実際に起きた事件を元に、社会に問題を提起する作品を作って来た緒方貴臣監督の最新作『シンデレラガール』が、いよいよ11月18日より公開となる。ここ日本で“シンデレラ”と聞けば、“幸運を得た女性”、そこから派生した”依存的願望＝シンデレラシンドローム”の意味合いが強く、他力依存的な行動・志向への、監督なりの提案といえる作品が完成した。ここでは、主人公・佐々木音羽（伊礼姫奈）に寄り添い、義足へのネガティブな想いを、共にポジティブなものへと昇華していくのに大きな役割を果たすマネージャー・木村唯を演じた辻千恵にインタビューした。
――よろしくお願いします。いよいよ公開が迫ってきました。まずは、公開を迎える今の心境をお聞かせください。
撮影してからもう一年経ったんだな～というのが率直なものですが、この作品を観てくださる方が、どんな感想を持たれるんだろうと思うと、ドキドキしています。
――辻さん演じるマネージャーの木村唯は、登場シーンから仕事ができて、気遣いができる人なんだなという印象を受けました。そのシーンの撮影について、お聞かせください。
（佐々木）音羽と現場に向かうタクシーの中のところですよね。その時はまだ、音羽を義足のモデルとして売り出そうということに対して、自分の中で決め切れていない状態でしたから、当たり前のように義足の調整をする音羽を見て、ここはタクシーの中だよ（人の目があるよ）という気持ちから、義足を隠すような仕草をしているんです。唯自身はまだ、義足を隠してほしい、普通のモデルとして活動してほしいというように、義足をネガティブに捉えていた時期になります。
――唯の言動を見ていて、あまり（義足を）前面に出したくなさそうだなという印象がありましたけど、疑問が氷解しました。
そうなんです。できれば（義足を）隠してほしいと思っていました。
――その後、義足のファッションブランドを二人で見学に行きますが、その時もまだ、唯の表情は暗かったです。
実は、その前のシーンでかっこいい義足を付けたモデルのポスターが掲出されているんです。音羽がそれを気にしているのを見て、こういうものに興味があるのかなと感じて、彼女を連れて行ったのだと、自分では理解しています。
――音羽がデザインされた義足を見て喜んでいる横で、唯は何を考えていると想像して演じましたか？
唯としてはまだ、隠してほしいと思っているわけですけど、あのキラキラした義足を付けた音羽を見て、びっくりしているんです。すごく綺麗だし美しいと感じて、もしかしたら義足を前面に出したモデルとして活動できるんじゃないか、ということに気付いた瞬間なんです。だから、唯だけではなく、音羽にとっても、ターニングポイントになったシーンだと思っています。
――お互いに影響しあっているのですね。
そうですね。ただ私は、どちらかと言えば、音羽が自分（唯）を変えてくれたと思っています。
――話は飛びますが、表情つながりで言えば、ファッションショーへの出演が決まって、2人で喜びあうところの笑顔も記憶に残りました。
ありがとうございます。そのシーンは台本には抱き合うって書いてあったんです。でも、私はしっくりこない。そこで伊礼さんに“マネージャーさんと抱き合ったことがありますか？”って聞いたら、“ないです”という答えが返ってきて。私も、肩を叩きあうとか、ハイタッチするぐらいはしますけど、抱き合った経験はなかったんです。それで、手を握りあう仕草に変わったのですが、リアルに近づいたことで、表情にも表れたのかもしれません。そう言ってもらえるとうれしいですね。
――唯は、音羽から影響を受けて変わったと。そうお聞きして、後半の病室での唯の言動が理解できました。
そうなんです。唯は音羽を信じていて、絶対にファッションショーに出演してほしい。そう願っているからこそのセリフ・行動になるんですけど、一方でお母さんの気持ちも理解できる。その板挟みになって、台本には泣くというト書きはなかったのですが、自然と涙が溢れてきてしまって……。一所懸命、堪えてはいたのですけど、泣いてしまいました。
――表情からも、言葉からも、音羽を信じる気持ちが、痛いほど伝わってきました。
ありがとうございます。音羽は、言葉は少ないけど、居るだけで、立っているだけで人を引っ張っていく力がある。だからこそ、この人をマネジメントしたいと思わせるに充分な存在なんだと、役柄ではありますけど、そう感じていました。もう、人間力の塊だなって思っていました。
――ネタバレなのであまり話せませんが、ラストの二人の表情もよかったです。
音羽の、常に凛として、どんな状況であっても強くいる姿に魅せられてしまっているのと同時に、自分にも自信を与えてくれていることに感謝している。そして、もっともっと違う景色を二人で見られたらいいなって。そう思いながらお芝居をしていました。
――さて、少し話を戻しますが、出演が決まった時の感想や、台本を読んだ時の印象をお聞かせください。
オーディションで選んでいただいたのですが、実はオーディションは別の役で受けていたので、マネージャー役に決まったと聞いた時は、うれしさと同時に、驚きがありました。役作りの一環で、実際に義足を使われている方にお会いしたのですが、生き生きとされていたこともあって、当初唯が感じていた、義足に対してネガティブな感情を持っているというお芝居が難しかったです……。でも、結果として、さきほどもお話した病室のシーンにつなげられたのかなって思います。マネージャーとしてだけではなく、人間としての心情を作れたことが大きかったと感じています。
――パンフレットには、“このタイミングで音羽に出会えてよかった”というコメントがあります。その想いを教えてください。
自分の役どころであるマネージャーとして音羽を見た時に、ただただついていきたくなるような魅力を感じたんです。モデルという美しさだけでなく、中身の強さ、深さを兼ね備えた人間力の高さとでも表現したらいいでしょうか。パンフレットのコメントを書いている時に、改めてそのことを思い出して。今の自分に足りないものはこれなんだ！って気づいたんです。人前に立つ人は高い人間力、人を引き付ける魅力、それを備えているんだと。自分の目指すものを改めて気づかせてくれた。その気持ちを綴ったものになります。それ以来、そうなりたいと思って生活を送っています！
映画『シンデレラガール』
11月18日（土）より新宿K’s cinema ほか全国順次公開
※公開を記念してキャストによる舞台挨拶も決定（＠新宿K’s cinema）
＜11月18日（土）正午の回＞
登壇者：伊礼姫奈 辻千恵 太田将熙（以上、出演） 緒方貴臣監督
＜11月19日（日）正午の回＞
登壇者：伊礼姫奈 佐月絵美 三原羽衣 田口音羽（以上、出演） 緒方貴臣監督
＜キャスト＞
伊礼姫奈
辻千恵 泉マリン 太田将熙 輝有子 佐月絵美 三原羽衣 田口音羽 筒井真理子
＜スタッフ＞
監督：緒方貴臣 脚本：脇坂豊、緒方貴臣 撮影監督：根岸憲一 音楽：田中マコト、菱野洋平(WALL) 義足監修：臼井二美男 プロデューサー：榎本桜、緒方貴臣、塩月隆史、 杉山晴香、夏原健、森山風歩 製作：paranoidkitchen、リアルメーカーズ、ラフター 配給：ミカタ・エンタテインメント
2023年／日本／カラー／16:9／5.1ch／61分
（C）2023映画『シンデレラガール』製作委員会
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