画像1: 三鷹の森ジブリ美術館の「君たちはどう生きるか展 第二部レイアウト編」が、本日からスタート! アニメーション作品が生まれる “最初の絵” の完成度の高さに驚いた

 スタジオジブリは、本日(5月25日)〜11月10日まで、三鷹の森ジブリ美術館で「君たちはどう生きるか展 第二部レイアウト編」を開催する。昨年末から今年5月12日まで開催されていた「第一部イメージボード編」に続いての企画展示で、今回はアニメーション作品づくりに於いて重要な役割を持つレイアウト=画面構成について紹介される。

 それに先立ち、24日に三鷹の森ジブリ美術館の土星座で記者会見が行われた。そもそもこの展示会では、ジブリ美術館として初めての “普通の美術館” のような展示室を製作、アニメーションのために描かれた絵や線に集中してもらえるような空間を目指したという。

画像: 三鷹の森ジブリ美術館館長 安西香月さん

三鷹の森ジブリ美術館館長 安西香月さん

 記者会見では、三鷹の森ジブリ美術館館長 安西香月さんが登壇し、「君たちはどう生きるか展」について解説してくれた。

 「『君たちはどう生きるか』は、昨年7月に公開され、国内・海外の色々な地域で上映されています。三鷹の森ジブリ美術館での展示会第一部では、この作品で宮﨑 駿駿監督が描いたイメージボードをご覧いただきました。第二部の今回は、宮崎吾朗監督からレイアウトを展示しましょうという相談がありましたが、正直言って一般の方にはちょっと分かりづらいのでは、と心配だったんです。

 でも、今回レイアウトシートを200 枚ぐらい展示室に飾ったところで、私の中では納得がいきました。今回の映画を作るためには、まず宮﨑 駿監督がイメージボードと絵コンテを描くわけですが、それを元にスタッフが監督の頭の中にあった映像を皆さんの目に見える映像に変えていきます。
鉛筆で描いたり消したり、手垢、汗がついているといった具合で、綺麗な紙じゃないんです。でも、200枚も並んでいると、アニメーターがどうやってイメージを形にするかが見えてきたのです。

 私の中では自信を持って皆様に見てもらえる展示になったかな、と思っております。実際にご覧いただくと、スタッフも力を注いでいるっていうのがよく分かりますので、ぜひよろしくお願いいたします」

画像: 企画・監修を務めた宮崎吾朗監督

企画・監修を務めた宮崎吾朗監督

 続いて企画・監修を務めた宮崎吾朗監督から、「君たちはどう生きるか展 第二部」の趣旨が紹介された。

 「ジブリの宮崎吾朗の方です(笑)。『君たちはどう生きるか展 第二部』は、“レイアウト” というものだけを展示させていただきます。アニメーション作品では、第一部で展示したイメージボードとかシナリオ、絵コンテ、ストーリーボードと言われる作業が、プリプロダクションになります。他にもキャラクター設定や、場面・舞台設定集なども入ります。

 そういうものが揃って、いざ制作に入る時の最初の設計図に相当するのが、レイアウトになります。なぜこれが必要かというと、いわゆる商業アニメーションは分業で制作されています。キャラクターの動きはアニメーターが描くし、背景は美術スタッフが担当します。つまり人物と背景が別々に描かれるわけですから、統一した設計図がないとバラバラの絵になってしまうということです。

画像: 展示スペースは二部屋に分かれている。それぞれの壁面や中央のガラスケースに合計206枚のレイアウトが並んでいた

展示スペースは二部屋に分かれている。それぞれの壁面や中央のガラスケースに合計206枚のレイアウトが並んでいた

 そのためにまず描かれるのがレイアウトです。ここで一つ一つのカットの構図が決められ、背景はこうだよっていうものが選ばれ、キャラクターの動きの設定もこの段階で決まります。ここが光りますとか、ここに影ができますといった指示も、レイアウトに書かれることになります。

 そのレイアウトも勝手に描くわけじゃないんです。特に宮﨑 駿監督の場合はかなり詳細な絵コンテがありますので、それに基づいて打ち合わせをします。監督と作画監督、美術といった人たちも入った状態で、ここはこういう芝居をさせて、こういうカメラワークですといった説明を受けて、原画マンがレイアウトを描くのです。それに対し、監督や作画監督のOKが出て初めて次の作業に進めるのです。そういう意味では、現場の苦闘の始まりがレイアウトと言えると思います。

