これは嬉しいリバイバル上映だ。2001年に公開されて大ヒットした『ゴーストワールド』が、22年ぶりに全国ロードショーされる。当時最新の施設だったはずのレンタルビデオ店が妙に懐かしく感じられたり、当時は時代遅れの産物と考えられていたであろうレコード(しかも78回転!)を集めるマニア連中が妙にかっこよく見えたり、いまの空気のなかで観返すと、また印象が変わってくる。

 物語の舞台は1990年代のアメリカ。VHSとCDが猛烈に普及を始めていた頃と考えていいだろう。幼なじみのイーニド(ソーラ・バーチ)とレベッカ(スカーレット・ヨハンソン)は、高校はどうにか卒業したものの、とくに今後に対する明確なヴィジョンもなく、はっきりいえばかなりだらけた毎日を送っている。そのふたりの行動範囲は、おそらくどう広く考えても半径数キロ以内。その中で起こる出来事のあれこれ、関わってくる住人たちの味の濃さが楽しい。

 音楽ファンにとって特に強く訴えてきそうなのが、中年男シーモア(スティーブ・ブシェミ)の存在だ。古い音源を33回転LPにコンパイルする企画に、自身の所有する78回転盤を貸すこともあって、世界に2枚しかない盤も所有しているというから、超強力なコレクターといっていい。78回転はシェラックという素材でできていて、重く、割れやすい。だから保管には細心の注意を払わなければならないのだが、シーモアがそのあたりを心得ていることはいうまでもなく、部屋の壁には伝説のブルースマンであるチャーリー・パットンの肖像写真が貼られていたり、ほか、とある黒人蔑視用語が普通に使われていた時代の広告パネル等も所有している。彼の心はいつも1930年代以前に飛んでいるようだ。

画像: スカーレット・ヨハンソンの出世作が22年ぶりに全国公開。音楽ファンにも訴える大ヒット映画『ゴーストワールド』

 このシーモアとイーニドの間に生まれる奇妙な友情の面白さ(結果、イーニドはスキップ・ジェイムズのブルースを聴くようになる)、別方面に成長していくことで生じるイーニドとレベッカの“意識のずれ”もクリアに描かれる。原作はダニエル・クロウズの同名グラフィック・ノベル、監督はテリー・ツワイゴフが務めた(脚本はふたりの共同執筆)。いまや大スターとなったヨハンソンは当時15歳だったという。また、「78回転盤から流れる音楽」のいくつかを、いまや超大物のジャズ・バンド、ヴィンス・ジョルダーノ&ザ・ナイトホークスが手掛けているところにも、先見の明が感じられる。

映画『ゴーストワールド』

11月23日(木・祝)よりBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほか全国順次公開

出演:ソーラ・バーチ スカーレット・ヨハンソン スティーヴ・ブシェミ ブラッド・レンフロ ほか
監督:テリー・ツワイゴフ 原作:ダニエル・クロウズ『ゴーストワールド』(プレスポップ刊) 脚本:ダニエル・クロウズ、テリー・ツワイゴフ 製作:ジョン・マルコヴィッチ 撮影:アフォンソ・ビアト 編集:キャロル・クラヴェッツ=エイカニアン、マイケル・R・ミラー プロダクション・デザイン:エドワード・T・マカヴォイ 衣装デザイン:メアリー・ゾフレス 音楽:デヴィッド・キティ 配給・宣伝:サンリスフィルム
【2001年|アメリカ|英語|カラー|ビスタ|111分|原題:GHOST WORLD|字幕翻訳:石田泰子】
(C) 2001 Orion Pictures Distribution Corporation. All Rights Reserved.

This article is a sponsored article by
''.