DTSジャパンは昨日、マスコミ向けのDTS AUDIO視聴会を開催した。同社視聴室に、JBL「BAR1000」とゼンハイザー「AMBEO Soundbar | Plus」をセットし、それら最新サウンドバーでDTS音声収録ディスクがどれくらいの迫力で楽しめるかを改めて体験してもらおうというものだ。
今年のOTOTENのイベントでも紹介されていたが、DTSは今年で創業30周年を迎えた(1993年の『ジュラシックパーク』が劇場公開作第一弾)。これを記念して海外では様々なイベントも実施、その様子は「Xperi TOKYO」のYouTubeでも紹介されている(日本語字幕付き、関連リンク参照)。
視聴会ではまずdts japan株式会社シニア セールスディレクターの塚田信義さんが登壇し、DTSの現状の紹介が行われた。
塚田さんによると、1993年の劇場デビューに続いて1997年にはLDやDVD用音声としてホームシアター市場に参入、2004年にはロスレスオーディオ(DTS-HD MA)がブルーレイのマンダトリー音声として採用され、一気に普及が進んだそうだ(同社によると、93%のディスクで採用されているとのこと)。
その後2012年にはSRS社を買収し、アップミックス機能なども充実させてきた。さらにSRS社が持つMDA(マルチディメンシャルオーディオ)技術を活かしてイマーシブオーディオのDTS:Xを2015年にリリースしている。2018年はIMAX社と協業してIMX Enhancedプログラムを立ち上げ、配信フォーマットに向けた提唱も行っている。
ちなみにDTSの技術を搭載した民生用製品はこれまでに20億台以上が販売されているそうで、その中にはスマホや薄型テレビの音質改善技術、Play-Fiのような操作性改善技術なども含まれている。さらに現在もポストプロセッシング技術の開発を進めているそうで、来年には現在の機能をアップグレードする発表ができるのではないかとのことだった。
コンテンツ面では250を超えるDTS:X上映作品が制作されており、DTS:X対応劇場も世界中で1000館以上が営業している(日本では現在4館)。さらにDTS:X音声を収録したUHDブルーレイ/ブルーレイも200本以上が発売中とのことで、今回の視聴会ではその中からもお薦めタイトルが選ばれている。
加えて日本国内でのDTS:X作品の制作環境も整ってきており、既にIMAGICAにDTS:X対応試写室が、東映スタジオにはダビングステージが導入されたとかで、2021年に公開された『えんとつ町のプペル』はDTS:Xのミキシング、マスタリング、検定のすべてを日本国内で行った作品だそうだ。
そこから、今回視聴するサウンドバーの紹介が行われた。選ばれたのはJBL「BAR1000」とゼンハイザー「AMBEO Soundbar | Plus」で、どちらもDTS:Xのデコードに対応済み。イネーブルドスピーカー機能を内蔵しているので、天井反射を使ってハイト情報も再現できる。
まずハーマンインターナショナル株式会社プロダクトマーケティング部 マネージャーの濱田直樹さんからBAR1000についての説明が行われた。BAR1000は本体とサブウーファーの2ピース構成で、さらに本体両サイドが着脱式のワイヤレスリアスピーカーとして使える点が最大の特長だ。
濱田さんは、BAR1000は設置のハードルを下げ、さらに高いサラウンド効果も両立した、ホームシアターの「第三の革命」を実現したとアピール。クラウドファンディングなどを通じて幅広く注目を集めたこともあり、現在でも毎月500台を超える売上を誇る人気モデルになっているそうだ。
続いてソノヴァコンシュマーヒアリングジャパン株式会社 営業の加藤久幸さんから、ゼンハイザーAMBEO Soundbara |Plusが紹介された。こちらは本体に7.1.4chシステムを搭載しており、「まるで魔法」のような体験ができる製品とのことだ。今回は別売のワイヤレスサブウーファー「AMBEO Sub」と組み合わせて迫力ある再現を狙っていた。
なお型番の「AMBEO」(アンビオ)とはゼンハイザーと欧州最大の研究機関のフラウンホーファーが共同で開発している立体音響プロジェクトの名称で、入力された信号に独自の処理を加えて、サウンドバーで包囲感のある音場を再現できる(ビームフォーミングテクノロジーも使っている模様)技術だそうだ。加藤さんは「ゼンハイザーならではの音の定位感とAMBEOテクノロジーによる緊張感あるサラウンド効果を体験して下さい」と話していた。
