあるし、怒りがこみあげれば顔に赤みを増すのは人間として当たり前かもしれない。が、この映画の色合いは、しいていえば「薄い蒼」である。
主人公のアレックスは、「困難だからこそ挑戦するのだ」というケネディの言葉を胸にローイング(ボート競技)の過酷な練習に身を投じていく。彼女にとって、目の上のタンコブであったのが、奨学金を得るためにボート部に入部したジェイミーの存在。ここで二人が良きライバルに……となれば明朗快活な青春物語にもなるのだろうが、あのスパルタ・ジャズ・ドラム映画『セッション』のサウンド・クリエイターであるローレン・ハダウェイが自らの経験をもとに監督・脚本・編集を手掛けたのだから、一筋縄ではいかない。「どうしてそこまで自身を追い込むのか」と、こちらが画面越しに心配せずにはいられないほどの、ダークネスうずまく世界が展開される。
途中から登場するダニという人物(アレックスと親しくなる)が物語にいささかの風通しのよさを加えるものの、かといってアレックスの一種の破滅指向にストップがかかるわけではない。アレックスを演じたイザベル・ファーマンは撮影前の6週間、毎朝4時半に起き、1日6 時間の水上トレーニングをしたという。ある意味、命がけで彼女はこの役を演じたのだろう。本作品は第20回トライベッカ国際映画祭において作品賞と撮影賞を受賞、イザベルは主演女優賞を受賞した。
映画『ノーヴィス』
11月1日(金)より ヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷、シネリーブル池袋、シネマート新宿、ほか全国順次ロードショー!
監督・脚本・編集:ローレン・ハダウェイ 製作:ライアン・ホーキンス、スティーヴン・シムズ、ザック・ザッカー 撮影:トッド・マーティン 音楽:アレックス・ウェストン 音響:エリック・ビーム
出演:イザベル・ファーマン、エイミー・フォーサイス、ディロン
原題:THE NOVICE / 2021年 / アメリカ / 英語 / シネマスコープ / 97分 / 5.1ch / 配給:AMGエンタテインメント /日本語字幕:白取美雪 / 字幕協力:日本ローイング協会 /映倫:区分G
(C)The Novice, LLC 2021