自分の家族やパートナーがテロの犠牲になってしまったら? 考えるだけでも気分が落ち込んでいくけれど、世の中の何割かの人々は、これを経験している。この映画は、妻が2015年のパリ同時多発テロの犠牲になったジャーナリスト、アントワーヌ・レリスの実話をもとにしている。
自分、妻、息子の3人で穏やかな日々を過ごしていたアントワーヌだが、ある夜、人気イベントに行く妻を送り出す。妻は友人と一緒に満面の笑顔で道路を渡った。数時間後には笑顔で戻ってきて、そのイベントの話をしてくれるだろうとアントワーヌは思ったはずだが、次に彼の耳に入ってきたのは、そのイベント会場でテロが行われたという情報だった。妻の携帯は留守電のままで、朝になっても彼女は戻ってこない。大人であるアントワーヌには事の推移が想像できたが、子供である息子は、なぜママが突然いなくなったのかがわからない。悪い子にしていたわけではないのに、なぜいなくなったのだろう。
憎んだところで妻が生き返るわけではない。今、生きている者に、この気持ちを、生命の尊厳をどう伝えるか。そこで物語的には、アントワーヌの職業が生きてくる。文才を生かして、穏やかに、だがスピリットはしっかりとこめて。暴力に暴力で立ち向かえば、それは犯人と同レベルだ。あくまでも、言葉の力で、テロリスト側の暴力のよろいを溶かしていく。子供の精神的な成長ぶりも、この映画のポイントであると感じた。
アントワーヌ役は『エッフェル塔 創造者の愛』にも登場していたピエール・ドゥラドンシャン。キリアン・リートホーフが監督・脚本を手がけたドイツ・フランス・ベルギー合作映画だ。
映画『ぼくは君たちを憎まないことにした』
11月10日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー
監督・脚本:キリアン・リートホーフ
原作:「ぼくは君たちを憎まないことにした」
2022年/ドイツ・フランス・ベルギー/フランス語/102分/シネスコ/5.1ch/原題: Vous n‘aurez pas ma haine/英題:YOU WILL NOT HAVE MY HATE /日本語字幕:横井和子/提供:ニューセレクト/配給:アルバトロス・フィルム/後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ
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