そしていよいよディスク再生がスタート。今回の視聴会では「DTS:X コンテンツ推薦人」として伊尾喜大祐さんと飯塚克味さんが紹介された。おふたりともStereoSound ONLINEや弊社「季刊HiVi」で映画に関するリポートをお願いしている “映画とホームシアターのプロ” だ。
伊尾喜さんは自身でも250を超えるパッケージディスクの制作・演出に関わっているとかで、その際にはDTS音声を選ぶことも多いそうだ。今回は自身が関わった作品も含めて、推薦ディスクを選んでくれている。
飯塚さんはWOWOWで毎週土曜日に放送されている「最新映画情報 Hollywood Express」の演出を長年担当するなど、最新情報も熟知しており、そこで知り合ったスタッフなどを九十九里にあるホームシアターに招待して、パッケージソフトの素晴らしさを体験してもらうといった伝道活動も熱心に行っているそうだ。
今回はおふたりがそれぞれ3枚の作品を選び、BAR1000とAMBEO Soundbar | Plusのそれぞれに合ったタイトルを順番に再生してくれた。
まずはJBL BAR1000を使った試聴からスタート(ワイヤレスリアスピーカーは試聴位置後方左右にスタンドに乗せて設置)。1枚目は飯塚さん推薦のDTS:X音声収録のUHDブルーレイ『ヒックとドラゴン』で、Ch(チャプター)9、43:52〜のヒックとドラゴンの訓練飛行シーンでの、風を切る移動感と音楽のコラボレーションが聞きどころという。
そのコメント通り、ドラゴンの飛翔に連れて体の両サイドを風が通り抜けていくように感じることができた。特にヒックがドラゴンから振り落とされて海に落下していくシーンでのスピードや高さをサラウンドでしっかり再現し、怖さも感じられる。
2枚目は、伊尾喜さんが選んだブルーレイ『ルパンの娘 劇場版』からCh14、49:00〜のタイムトラベルシーンを再生。こちらはタイムマシンの移動感やSE、過去の世界でのジュリアナ東京(!)のディスコの重低音や、巨大な足音が聞きどころだそうだ。
なお『ルパンの娘〜』はDTS-HD MA5.1ch収録なので、BAR1000に内蔵されたDTS Nural:Xのアップミックス機能を使ってトップスピーカーを加えたイマーシブサラウンドとして再生している。
コメディタッチの作品なので基本的なサウンドデザインも派手めで、それがBAR1000の持ち味にマッチしている。タイムマシンの飛行の軌跡も明瞭だし、矢継ぎ早に飛び出すセリフのテンポもいい。5.1ch収録ながら、重さを持った足音が天井から響いてきたことに、Nural:Xの効果を体感できた。
ここで伊尾喜さんから、本ディスクにはDTS Headphone:X音声が収録されていることも紹介された。DTS Headphone:Xはその名の通りヘッドホン視聴でサラウンド感を得られる技術で、2ch収録ながらバーチャル処理により、あたかも5.1chのような体験が可能。伊尾喜さんはその効果を高く評価しており、自身が制作を担当したタイトルにはできるだけDTS Headphone:X音声を収録しているそうだ。
続く3枚目は、飯塚さんが「DTSといえばこのシリーズでしょう。恐竜やバイクの移動感、これぞハリウッド作品というサウンドデザインを聴いて下さい」と、UHDブルーレイ『ジュラシック・ワールド 新たなる支配者』から、Ch9、58:40〜のバイクで恐竜から逃げるシーンをチョイス。DTS:X音声収録盤だ。
銃声や恐竜が檻にぶつかる音などのSEがしっかり聞き取れ、BAR1000の基本的な情報再現力の高さが確認できた。町中での恐竜とのチェイスのスピード感も素晴らしいし、狭い通路の圧迫感、後半の飛行機離陸シーンの空間の広がりや高さ感もきちんと描き出している。
ここでサウンドバーをAMBEO Soundbar | Plusに交換、上記の通りAMBEO Subとの組み合わせでお薦めディスクが再生された。なお事前にAMBEOによる測定を行い、DTS視聴室に合わせた音場補正を加えた状態で再生しているそうだ。
伊尾喜さんが制作に関わったブルーレイ『バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版』から、冒頭のハサミの音の鋭さや、続くBGMの弦の響き、野犬の遠吠えをチェックする。このディスクもDTS-HD MA5.1ch収録なので、AMBEO Soundbar | PlusではNural:XによるアップミックスにAMBEOの音場補正を加えて再生している。
いきなりのハサミの音が金属の冷たさと不気味さを漂わせ、作品世界に引き込まれる。弦の響きも濃密で、重さや濃さを伴った音場再現が特長のように感じた次第だ。リアスピーカーは使っていないが、視聴位置両サイドからやや後ろまで音に包まれる印象で、枯れ葉を踏んで歩くシーンではアップミックスの効果も確認できた。
