ヤマハは本日、ライブビューイングなどに向けた記録・再生システム「GPAP(General Purpose Audio Protocol)」を発表した。ライブの映像や音響、照明といった様々な要素をトータルで記録し、離れた場所などでそれらの演出を含めて再生できるという提案だ。
2020年頃のコロナ禍もあり、最近は劇場などでのライブ上映や配信上映が広がってきている。さらには人気アーティストのためチケットが取れない、遠距離のため会場まで行けない……といったことも配信が普及している理由のひとつだろう。
同社では、コロナ禍の2020年に、ライブハウスで上映コンテンツを提供する手段として高感度ライブビューイングシステム「Distance Viewing」を開発した。Distance Viewingはその後も新たなライブの体験や価値を手軽に共有できるように改良が進められてきた。しかしその中で、ライブ会場ならではの問題点が見えてきたという。
例えばライブ会場では映像、音声などが別々のシステムで運用されており、さらにそれぞれのフォーマットも異なっている。そのため全データを独立して記録する必要があり、再生時には同期信号(タイムコード)が必要となるが、これも様々な方式があるため、扱いも煩雑だという。
そこでGPAPでは音声だけでなく、照明や舞台装置の制御信号などのデジタルデータをすべてWAV形式に統一して保存・再生している。これにより、複雑な同期処理を行うことなく再生が可能になるわけだ。
実際の運用では、PAミキサーや照明コントローラーなどの機材を、GAPA専用のインターフェイスに接続することで各種フォーマットを自動的にWAVに変換できる。このインターフェイスからの出力をPCにつなぐだけで記録・再生もできるという。そのデータはWAVに対応したデバイス(PCやiPhoneなど)で再生可能で、GPAP対応デコーダーを使えば制御信号を取り出すこともできる。
また記録信号はあくまでWAVなので、市販のDAWソフトでの編集も可能。ここで照明を追加したり、色を変えたりと言った後処理もできるそうだ。ちなみに制御信号は音声信号1chぶんのエリアに512トラック記録でき、照明やレーザーといった異なるデバイスの混在も可能(トラックは分ける必要あり)。おおがかりな舞台演出でも充分対応できるだろう。
さらにユニークな提案として、GPAPで記録した信号は、コルグが推奨しているLive Extremeシステムでの配信も可能という。Live Extremeはオーディオファーストを掲げる動画配信プラットフォームで、音声信号をビットパーフェクトで伝送できるのが特長だ。今回はこの、音声信号をロスなく伝送できる(しかもマルチチャンネル対応)という点を活かして、GPAPのWAV信号をそのまま取り扱っている。
これはB to Bでのパブリックビューイング用としてはもちろん、B to Cでの家庭向け配信でも活用できるとのことで、将来的にヤマハのAVアンプなどにGPAPのデコード機能が搭載されれば、ライブ会場と同じ照明演出を自宅で楽しむ、といったことが可能になるかもしれない(スマート照明などとの組み合わせを想定)。
ヤマハでGPAPの開発を担当したミュージックコネクト推進部 戦略推進グループの柘植秀幸さんは、「GPAPを使えば、ライブのデータが資産になります。将来的にはライブの博物館も作れるのではないでしょうか」と語っていた。
舞台演出を含めた貴重なイベントの内容が、その場の演出、空気感とともに保存できる、GPAPは新しいステージエンタテインメントの可能性を広げてくれることだろう。
また今回、イベント会場等で使えるパネル式スクリーンも発表された。こちらはパンタグラフ状に折り畳めるフレームと75cm角のスクリーンパネルを組み合わせて、会場に応じたサイズのスクリーンを組み立てようという提案だ。
フレームはアルミ製で、スクリーンパネルも発泡パネルの表面に反射用のコーティングを施したもので、どちらも軽くて丈夫という特長を持っている。フレームとパネルは磁石で固定し、隣り合うフレーム間の隙間は同じく反射コーティングを施したテープで覆うことで、映像を投写しても気にならないように配慮されている。
実際に発表会場でも天井に届くほどの大きなサイズのスクリーンが設置されていたが、こういったイベント投写用としては明るさも不満はなく、つなぎ目もさほど気にならなかった。ヤマハではホールやライブハウス、会議室、体育館などでの大画面展示でパネルスクリーンを活用してもたいたいと話していた。