すこぶるスリリングな作品だ。物語中に描かれているのは1941年12月1日から7日にかけての“魔都”上海。これだけで「ワクワク感」が増す識者も多いことだろう。日米開戦(アメリカに耐えかねた日本側からの奇襲--ただしアメリカには既に筒抜けだったという)は日本目線では「12月8日早朝」なのだろうが、これは時差の関係でそうなっているだけで、世界的には「7日」のほうが、通りがいい。この「奇襲」に至るまでの日々の、上海における虚々実々が、実にスリリングに展開されてゆく。日本語・中国語・フランス語・中国語が飛び交い、モノクロによるスタイリッシュな画面、時おり登場する小編成バンドのジャズ演奏も効果をあげている。サックス演奏はジャン・クリストフ・ベネイ、打楽器はトーマス・ディアニ・アクル(南アフリカのベース奏者、ジョニー・ンビゾ・ディアニを養父にもつ)。

画像: 1941年12月上旬の魔都・上海。あの「奇襲」直後までのスリリングな1週間を描く『サタデー・フィクション』

 内容に関しては、すべてがネタバレにつながるような、伏線もたっぷりのものである、とだけは申し上げたい。私はホームページの「人物紹介」の相関図で予習し、いくつものファクターを頭の中で整理しながら、約120分を楽しんだ。コン・リーが演じる物語の主人公:ユー・ジンは、表の顔は人気女優、裏の顔はスパイという人物。実にキャッチーな設定であるが、「実は孤児だった頃にフランスの諜報部員からスパイの手ほどきを受けていた」という前歴があるなど、彼女に限らず「なるべくしてそうなった」ひとたちが集まり、頭脳戦を繰り広げてゆくのだから、ドキドキさせられること必至だ。

 海軍少佐にして暗号通信の専門家である古谷三郎(オダギリジョー)と、ユー・ジンの共演シーンも大きなクライマックスを描く。監督ロウ・イエ、第76回ベネチア国際映画祭コンペティション部門正式出品作品。

映画『サタデー・フィクション』

11月3日(金・祝)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、シネ・リーブル池袋、アップリンク吉祥寺ほかにて全国順次公開

監督:ロウ・イエ
出演:コン・リー、マーク・チャオ、パスカル・グレゴリー、トム・ヴラシア、ホァン・シャンリー、中島歩、ワン・チュアンジュン、チャン・ソンウェン/オダギリジョー
2019年/中国/中国語・英語・フランス語・日本語/127分/モノクロ/5.1ch/1:1.85/日本語字幕:樋口裕子
原題:蘭心大劇院/英題:SATURDAY FICTION/配給:アップリンク/宣伝:樂舎
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