飯塚さんはAMBEO Soundbar | Plusで聴きたいディスクとして『スリーピー・ホロウ』のUHDブルーレイをチョイス。本作のブルーレイは早い時期に発売されたため映像圧縮方式がMPEG2で、画質的に気になる点もあったが、今回4K化されて若き日のジョニー・デップやクリスティーナ・リッチが鮮やかに蘇っているそうだ(音声はDTS-HD MA5.1ch収録)。
再生シーンは「馬車の疾走感や、ダニー・エルフマンの音楽の盛り上がりが聞きどころです。ジョニー・デップやクリスティーナ・リッチは出てきませんが、まずはここを聴いてください」とのことで、Ch1、1:59〜の首なし騎士の襲撃シーンが選ばれた。
飯塚さんの言葉の通り、銀残し処理された映像が美しい。厚みのある黒再現、色の深さが印象的だ。ひとつひとつの音にも重さがあり、風を切って疾走する馬の足音の響きも実体感がある。馬車から逃げ出すシーンでの恐怖、首を切られる音の鋭さなども本作の雰囲気に相応しい表現だ。
伊尾喜さんの最後のお薦めタイトルは『すずめの戸締まり』のUHDブルーレイ。こちらもDTS HD-MA 5.1ch作品だが、事前にNural:Xでのアップミックスを確認したところ、予想以上に高さ方向の情報が再現されたそうで、そこを確認して欲しいとの話だった。再生シーンはCh4、9:20〜の「初めての戸締まり」で、みみずと呼ばれる悪霊が扉から吹き出す際の轟音や音楽のサラウンド感がポイントだそうだ。
本作ではセリフの張り出し感、クリアーさが印象的だ。AMBEO Soundbar | Plus本体は画面下30cmほどの場所に置かれているが、声が映像の口元に近い場所から再現される印象で、画音一致に近づいている。伊尾喜さんがコメントしていた高さの再現もしっかり確認でき、イマーシブオーディオでサウンドデザインされたのではないかと思うほどの包囲感だった。
ちなみにこれら6作品の他に、DTS:X音声収録のUHDブルーレイ『アポロ13』も両方のサウンドバーで再生されている。これはOTOTENで同作のDTS LDをデモしたことが好評だったので、当時からの技術の進化を確認してもらうためとのこと。
BAR1000とAMBEO Soundbar | Plusで聴く『アポロ13』は、打ち上げの重低音を全身で浴びるエンタテインメント性に優れたBAR1000と、濃密な低音に包まれながら俳優のセリフのニュアンスまで聞き取れるAMBEO Soundbar | Plusといった印象で、それぞれの製品の音作りや魅力がうまく再現されていると感じた次第だ。
最後に最新サウンドバー2モデルでお気に入りディスクを体験した感想を「コンテンツ推薦人」のおふたりがコメントしてくれた。
伊尾喜さんは、「リハーサルでこの部屋に初めてお邪魔してDTSデモディスクの音を聞いた時に、KEFのスピーカーが鳴っていると思ったんです。でもそれがサウンドバーの音だと知って、これまでの価値観が変わるような衝撃を受けました(笑)。リアルスピーカーでのホームシアターももちろん素晴らしいのですが、リビングで映画を楽しむにはBAR1000やAMBEO Soundbar | Plusはぴったりのアイテムですね」と語っていた。
飯塚さんも、「サウンドバーをなめていました。初期の製品の音が軽い印象だったので、その後はちゃんと聴いてこなかったんですが、BAR1000やAMBEO Soundbar | Plusなどの最新機種ではこれだけのサラウンドが表現できるんですね。ここからホームシアターをスタートできる人が羨ましい。リアルスピーカーとサウンドバーを両方設置しておいて、遊びに来たお客さんにイタズラするのも面白そうです」とサウンドバーの進化について改めて驚いた様子だった。
最後に、dts japan 株式会社 マーケティング担当の津司紀子さんが、「映画やライブを楽しむ場合、世の中には既にたくさんのパッケージソフトが出ています。これらの既存タイトルをもっと楽しめないか、リッチな体験をしてもらえないかという思いから今回の視聴会を企画しました。もちろんそこでDTSも忘れないでもらいたいという気持ちもあります(笑)。今後もDTSではコンテンツの製作サポートもし、世界中の人が日本のコンテンツを楽しめるようにしていきたいと思っています」と語ってイベントは終了となった。
同社では今回のような体験イベントを継続して開催したいと考えており、将来的にユーザーやSNSフォロワーに向けた視聴会も企画したいとのことだった。今後DTSからどんな新しい技術やイベント情報が発信されるか、期待したい。(取材・文:泉 哲也)