奇想天外と断言したくなる物語なのに、妙なリアリティがある。スケールの大きな物語だが、人間の持つバイタリティが通奏低音の役割を果たしているように思えた。

 主人公となるアジア系女性、その名も〈モナ・リザ〉は、12年もの間、精神病院で毎日を過ごしていた。が、赤い満月に照らされた夜、突如として特殊能力に目覚め、ニューオリンズにたどり着く。アメリカ南部の港町、アフリカ系文化とフランス系文化の「るつぼ」のような土地で、彼女は文字通りの「魔女」となって、ときに新しい仲間と連れ立ちながら、異様なパワーを発揮する。警官とのやりとりには「エクストリームな追いかけっこ」的な趣があり、少年となんとも味わい深い愛情を築くあたりも個人的には大きな見ものだった。文句なしにハラハラさせられるエンディングまで、まったく息もつかせぬ展開だ。

 私はかつてニューオリンズを観光したことがあるが、この映画に出てくる隠微な街角や、ギラギラした飲食街の描写に、あの土地のとんでもない熱気と湿り気(東京の夏の比ではない)が画面越しに漂ってきそうな錯覚を覚えた。ニューオリンズといえばジャズの故郷である、というのが定説とはいえ、ここではカンツォーネの名曲「エスターテ」や、ヘヴィ・メタルが効果的に使われているのも興味深い。

画像: 南部ニューオリンズを舞台にした、あまりにも幻想的でデカダンな物語。謎の女性<モナ・リザ>の行く末は?

 監督は『ザ・ヴァンパイア ~残酷な牙を持つ少女~』で評判を呼んだ、“次世代のタランティーノ”ことアナ・リリ・アミリプール(イギリス生まれのイラン系アメリカ人)。韓国人俳優チョン・ジョンソが〈モナ・リザ〉をクールに演じ、彼女と一筋縄ではいかない関係となるシングルマザーのダンサー役には『あの頃ペニー・レインと』のケイト・ハドソンが扮する。

映画『モナ・リザ アンド ザ ブラッドムーン』

11月17日(金)ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテほかにて公開

監督・脚本:アナ・リリ・アミリプール
出演:ケイト・ハドソン、チョン・ジョンソ、クレイグ・ロビンソン、エド・スクライン、エヴァン・ウィッテン
2022年/アメリカ/英語/106分/カラー/ビスタ/5.1ch/原題:Mona Lisa and the Blood Moon/字幕翻訳:高山舞子/G
提供:木下グループ 配給:キノフィルムズ
(C) Institution of Production, LLC

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