 ですので、レイアウトを見てもらうと、シーンによっては監督が自ら消しゴムを入れている部分もありますし、ものによっては描き直しているところもあります。さらに演出助手やスタッフからの申し送りも書き込まれているなど、色々な筆跡があるのがわかると思います。それだけ多くの人の手を経て作品が完成するということです。

画像: 作品冒頭、病院の火事のシーン

作品冒頭、病院の火事のシーン

 僕が今回の展示で何を見ていただきたかったかというと、絵を描くということは楽しいだけじゃなくてたいへんなことでもあるんだよっていうところをわかってもらえればと。ちなみに今回は200枚ぐらいのレイアウトが展示してありますが、『君たちはどう生きるか』は1250カットぐらいありますので、全体のほんの一部を展示していることも分かっていただければと思います」

 ここから質疑応答の時間となり、記者からなぜ今回はレイアウトシートだけを展示したのかや、展示するカットをどのように選んだのかについて質問があった。

 宮崎吾朗監督からは、「展示スペースが狭いので、原画や動画は展示しきれませんでした(笑)。そもそもアニメーションは先ほどお話しした通り、レイアウトがあり、アニメーターが描く原画があって、さらにそこに監督の意向が入って、動画になってくる。そのブラッシュアップが完成に近づいてくる過程だと思うんです。その最初の絵であるレイアウトを見ていただいた方がいいんじゃないかなっていう風に思っております。

画像: 屋敷の庭についても、草や岩の質感まで細かく設定されていた

屋敷の庭についても、草や岩の質感まで細かく設定されていた

 シーンについては、僕の独断と偏見で、さらに絵として魅力があるものを選んでおります。なお最近はレイアウトにも3D CGを使うのが一般的で、100%手描きでレイアウトを作っている作品はまれになっています。1250カットも手描きで仕上げているのは珍しいでしょう。

 紙に手描きしているからいいというつもりはないんですけど、やっぱり “物” としてそこにあるという魅力というか、紙に絵を描けばアニメーションが作れるんだっていう、そんな説得力があると思うんです。そういう意味で、実際に展示を見てもらって、紙に描いた絵っていいなっていう風に思ってもらえると、僕としてはすごく嬉しいなと思っています」と答えてくれた。

 最後に宮﨑 駿監督の次回作について尋ねられると、「それは誰にも言わないようにしているんです(笑)。ただ、最近はずっとパノラマボックスを、過去作にある場面、ない場面含めていろいろ作っているんです。それで、過去作ばっかりだとつまんないから次回作のやつも作ってと言ったら、今それをやっています。でも、本当にそうなるのかどうか、ですね。昔懐かしい冒険活劇風で期待しているんですけど、その通りはやってくれないんだろうなと思うんです。そんな状態です。ありがとうございます」と笑いを交えて話していた。

画像2: 三鷹の森ジブリ美術館の「君たちはどう生きるか展 第二部レイアウト編」が、本日からスタート! アニメーション作品が生まれる “最初の絵” の完成度の高さに驚いた

 ここからは自由観覧時間となり、さっそく展示を見学してきたが、そのボリュウムとそれぞれのレイアウトの描き込みの細かさ、絵としての完成度の高さにひたすら感動するばかりだった。じっくり見ていくと、宮崎吾朗監督の言葉にあった通り、そのシーンではどんな演出が必要なのか、さらには描かれている “物” の状態(建物の詳細や草木の様子など)までしっかり指定されていた。

 アニメーション作品は映画でもテレビでもよく目にするが、その最初の絵がどんな風にして生まれたのかについては、これまで気にしたことがなかった。今回の「君たちはどう生きるか展 第二部」はそれを目のあたりにできる貴重なチャンスといえる。映画本編とも違う本作の魅力を、ぜひ体験していただきたい。

 なお三鷹の森ジブリ美術館は日時指定の予約制で、チケットは毎月10日に翌月分入場券がローチケWEBサイトで発売される。上記の通り「君たちはどう生きるか展 第二部」は11月10日まで開催されているので、気になった方は美術館、またはローソンチケットのホームページをチェックしていただきたい。(取材・文:泉 哲也)

画像: 宮﨑 駿監督が制作したパノラマボックス「ワラワラ」

宮﨑 駿監督が制作したパノラマボックス「ワラワラ」

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