テレビの使い方が急激に変化している。これまでは、地デジなどの “放送を見る” という用途が中心だったが、昨今YouTubeや動画配信サービスなどの “ネットコンテンツ” が再生されるケースが多い。それを受けテレビメーカー各社も、ネットコンテンツの再生機能を備えた、いわゆるスマートテレビのラインナップを進めている。そこで重要なのが “テレビ用OS” で、中でもAmazon(アマゾン)が提供する「Fire OS」が近年注目を集めているという。そこで今回はアマゾンジャパンにお邪魔し、FireOSへの取り組みについてお話をうかがった。対応いただいたのは、アマゾンジャパン合同会社 AmazonデバイスFire TV事業部の西端明彦さんだ。(StereoSound ONLINE編集部)
麻倉 今日は「Fire OS」のお話をうかがうべく、アマゾンジャパンにお邪魔しました。Fire OSは、先日発表されたパナソニックの2024年ビエラ新製品に採用されるなど、スマートテレビの機能としても注目を集めています。
西端 今日はよろしくお願いいたします。弊社ではユーザー向けのデバイスとして、EchoデバイスやFireタブレット、Kindleなど色々な製品をラインナップしています。そのひとつのカテゴリーとして、「Fire TV Stick」などのSMP(ストリーミング・メディア・プレーヤー)があります。全世界85ヵ国以上で展開しており、累計2億台以上の販売を達成しました。これは外付けタイプと、スマートテレビ内蔵の両方を合わせた数字になります。
麻倉 それは凄い。世界でもっとも売れているSMPということですね。私も自宅で「Fire TV Cube」を使っていますし、シャープの8KテレビにもPrime Videoアプリがインストールされています。
西端 弊社では、SMPはストリーミングサービスを大画面で簡単に楽しんでいただくための端末だと考えています。WiFi環境とHDMIポートのあるテレビがあればどこでもご使用いただくことが可能で、設定もとても簡単です。
今お使いのテレビがネット接続機能を持っていない場合でも、FireTV Stickを使うことでスマートテレビ化できます。またスマートテレビであっても、長く使っていると動きが遅くなってきたり、アプリのアップデートができなくなったりします。そうなると最新の環境で楽しめませんので、弊社のSMPをつないでスマートテレビ機能をアップグレードしていただくケースもあります。
その他、Fire TV Stickの愛用者からは、ユーザーインターフェイスが好きだとか、サクサク動くのが気に入っているという声もいただいております。
麻倉 確かに。数年前のスマートテレビの内蔵機能よりも、最新のSMPの方が操作感は快適でしょうね。
西端 Fire TVはアメリカでは2014年に誕生し、日本ではその翌年の2015 年に事業を開始しました。最初は四角い大きめの筐体だったんですが、その後スティックタイプが登場、以後4K対応や、Alexaが使えるようになるなどの進化をしてきました。4K対応スティックタイプも世代交代が進んで、操作性を改善するなどの進化を続けています。
麻倉 そこについて、Fire OSを搭載したテレビとして今回パナソニックの新製品が登場しましたが、今後はパナソニックとフナイのふたつのブランドでFire OS搭載モデルが展開されていくということでしょうか?
西端 そうですね、日本ではそうなります。
麻倉 ワールドワイドでは他にもFire OSを採用した製品が発売されていましたよね?
西端 はい、アメリカやヨーロッパでは他のメーカーさんにも採用いただいています。
麻倉 確認ですが、Fire OSというのが、アマゾンのスマートテレビ用OSの正式名称でしょうか?
西端 社内ではFire OSという呼び方をしています。ではここから、現在のFire TVのラインナップについて説明させてくたさい。現在弊社では4モデル展開しております。
もっともベーシックなFire TV StickはフルHD用ですが、基本的な性能はすべて搭載していますので、その点ではお買い得モデルだと思います。
4KモデルはFire TV Stick 4KとFire TV Stick 4K MAXのふたつをラインナップしており、 どちらもドルビービジョンの再生が可能です。上位機のFire TV Stick 4K MAXは2.0GHzクアッドコアプロセッサーを搭載しており、お客様からもサクサク動くね、と言っていただいています。
麻倉 それぞれおいくらでしょうか?
