おしゃれで都会的なニューヨークは、せいぜいマンハッタン5番街、それもセントラル・パークの南側の一部だけではなかろうか、というのが私の考えだ。ほかのエリアは、よく言えば人間臭く、汗や力の量が問われる。主張されたらそれに負けない主張をしなければ押しつぶされ、ようするに弱肉強食という印象だ。この映画はそこ(マンハッタンではなくてブロンクスあたりではないかと思う)に住む、ペルーからの移民家族の物語。母は大衆食堂で働き、息子ふたりは自転車での出前配達に忙しい。自動車に接触されたら、自分たちが悪かったですとばかりに謝り、その場を逃げるように去る。いろいろもめたり、IDの提出を求められたくないのだろう。その理由は物語を追うごとにわかる。

 息子ふたりは英語学校に通い、そこでクロアチアからやってきた女性と出会う。モデル活動もしている彼女の大胆不敵な活動は兄弟を大いにインスパイアする。そして母に好意を寄せる白人男性も現れた。男性は母にブリトーの電話注文のテイクアウトを開業すればいいじゃないと持ち掛ける。店舗もいらないし……。

 が、ブリトーの本場はメキシコでペルー伝来ではない。しかし生活のために母も兄弟も努力し、ブリトーになじもうとする。ブリトーには肉がいる。この「肉」をめぐる男と兄弟の会話(というか決して埋まることがないであろう見解の相違)に、私は心を引き割かれるような気持になった。以降、私の移民家族に対する感情移入はさらに増し、映画が終了する頃には、ものすごい力を消耗した実感があった。それほど観る者を本気にさせる、のめりこませる映画がこれなのだ。

 監督のマーク・ウィルキンスはこれが長編デビュー作。出演はマガリ・ソリエル、アドリアーノ・デュラン、マルチェロ・デュランほか。

映画『ニューヨーク・オールド・アパートメント』

1月12日(金)新宿シネマカリテほか全国公開

監督:マーク・ウィルキンス 脚本:ラニ=レイン・フェルサム 撮影:ブラク・トゥラン 編集:ジャン・アンデレッグ 音楽:バルツ・バッハマン、ブレント・アーノルド 原作:アーノン・グランバーグ著「De heilige Antonio」 プロデューサー:ジョエル・ジェント
2020年/スイス/英語、スペイン語/98分/ビスタ/5.1ch/原題:THE SAINT OF The impossible/日本語字幕:佐々木彩生/配給:百道浜ピクチャーズ
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