ドキュメンタリー映画『顔さんの仕事』の初日舞台挨拶が8月31日に新宿K’s cinemaにて開催され、インタビュアーとして取材したイラストライター・三留まゆみ、通訳を務めた台湾の俳優・柏豪、今関あきよし監督が登壇した。

 本作は台湾の映画館「全美戯院」の前に飾る映画看板を50年以上にわたって描き続ける看板絵師・顔振発(イェン・ヂェンファ)さんに密着した作品。

 映画看板以外にも「Gucci」の巨大アートウォールやロックバンド「コールドプレイ」の宣伝壁画など、多岐にわたる制作を行ってきた顔さんが生み出す奇跡の仕事に迫った。

 「2020年に台湾で撮影した監督作『恋恋豆花』から、本格的に台湾と縁が出来始めて、そのころに現地で俳優として活躍している柏豪くんに通訳をお願いして顔さんに初めて会いました。映画の絵看板という失われつつある文化と、まったく迷いなく描く顔さんの技術と朴訥な人柄を伝えたくて、映画を撮ろうと考え始めました」と制作のきっかけを語る今関監督。

 「顔さんと同じように映画の絵を描く人の取材してもらい、魅力を深掘りしてもらいたい」という思いで、映画イラストレーターとしても活躍する旧知の三留まゆみにインタビュアーをオファーしたという。

 そんな三留は顔さんの仕事について、「本当にもう驚きの連続でした朝の8時半とか9時ぐらいから12時、1時ぐらいまで全く休憩なく、水分もとらず、描き続けているんです。しかも、最終的にはものすごく大きい1枚のキャンバスを6枚くらい組み合わせて飾るんですよね。なので分割したキャンバスに描かなきゃいけないんです。最終的な全体像を想像しながら、ありとあらゆる角度にぐるぐるキャンンバスを回しつつ、下書きなしで一発で変幻自在に素早く描いてしまう。圧巻でした」と経験と技術に圧倒された様子だった。

 さらに、色塗りに挑戦したという三留。「もう恐る恐るという感じでしたけど、顔さんに優しく指導してもらいました」と笑顔を見せた。

 通訳を務めた柏豪も「今回の撮影で看板を描き始めて設置するまでのプロセス全てを見ることができました。存在はもちろん知っていましたが、改めてその速さと正確さにびっくりしました。本当に大切な経験になりました」と振り返った。

 中盤には顔さんが今年の台湾映画祭で長年の制作を認められ、特別貢献賞を受賞した話題に。

 「受賞のニュースを聞いた顔さんが、『これで自分も映画制作の仲間として認められたような気がします』って仰ったそうです。『映画の最盛期には、月に100枚、200枚の看板絵を描いていて、でもそのほとんどは残らない。でも、そういうものだよってね』顔さんが仰っていたことがあって。なので余計その受賞のコメントにじーんときました」と三留が感慨深げに語った。

 最後に今関監督が「シネコンが多くなり、映画看板が必要なくなってきている今だからこそ、看板の存在や、まだ制作を続けている方がいるということを特に若い方に知って欲しい。全美戯院に午前中にいけばほぼ会えますので、みなさんぜひ旅行がてら行ってみて下さい!」」と伝え、イベントを締めくくった。

映画『顔さんの仕事』

全国公開中

企画/制作/監督:今関あきよし
出演:顔振発 三留まゆみ 柏豪
撮影:三本木久城 録音・音楽:種子田博邦 制作:太田則子/ 杉山亮一 編集:鈴木理 編集助手:三宅優里奈 台湾地図挿絵・題字:ヤマサキタツヤ 協力:全美戯院/ 日本台灣新聞社/ 台湾師範大学/ Chingwen Hsueh / 国立音楽大学/ 山本周史 配給:MAP 配給協力:ミカタ・エンタテインメント 製作:映画「顔さんの仕事」製作委員会 2024/日本/カラー/64分/16:9
(C)映画「顔さんの仕事」製作委員会

現在の台南市下営区に生まれ、幼い頃から絵を描くのが好きだった顔振発(イェン・ジェンファ)。絵に対する才能を感じた家族は、看板職人の陳峰永の弟子に送り出した。1970年代は台湾映画界が盛り上がり、顔は1ヶ月に100から200枚もの手描き映画看板を描き、台南の映画館「全美戯院」の看板を制作から設置まで一手に引き受けた。だが生涯にわたる制作は、視力に大きな負担をかけ、医師が何年も前に、彼の網膜がひどく傷ついていることに気付き、右目はほぼ見えない状態に。それでも、顔振発は今も描き続けている。

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