西端 Fire TV Stick (第3世代)が¥4,980、Fire TV Stick 4K(第2世代)が¥7,480で、Fire TVStick 4K MAX(第2世代)が¥9,980です。キューブタイプのFire TV Cube(第3世代)は最上位モデルということもあり、¥19,980と少し高めになっています(すべて税込)。なおオーディオに関して、ドルビーアトモスはすべてのモデルで再生できます。
Fire TV Cubeは、Echoデバイスと同じようにAlexa機能を搭載しています。スティックタイプでは、リモコン上部のAlexaボタンを押してAlexaを起動しますが、Fire TV Cubeはハンズフリーで、話しかけるだけで大丈夫です。
麻倉 動画ストリーミングの再生機能としては、Prime Videoは当然として、その他のサービスにも対応しているんですね?
西端 もちろんです。弊社のFire TVシリーズで視聴可能なコンテンツは現在60万以上ラインナップされています。個別にサブスクリプション契約が必要なサービスもありますが、それらを含めて60万以上の豊富な映画作品やTV番組のエピソードがあるということになります。
我々としてはFire TVはエンタテインメントデバイスだと考えていますので、コンテンツを前面に打ち出したユーザーインターフェイスにこだわっています。コンテンツを探しやすく、コンテンツにも出会いやすくというのがコンセプトです。
麻倉 そこが他社にない、Fire OSの強みというわけですね。
西端 他社さんとダイレクトに比較したことはないのですが、コンテンツやアプリの充実度には自信持っています。また、動きが遅いと使いにくく感じられますので、世代交代の際には必ず前モデルよりスピードアップできるように作っています。
麻倉 技術的には、どういうところを工夫しているのでしょう?
西端 ひとつは、プロセッサーです。先ほど申し上げた通り、Fire TV Stick 4K MAX に関しては2.0GHzクアッドコアプロセッサーを積んでいますし、Fire TV Cubeではオクタコア(最大2.2GHzクアッドコア+最大2.0GHzクアッドコア)のプロセッサーを内蔵することで、処理スピードを高めています。
弊社では音声操作にも力を入れており、Alexaを使えば声でテレビの電源をオン/オフしたり、コンテンツを探して再生することもできます。Alexaでスマート家電をつないでいれば、声でコントロールできるようになっています。
麻倉 最近はスマートリモコンなども増えてきていますから、音声操作が活躍するシーンも増えてくでしょう。その点ではAlexaは有用なツールだと思います。
西端 ありがとうございます。ではここから実際の製品を見ていただきたいと思います。今日ご覧いただくスマートテレビはヤマダさんから昨年発売されたモデルになります。
こちらがホーム画面で、カーソルを上に動かすと、最新コンテンツを紹介しているエリアになります。中央のナビゲーションバーにある、アプリは順番を並べ替えることもできます。カーソルを下に動かすと、最後に見たコンテンツが出てきたりと、コンテンツに出会っていただきやすくすることに配慮した構成になっています。
Fire OSを内蔵したスマートテレビでは、メニューから地上デジタル放送も含めたライブ放送コンテンツも選択できます。さらに、放送中の番組がどこまで進んでいるかもメニュー画面で分かるようになっていますので、便利です。
麻倉 なるほど、まさに放送と配信の区別なく選択・視聴できるわけですね。
西端 われわれがこだわっているのは、放送と配信をどう融合させるかです。これまでのテレビでは、放送なら放送だけ、配信は配信だけと入口が別々で、どちらを見るかで入力を切り替えなくてはなりませんでした。Fire OS搭載スマートテレビではそこを俯瞰して楽しめるようにしたかったのです。さらに配信ではアプリの切り替えなくコンテンツを探すことも可能になっています。
昨年からホーム画面に「無料/追加料金なし」というタブも準備していますが、ここを選ぶと広告付で無料で展開されているコンテンツや、お客様がサブスクリプション契約されている配信サービスだけが表示されるようになっています。
麻倉 「無料/追加料金なし」は、配信プラットフォームを横断して表示されるんですね?
