6月4日発売『ステレオサウンド No.231』の特集は、毎年冬号恒例「ベストバイコンポーネント」で上位に選出された製品の魅力を探る「ベストセラーモデル 選ばれる理由」です。ステレオサウンドオンラインでは、本特集の内容を順次公開してまいります。今回は、ファンダメンタルのパワーアンプ『MA10V』の人気の理由を探求します。(ステレオサウンド編集部)
画像1: ファンダメンタル『MA10V』【ベストバイコンポーネント 注目の製品 選ばれるその理由】

ファンダメンタル MA10V ¥980,000(税抜)
● 出力:40W+40W(8Ω)、78W+78W(4Ω)、125W+125W(2Ω)、156W(BTL接続時、8Ω)
● 入力インピーダンス:10kΩ(アンバランス)、20kΩ(バランス/BTL時)
● 寸法/重量:W320×H152×D350mm/17.8kg
● 問合せ先:ファンダメンタル(株)☎ 044(322)0064
● 発売:2021年

画像2: ファンダメンタル『MA10V』【ベストバイコンポーネント 注目の製品 選ばれるその理由】

試聴記ステレオサウンド 221号掲載

 

音楽家である設計者が自ら製作する、愛情あふれるものづくりの姿勢が具現化されたパワーアンプ

 2021年のステレオサウンドグランプリを受賞したファンダメンタルのパワーアンプMA10Vは、ベストバイコンポーネントでも、同年の100万円未満部門で、栄えある1位に輝いた。その後もコンスタントに高い順位を獲得し続けている。

 ファンダメンタルを主宰するオーディオ・デザイナーの鈴木哲氏は、元ソウルノートのエンジニア。鈴木氏が設計製作したオリジナル機MA10は、2015年の発売以来3年以上の間、私が愛用するスピ―カー、YGアコースティクスのヘイリー2.2をたいそう闊達で澄み切った音でドライヴしてくれた。超ヘヴィ級で完全密閉型、さらに低インピーダンスのYGのスピーカーに、見た目は極めてコンパクトなパワーアンプMA10は、いささか荷が重いのではないかと思われるかもしれない。実際にドライヴさせていた私の率直な感想は、バランス接続として(BTL駆動)で、モノーラルアンプとして使用した場合、最大出力は、250W(4Ω)と申し分ない。

 

画像3: ファンダメンタル『MA10V』【ベストバイコンポーネント 注目の製品 選ばれるその理由】

MA10
MA10Vの前モデルとなるMA10は、2012年に登場した同社初のプリアンプ「LA10」の対になるパワーアンプとして、2015年12月に誕生した(翌年のステレオサウンドグランプリを受賞)。バイポーラトランジスターをシングルプッシュプルで使用し、リレーやコイルを用いない独自のプロテクト回路やストレスフリーシャーシの採用など、独創的な設計を貫いた、同社を象徴とする1台と言えよう。本機からMA10Vへのバージョンアップは無期限で対応可能。

 

 

 だから、そのMA10のアップグレードモデルであるMA10Vのパワーについても心配はまったく無用と言える。カタログを見比べても両モデルは、スペック的に大きな違いを見出すことは難しい。しかし「音」を聴けば格段の音質の向上ぶりが瞬時に聴いてとれる。中でも空気感と空間感の、濃密でかつ広大な再現性と、楽器から立ち昇るオーバートーンの漂いの素晴らしさは特筆すべき進化点。小音量時の再現性が向上し、ボリュウムを絞っても表現力が衰えず、なおかつ自然な音なのだ。

 

新たな半導体と高精度抵抗を投入しS/Nとドライヴ能力を向上

 鈴木氏がMA10Vへのアップグレードで特にこだわったところは、新たな半導体と高精度抵抗を投入して、各ステージの電流ドライヴ能力と精度を向上させたこと。それによっていっそうS/Nとドライバビリティが上がった。本機は、ノンNFB電圧増幅部と、低負荷駆動能力を高めた広帯域3段ダーリントン電流増幅段で構成されている。電圧増幅部は、オリジナル機MA10同様、シンプルな1段増幅の無帰還電圧増幅で、今回は電流バッファーの駆動力をより高め、カレントミラー回路に新たな高精度デュアルトランジスターを最適電流で使用することで、精度と安定性をともなった理想的な電圧増幅段としている。

 ファンダメンタル・オリジナルプロテクト回路は、出力にリレー接点やコイルを入れず、音質の劣化要素を払拭している。シンプルと高純度に徹底してこだわる、鈴木氏の秀でたセンスならではの回路設計である。アイソレーテッド・ストレスフリーシャーシも本機の見落とせない重要ポイントだ。トランスが配されるメインシャーシと、増幅基板が配されるサブシャーシを分離、それぞれのシャーシは側板とのねじ止めのみで固定し、独立して接地することにより振動を最小限に抑えている。これによって開放的で、低域まで含めて極めて透明かつハイスピードな音を実現している。

 本機のストレスフリーで開放的な音の魅力は、高品質なパーツを選別採用して、シンプルな回路構成で筐体を頑強に固定しないことによって生まれ、オープンで見通しに秀でた広大な空間を感じさせる、胸のすく清々しい音を実現させている。サイズこそコンパクトだが、1kVAの大容量トランスと合計2万μFのハイスピードコンデンサー採用の強力電源部に支えられて、一般的な重量級ハイパワーアンプと比べ、あっけないほど鮮度の高い音がポンポンと軽快に飛び出す。息を呑む広大な空間感、リアルで精緻なステレオイメージ、ピンポイントのフォーカス、トランスペアレンシー、ハイレゾリューションといった、現代のハイエンドオーディオ用語が次々と浮かぶが、それら現代ハイエンドオーディオに特徴的な要素と用語は、どれもこのMA10Vのためにあると言いたいほどである。

