毎年のことなのだが、夏の終わり頃から12月まで各社の新製品をチェックしにあちこち歩いたり、原稿締切りが立て込んだりで、買い込んでいたUHDブルーレイやブルーレイの封を開けることができず、床に積んだままだったりする。
年末年始のお休みはそれらを片っ端から観ることになるのだが、そんな中から面白かったディスク、感銘を受けた作品を3本ご紹介しよう。
暗殺の森 【4Kレストア版】 UHD+Blu-ray ¥8,580(税込)
●販売元:TCエンタテインメント
© 1971 Minerva Pictures Group All rights reserved.
最初はベルナルド・ベルトルッチ監督の『暗殺の森』(1970年)のUHDブルーレイ(4K&SDR)。本作の4Kマスタリングはイタリア・ボローニャで行なわれたが、本作のプロデューサー&ディレクターの山下泰司さん(WOWOWプラス。本サイトでもお馴染みですね)は、全体に黄味の強いホワイトバランスに納得がいかず、権利元の許可を得て、日本国内でその修正を試みたという。
色調整を担当したのは、IMAGICAエンタテインメントメディアサービスのベテラン・カラリスト。過剰な黄色味をシーンごとに程度を決めて抜いていくという方針で修正をしていったとのことだが、実際に仕上がった色合いはじつに見事なもの。早朝のパリの街を歩くジャン・ルイ・トランティニャンを捉えたショットの青みがかった背景などに修正の大きな成果が出ているのではないかと推察する。
また、ジュリア役のステファニア・サンドレッリ、アンナ役のドミニク・サンダのスキントーンも美しく、匂いたつ若々しい色香に頭がクラクラした(ドミニク・サンダは撮影時18歳だったそう!)。
撮影監督はヴィットリオ・ストラーロ。自我の脆さをマッチョなファシズムに傾倒することで覆い隠そうとする主人公の心理をキャメラ・アングルの変化で表現しようとするなどケレン味たっぷりの映像魔術が4K高画質で堪能できる。このディスクはぜひスクリーン大画面で観ていただきたいと思う。
モノーラル音声のリマスターを行なったのは、山下さんとのコンビで数々の名作を生み出してきたオノ セイゲンさん。96kHz/24ビットのリニアPCMで収録されたその音は明快で、台詞のキレのよさや音楽の鳴りの良さなどにその成果がうかがえる。
それから、同梱されたブックレットに収められた小野里徹さんの長文解説がすばらしい。本作の作劇にジャン・リュック・ゴダールへの愛憎が塗り込められているという指摘に浅学非才の徒は驚くばかり。
まさに「フィジカル万歳」なUHDブルーレイ。映画マニアはぜひお手元に。
ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE
4K Ultra HD+ブルーレイ(ボーナスブルーレイ付き) ¥7,260(税込)
●販売元:NBC ユニバーサル・エンターテイメントジャパン合同会社
© 2023 Paramount Pictures.
2本目は『ミッション:インポッシブル デッドレコニング PART ONE』のUHDブルーレイ(4K&HDR)。ご存じトム・クルーズ主演の人気シリーズの最新作。ビッグ・バジェット作品ならではのスケールの大きなアクション演出が思う存分楽しめる。
終盤の列車墜落シーンのスリリングな展開には誰もが息をのむと思うが、前半の砂嵐場面のドルビーアトモスの立体音響効果も凄い。オーバーヘッドスピーカーを駆使して、視聴者を包み込むように現場にいるかのようなイリュージョンを惹起するのだ。また、LFE(Low Frequency Effect)のもたらす効果も凄まじく、近所迷惑を鑑みてあわててレベルを下げた次第。
本作は音質そのものがとても良く、ダイアローグのキレや男声の厚み、生々しさなども過去最高レベルの仕上がり。AVセンター(アンプ)やスピーカーのテストに今後どんどん活用しようと思う。
鍛え抜かれたプロフェッショナルがなんであんなに易々とズボンのポッケからカギを盗られるんだ? などというツッコミはやめておきましょう(爆)。
【初回仕様】バービー<4K ULTRA HD & ブルーレイセット>(2枚組/豪華封入特典付)
¥8,580(税込)
●発売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
●販売元:NBC ユニバーサル・エンターテイメント
©2023 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.
3本目は『バービー』のUHDブルーレイ(4K&HDR)。
ピンク(=バービー)とブルー(=ケン)で塗り込められた明るくハッピー、だけど空疎なバービー人形の世界から生臭い人間界へ向かったバービーとケンの「気づき」を描いた作品で、マチズモの危険とフェミニズムの本質を注意深く描写した佳作。
まずはその派手な色彩設計が大きな見どころ。ピンクといってもその色合い、グラデーションは豊富で、これはぜひHDR効果が明瞭な大画面有機ELテレビで観ていただきたい。とくに色再現が魅力のQD-OLEDパネルを使ったシャープの新製品FS1シリーズの65型で一度観てみたいと思う。
以上ぼくの正月休みを楽しませてくれた3作の紹介でした。ま、2023年でもっともうれしかったのは、黒澤映画のUHDブルーレイ化だったことを最後に付け加えておきます。