トニー・レオンとワン・イーボーの競演。これは心が躍る。中国国内での収益は約181億円を上回り、中国映画界最高の賞とされる「第36回金鶏賞」では主演俳優賞(トニー・レオン)、監督賞、作品賞の3冠を受賞。話題沸騰の『無名』が、5月3日から遂に全国順次公開される。

 トニーはフー、ワンはイエという名のスパイに扮する。物語の舞台は、第2次世界大戦下の中国上海。中国共産党、国民党、日本軍たちのスリリングな腹の探り合い、心理戦、攻防劇がたっぷりと時間をかけて描かれる。表面上はにっこり、しかし実のところは虎視眈々。同時にスパイの哀感というべきものもしっかり描かれている。淡々とした(だがしっかり見ると実に奥深い)描写が続く中、ここぞというところでトニーやワンのアクション・シーンが盛り込まれるのも効果的だ。戦争ものなので登場するのは男性が多いけれど、国民党の女性スパイや、イエの婚約者・ファンら女性陣の描き方も実に細やかで、「女性映画」としてこの作品を観ても手ごたえは得られるように思う。

 80数年前の話を、今の撮り方で捉え、そこに今の音楽をつけたところにも本作の面白さがある。とにかくスタイリッシュに魅せていく。銃の発射音も余韻の少ない、実にコンテンポラリーなものだ。昔のことを昔風のトーン、カラー、シェイプで撮ることから解放された映画の活きのよさ。クラシック音楽にたとえるならば、ピリオド楽器やヴィンテージの楽器を使うのではなく、最新のモデルを用いて、いまの感性をふんだんに取り込みながら、古典に取り組んでいる感じだ。

画像: トニー・レオンとワン・イーボーが競演。戦時中の上海を舞台にしたスパイたちの攻防戦『無名』

 古い物語、とくに戦争ものは「再現」に偏る場合が多いような印象を私は個人的に持っている。その点、この映画は、すごく清新な空気を運んでくれた。そして観終えた後、史実をいろいろ調べ、物語のセリフにもしばしば登場する「1937年」がいかに中国と日本にとって(いろんな意味で)重要な年であったのかを再認した。エンタテイメントでもあり、勉強にもなり、トニーとワンがダンディでもあり。ヒットするのも納得の一作だ。

映画『無名』

5月3日(金・祝)よりヒューマントラストシネマ有楽町、シネマート新宿ほか全国順次公開

監督:チェン・アル
出演:トニー・レオン ワン・イーボー ホアン・レイ 森博之 チャン・ジンイー ジョウ・シュン
2023年/中国/131分/1.85:1/中国語・広東語・上海語・日本語/カラー/5.1ch
字幕:渡邉一治 配給:アンプラグド
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