 さらに本機は、1台1台丁寧に手作りされるカスタムメイド(受注生産)。旧モデルMA10からMA10Vへのバージョンアップは無期限で可能(税別35万円)。そして、生涯使い続けることができるようにすべてのパーツのストックがあり、修理が可能だという。これらの点に鈴木氏の愛情溢れるものづくりの姿勢がうかがえて嬉しい。

 

画像5: ファンダメンタル『MA10V』【ベストバイコンポーネント 注目の製品 選ばれるその理由】

リアパネルは下部に入出力端子をまとめ、左側にアンバランス/バランスの入力端子、中央にスピーカーターミナルを配したレイアウト。アンバランス入力はステレオ動作用(40W+40W/8Ω負荷時)、バランス入力がモノーラル(BTL・156W/8Ω負荷時)動作用となっているのは、本機独特の仕様である。なお、BTL動作時、スピーカーターミナルは両端を使用する。

 

 

自身の演奏を理想的に録音するために開発した高性能マイクプリアンプがMA10Vの誕生につながる

 MA10VとプリアンプのLA10ヴァージョンⅡや、インテグレーテッドアンプPA10といった同社製品を見ていると、筆者は、鈴木氏が、かつてプロのジャズ・ベーシストだったマーク・レヴィンソン氏とイメージが重なって見えてしまう。前に取材でマーク・レヴィンソン氏に話を聞いたところ、録音された自分のベースの音、特に倍音の聞こえ方にまったく納得がいかなかったので、自分でアンプ製作に取り組むようになったと語ってくれた。

 ご存じの方も多いと思うが、開発者の鈴木哲氏はプロのギタリストである。鈴木氏とアコースティックギターの録音について話した時、MA10V開発の契機となったのは、実は、アコースティックギター・デュオ「Nicogi」のレコーディング用に開発したマイクプリアンプだと語ってくれた。「Nicogi」は鈴木氏ともう一人齊藤氏によるギター・デュオだ。アコースティック楽器が発する豊かな倍音や、空間に長く滞空する余韻を、マイクプリアンプで超高S/Nで録音する。その開発の中での新たな知見とノウハウ、そしてプリメインアンプPA10で開発した新回路が投入され、MA10Vとなった。ミュージシャンならではの話。何やらマーク・レヴィンソンみたいだなと、その時思ったのだ。

 

ファンダメンタルを主宰する鈴木哲氏。17歳からギタリストとしてレコーディング・スタジオに出入りし、ライヴサポートなどを行なう。スタジオ機器の修理を通じてNEC関係者と知り合い入社。プリメインアンプの「A10Ⅳ」、「A10X」などの設計に携わる。その後、マランツに移籍してD/AコンバーターやCDプレーヤーの開発に従事。CSRを経て、2010年にファンダメンタルを立ち上げた。2014年には齊藤純示氏とともにアコースティックギター・デュオ「Nicogi」の活動を開始。写真の『蜃気楼』は2020年に発売された、Nicogiの3枚目のアルバムだ。

蜃気楼 / Nicogi
(ファンダメンタルFMCD0003)※UHQCD

 

 

 過日ステレオサウンド試聴室で、プリアンプをファンダメンタルLA10ヴァージョンⅡとし、2台のMA10Vを組み合せた音を聴いた。バランス端子で接続してMA10Vをモノーラルパワーアンプとして使ったのだ。すると、スピーカーから「花のワルツ」が鳴り出した瞬間に空気感が濃密になり、管弦が一体となった豊穣なオーバートーンが試聴室内を漂って、筆者を多幸感で包み込んだ。驚異的なS/N感で、ダイナミクスも透明感もずば抜けている。

 ファンダメンタルでは、音楽ソフト(CD)も制作発売している。アコースティックギター2本のみの「Nicogi」の演奏だが、驚異的なワイドレンジと圧倒的な迫力に度肝を抜かれる。なんと一発録音で、ノンEQ(イコライジング)でノーコンプレッサー。このCDの音の素晴らしさは、まさに眼前で生演奏を聴くようだ。マーク・レヴィンソン氏が録音エンジニアを務めたアルバム、ジャズ・ピアニスト、ジャッキー・テラソンの『リーチ』を聴くと、明らかに、ノー・コンプ・ノー・リミッター録音と分かる。ポール・ブレイの『バラッズ』でベースを弾いていたマーク・レヴィンソン氏と鈴木氏が考える理想的な録音とは、おそらく極めて近いものだろう。

 ファンダメンタルのMA10Vがベストバイコンポーネントで高順位を獲得していることや、市場で支持され続けていることから、現代ハイエンドが追求する音の世界が、オーディオファイルに深く浸透し、その意識が確実に進化していることがわかる。オーディオの未来は明るいと僕は信じることができるのである。

 

ファンダメンタルの他のモデル

画像8: ファンダメンタル『MA10V』【ベストバイコンポーネント 注目の製品 選ばれるその理由】

PA10 ¥1,200,000(税抜)
ファンダメンタル初のプリメインアンプは2020年の発売で、電源部を別とした2筐体構成ながら同社機ならではのコンパクトなサイズで登場した。MA10V同様のストレスフリーシャーシやシンプルな無帰還増幅回路、同社プリアンプ「LA10 VersionⅡ」と同じアッテネーターやゲイン0dBのプリ部など、一貫した設計思想がうかがえる。

画像9: ファンダメンタル『MA10V』【ベストバイコンポーネント 注目の製品 選ばれるその理由】

 

 

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本記事は『ステレオサウンド No.231』
特集「ベストバイコンポーネント注目の製品 選ばれるその理由」より転載

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