西端 はい、お客様が契約しているサービスの中からお薦めのコンテンツが表示されます。YouTubeやABEMAなどの無料コンテンツも対象になります。お客様の視聴履歴に基づきお薦めのコンテンツが表示されます。
麻倉 私も自宅でこの機能を使っていますが、お薦めコンテンツの内容がやや漠然とした傾向にある気がします。もっと思い切って個人の嗜好に寄り添ったレコメンドができるといいですね。せっかく視聴履歴以外の情報も把握できるんだから、徹底的にパーソナライズしたお薦めを期待したい。
西端 ご指摘ありがとうございます。その点はひじょうに重要だと認識していますので、多くの方からのフィードバックをいただきながら、レコメンド方法の磨き上げに力を入れていきたいと思います。
麻倉 配信も放送も、ひとつのホーム画面で俯瞰できるのはとてもいい提案ですから、もう一歩進めて録画コンテンツも網羅して欲しいですね。
最近は見逃し配信サービスもありますが、全放送番組をカバーできているわけではありません。でもユーザーが全録レコーダーを使っているのなら、そこからコンテンツを持って来ることもできますよね。ローカルサーバーとの組み合わせというイメージですが、そこまでの検索機能をFire OSが備えてくれれば最強です。
西端 われわれとしてもFire OSもまだまだ完璧ではない所はある、常に進化の途上と思っていますので、課題として取り入れていきたいと思います。ご指摘ありがとうございます。
麻倉 ちなみにパナソニック製品に搭載されるFire OSと、従来のFire OSには違いがあるのでしょうか? パナソニックの担当者にCESでインタビューした際には、テレビ番組の表示などでは自社の知見を生かしますといったお話でした。
西端 基本的なFire OSのユーザーインターフェイスや設計思想は共通ですが、パナソニックさんとたくさんの話合いの上でパナソニックのテレビに向けてFire OSを搭載させていただいています。今後もパナソニックさんなりの改良が行われていくかもしれません。
麻倉 今後の展開として、パナソニック用Fire OSでは録画コンテンツを含めた横断検査ができるといったアップグレードを期待したいですね。なにしろパナソニックはディーガという財産を持っているんだから。
西端 いわゆるネット動画に関しては、現状でもすべてを検索対象にできますが、テレビ番組から検索するといった機能はまだ実装できていけません。おっしゃる通り、そこは大きなテーマになりそうです。
麻倉 録画文化は日本固有のものとも言えますから、ここについてはアマゾン・ジャパンが研究・開発しないとダメだと思います。ぜひ頑張ってください。
またコンテンツのレコメンドという意味では、個人の好みをもっと深くゲットしていかないと駄目ですよ。お薦めされた映画を見て気に入った場合に、同じ監督ならこの作品もありますとか、主演女優やストーリー展開で言うとこの括りがある、みたいな提案も欲しいですね。それからこの映画なら、この時間あたりが昂奮するとか。
もうひとつ、コンテンツのサムネイル画像は綺麗なのに、本編の画質・音質がいまいちでがっかりすることもあります。ぜひ画質、音質のお薦め度もわかるようにして欲しいですね。画質がAランクのものだけお薦めするようにカスタマイズできるとか。
西端 確かに、そういった希望もありそうですね。今日いただいたテーマも踏まえて、日本から声を上げるというところも取り組んでいきたいと思います。
麻倉 プラットフォームは検索と推薦が重要だと思います。いくら作品数が60万あっても、見つけられないと意味がない。また今後は、AIを使った曖昧検索の完成度も求められるでしょう。
西端 将来的には、言葉によるルーズな検索とか、今こういう気分だからちょっと盛り上がる音楽をかけてといったような対話型検索もできるようにしていきたいと思いますので、少々お待ち下さい。
麻倉 やっぱり画質評価は欲しいな。あるいはフィルム撮り作品のお薦めとか、IMAX撮影のお薦めといった切り口も面白いですよ。白黒作品のレコメンドでもいいし、そういった提案もあるといいですね。
最後に、アマゾンとしてFire OSを今後どのように展開していこうとお考えなのでしょうか?
西端 具体的には申し上げられませんが、ラインナップや機能をよりパワーアップしていくという方向で考えています。お客様が求める様々な選択肢を準備していきたいという思いがありますので、スマートテレビだけでなく、SMPについても進化を続けていきます。