デノンから、“A” ナンバーを冠したAVアンプの新製品「AVC-A10H」(¥770,000、税込)が10月下旬に発売される。13.4chの再生に対応した、同ブランド第二の旗艦モデルという位置づけだ。
デノンでは現在、普及価格帯からフラッグシップの「AVC-A1H」まで、7モデルのAVアンプをラインナップしている。AVC-A1Hは10月1日から新価格(¥1,210,000、税込)に改定される予定で、従来のセカンドモデル「AVC-X6800H」と2倍以上の価格差が開くことになる。その間を埋めるのがAVC-A10Hというわけだ。
そのAVC-A10H は、デノンの110周年記念モデルとして2020年に登場した「AVC-A110」をベースに、AVC-A1Hに搭載された高音質化技術や、それ以降に登場した様々なノウハウも盛り込んだ開発が行われている。
そもそもデノンでは、“A” ナンバーに特別な意味を込めており、「圧倒的な物量」「特別なオーディオパーツの採用」「美 細部へのこだわり」「Made in Shirakawa」の4つが必須となっているそうだ。
AVアンプとしてのスペックは、ドルビーアトモス、DTS:X、IMAX Enhanced、Auro-3D、MPEG-4 AACに対応、360 Reality Audioのデコードも可能という。13.4chのプロセッシングに対応済で、15.4chのプリアウトも備えている。もちろん、パワーアンプの動作を止めるプリアンプモードにも対応済みだ(チャンネルごとにオン/オフを設定可能)。
音質面では、まずプリアンプ部分にメスが入った。AVC-A10Hでは、独自のD.D.S.C.(Dynamic Discrete Surround Circuit)に32bitプロセッシングを行う最上位バージョンを搭載。信号のデコードや音場補正、D/A変換などのサラウンド再生に必要な信号処理回路を高性能な専用デバイスを用いてディスクリート化している。それらのデバイスも最新パーツを用い、最適なレイアウトで配置することでミニマムシグナルパスを実現、プリアンプ回路の小型化も達成した。
D/Aコンバーター部には、AVC-A1Hと同じく32ビット処理に対応した2ch用プレミアムDACチップを9基搭載。これらを超低位相雑音クロック発振器などを使って正確に同期させ、さらに厳選された音質対策パーツとの組み合わせでDACの性能を最大限に引き出しているそうだ。なお各チップには使用頻度の高いチャンネルと低いチャンネルを組み合わせて信号を分配することで、実使用時の干渉を抑えるといった配慮も行われている。
DAC用電源についても、AVC-A110ではレギュレーターICが使われていたが、AVC-A10Hではディスクリート電源回路に変更して、電源ラインのノイズ除去も実現した。これもAVC-A1Hから継承されたノウハウとのことだ。
パワーアンプ回路もAVC-A1Hと同様にチャンネルごとに個別の基板に独立させたモノリス・コンストラクション構成を採用する。パワートランジスターには「Denon High Current Transistor(DHCT)」を用いることで、フラッグシップモデルに迫るパフォーマンスを実現した。
そのパワーアンプ基板は、本体中央に置かれた大型電源トランス(巻線にOFCを使ったEIコアトランスを新開発)の両サイドに配置されており、こことプリアンプ部の間にケイ素鋼板とプラスティック板を組み合わせたリーケージフラックス/オーディオ回路セパレーターを追加して相互の影響を排除している。
パワーアンプ回路は差動一段AB級リニアパワーアンプ回路を採用。これは最近のデノン製品に多く使われている回路で、シンプルで素直な特性が得られることと、様々なスピーカーに対して優れた駆動力を有しているのが特長だ。
信号処理用のDSPには、アナログ・デバイセズのGriffin Lite XPを搭載する。AVC-A110のGriffin Lite(2基搭載)と比べても処理能力が大幅に向上している。
ネットワーク関連機能にはHEOSプラットフォームを採用し、ストリーミングサービスやインターネットラジオ、同一ネットワーク上のNAS やPC、さらにUSBメモリーに保存した音源も再生できる。Amazon Music HDやAWA、Spotifyといった音楽ストリーミングサービスも楽しめる(別途契約は必要)。
ハイレゾフォーマットは、DSDファイルは5.6MHzまで、PCMは192kHz/24ビットに対応。DSD、WAV、FLAC、Apple Losslessファイルのギャップレス再生も可能とのことだ。
接続端子は、HDMI入力7系統、出力2系統(1系統はeARC対応)で、すべて8K/60p、4K/120p信号にも対応済み。HDR10、HDR10+、Dynamic HDR、ドルビービジョン、HLG、VRR、ALLM、QFTといった信号もパススルー可能なので、パッケージソフトや配信、8K/4K放送、ゲームまで問題なく楽しめる。
ちなみにAVC-A10HのサイズはW434×H195×D482mm(アンテナは寝かせた状態)で、重さは23.6kg。大きさはAVC-A110と同じで、フロントパネルのビジュアルもほぼ同様なので、AVC-A110をお使いの方はご家族に気づかれることなくリプレイス可能かもしれない(本体カラーがちょっと違うけど)。
新製品説明会で、AVC-A10Hの音を確認することができた。組み合わせたのは、B&Wの800 D4(フロント)や802 D4(サラウンド)、ダリのHELICONシリーズを使った7.2.6システムだ。
まず2chで、CDのフォープレイ「バリ・ラン」(アナログ接続、ピュアダイレクトモード)を再生してもらうと、キレがよく、力感のある音が再現される。音が押し寄せてくるような、勢いのある再現性が魅力だ。これなら音楽ソフトも不満なく楽しめるだろう。
次にドルビーアトモス収録のブルーレイ『John Williams in Tokyo』の「スーパーマン・マーチ」は、サイトウ・キネン・オーケストラらしいていねいな演奏が再現された。ドルビーアトモスのサウンドデザインも忠実に再現できているようで、コンサートホールらしい高さ感、包囲感も楽しめる。
同じくドルビーアトモスの『ゴジラ-1.0』では、海神作戦のチャプターを再生。セリフがクリアーで、そこに込められた緊迫感がひしひしと伝わってくる。震電が移動する軌跡も明瞭に描かれ、さらにコクピットの密閉感もリアルで、思わず作品に没入してしまった。
ノルウェーの少女合唱団による『stille grender』のブルーレイから、9.1.4 Auro-3D 96kHzを聴かせてもらう。ステージまでの距離が近く、声の重なりも自然で、細かな響き、ピアノの余韻、消え際の素直さなど、眼前で歌っているようなイリュージョンが再現される。
AVC-A10Hは “第二の旗艦モデル” とのことだが、製品としてのスペック、存在感、サウンドの素晴らしさという様々な意味で、頑張って手に入れたい憧れのAVアンプとしてもっとも現実的な選択肢になるのかもしれない。