世界三大ファンタスティック映画祭の一つである「ブリュッセル国際映画祭」で最高賞(金鴉賞)を受賞。アメリカの雑誌「ヴァラエティ」では「まばゆいばかりに洗練された未来のおとぎ話」と評されたという、いわくつきの一作が1月19日から新宿バルト9ほか全国ロードショーされる。監督と脚本はクリスティーナ・ブオジーテ、ブルーノ・サンペル、ブライアン・クラーク(脚本のみ)。フランス、リトアニア、ベルギーの合作だ。

 作品タイトルの“ヴェスパー”はまた、主人公の少女の名前でもある。彼女が住んでいるのは確かに地球ではあるのだが、我々の知る地球ではない。生態系が壊されてしまったのだ。大変な富裕層は安全で豊かな城塞都市“シタデル”市民として悠々と暮らし、庶民は、わずかな資源、食料の争奪戦の中に生きる毎日(なんといっても生態系が壊されているのだから)。空は薄暗く、晴れることはない。加えて、ヴェスパーの父は病で寝たきりだ。が、彼女が森の中で倒れている少女・カメリアを発見・救出したことから、物語は次の章に進む。

 カメリアはシタデルからの来訪者で、事故によって父親と離れ離れになったところだった。ここに、「父親を捜したい」カメリアと「父親の健康をよくしたい」ヴェスパーの間に、なんとも不思議な交流が生まれていく。ヴェスパーには「ここを飛び出して、シタデルで暮らしたい」という意志もみなぎらせる。

画像: 「まばゆいばかりに洗練された未来のおとぎ話」と絶賛。絶望の世界で希望を捨てずに生きる少女の物語『VESPER/ヴェスパー』

 以降、ヴェスパーの叔父なども登場して、展開はさらに深く、速くなる。ヴェスパーはまた、生態系をどう元に戻していくか、という問いにも向き合っている。シタデルのことも含め、私は、しばらく、これを「富める者だけがいっそう富み続ける、生まれた環境の太さによって楽と苦労の割合が決まる、トリクルダウン理論が成立しない社会に対するアンチテーゼなのかな」とも観ていたのだが、描き方は至極クールで、「まあまあ、それはさておき、まずは落ち着いてこの画と向かい合ってみなよ」と言われているような気にもなってくるのには新鮮な気分を味わった。

 劇中に次々と登場する「生物」(もちろん、今の我々の世界には存在しない)も、そのアイデア・色彩感覚と共に、大きな見ものだ。ヴェスパー役は、アカデミー賞受賞作『博士と彼女のセオリー』にも登場しているラフィエラ・チャップマンが務めている。

映画『VESPER/ヴェスパー』

1月19日(金) 新宿バルト9ほか全国ロードショー

監督:クリスティーナ・ブオジーテ、ブルーノ・サンペル
脚本:ブルーノ・サンペル、クリスティーナ・ブオジーテ、ブライアン・クラーク
撮影:フェリクサス・アブルカウスカス
音楽:ダン・レヴィ
編集:スザンヌ・フェン
出演:ラフィエラ・チャップマン、エディ・マーサン、ロージー・マキューアン、リチャード・ブレイク

2022年/フランス、リトアニア、ベルギー/英語/114分/シネマスコープ/5.1ch
字幕翻訳:北村広子/原題:VESPER/レイティング:G
配給:クロックワークス
(C) 2022 Vesper - Natrix Natrix, Rumble Fish Productions, 10.80 Films, EV.L Prod

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