フランス製ホラー・ムービー中でも特筆すべきヒットを記録している話題作が、ついに日本で公開されることになった。原題の『Vermines』は害虫という意味だそうだが、邦題はよりわかりやすく、「スパイダー=クモが出てくる内容」であることが示されている。この毒グモの性質があまりにも超絶的。観る前にどんな予想をしたとしても、それを軽く凌駕して迫ってくること間違いなしの、常識の通用しない生き物が描かれているのだ。ここでは「とにかく猛烈に繁殖して増大する」「殺そうとするとエライことに」とだけ述べておく。
「超強力な毒グモが人を襲う。しかもアパート内で」。集合住宅には、それこそさまざまな立場・さまざまな年齢のひとが住んでいる。それぞれのリズムでそれぞれの時間を過ごしている。そこに「超強力な毒グモ」が割り込んでくる緊急事態が訪れたからといって、ただちに心を一つにして対処できるわけもない。
ちなみにアパートの所在地は移民や低所得者が多く住む郊外の地区(バンリュー)、主人公の名はカレブという。ピエールとかフランソワではないし、食うや食わずの毎日の中「パリの空の下に流れるセーヌ川の光景」など一度も味わったことのない住民も多いに違いない。これが初長編作となるセヴァスチャン・ヴァニセック監督はバンリューで育ったらしい。嫌われ者であるクモと、出身地で判断/差別されて、それがいやおうなく収入面にも反映されてしまうであろう郊外出身者との間に類似点を見出し、この骨太な作品をつくりあげた。
スティーヴン・キングが「恐ろしく、気持ち悪く、よく出来ている」、『死霊のはらわた』で有名なサム・ライミ監督が「登場人物たちを興奮と緊張に引き込み、モンスター・ムービーを蘇らせた」と称賛。第79回ヴェネチア国際映画祭、第49回セザール賞で称賛され、第56回シッチェス・カタロニア国際ファンタスティック映画祭 審査員賞を受賞、横浜フランス映画祭2024の上映作品にも選ばれた一作である。
映画『スパイダー/増殖』
11月1日(金)新宿武蔵野館 ほか 全国順次増殖開始
配給:アンプラグド