「第二次世界大戦前後のウクライナ」と、「現代(この場合は1978年)のニューヨーク」が交差する一作。戦争や差別の残酷さ、悲惨さ、むなしさをしっかり描きながら、音楽の尊さ、信頼や友情の美しさをも重厚に表現している。

画像1: 信念は、歌は、決して軍靴に負けない。強靭な意志に彩られたファミリー・ストーリー。『キャロル・オブ・ザ・ベル 家族の絆を奏でる詩』公開へ

 1939年1月、ウクライナのイバノフランコフスク(当時はポーランド領スタニスワヴフ)に、とある大所帯があった。ウクライナ、ユダヤ、ポーランドの三家族が仲良く暮らしていたのだが、彼らの意思とは無関係なところで、それは引き裂かれ、軍靴が生命の尊厳を踏み潰す。残ったのは三家族の娘たち、そしてウクライナ人の母。ナチスに魂を売った、権力だけがよりどころの虚勢だらけの男たちが銃を持って家を訪ねてくる。「ユダヤ人狩り」だ。何がどうであろうと子供に罪はない。母はあくまでも毅然とふるまい、あらゆる考えを巡らせて、命がけで子供たちを救おうとする。男たちが去った後の安堵した母の表情、ユダヤ人の娘のおびえきった表情が、観終えた後もしばらく脳裏から離れなかった。

 私の場合、「1939年1月」と聞くと、反射的に“ブルーノート・レコードの設立第1回目の録音が行われた月だな”と思ってしまう。創立者のひとりであるフランシス・ウルフはドイツ出身のユダヤ人だが、高まるナチズムからどうにか逃げ出して1938年ごろニューヨークにやってきた。さらに物語の核となる「キャロル・オブ・ザ・ベル」、聴き覚えがあるなと思ったら、ジャズ界で最初にピュリッツァー賞に輝いたウィントン・マルサリスのアルバム『クリスマス・カード』1曲目のイントロに使われていた旋律ではないか。この曲がウクライナ民謡をもとに生まれたものであるとは、今回初めて知った。

画像2: 信念は、歌は、決して軍靴に負けない。強靭な意志に彩られたファミリー・ストーリー。『キャロル・オブ・ザ・ベル 家族の絆を奏でる詩』公開へ

 監督オレシア・モルグレッツ=イサイェンコ、出演ヤナ・コロリョーヴァ、アンドリー・モストレーンコ、ヨアンナ・オポズダ、ポリナ・グロモヴァ、フルィスティーナ・オレヒヴナ・ウシーツカほか。

映画『キャロル・オブ・ザ・ベル 家族の絆を奏でる詩(うた)』

7月7日(金) 新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座、アップリンク吉祥寺ほか全国公開

出演:ヤナ・コロリョーヴァ、アンドリー・モストレーンコ、ヨアンナ・オポズダ、ポリナ・グロモヴァ、フルィスティーナ・オレヒヴナ・ウシーツカ

監督:オレシア・モルグレッツ=イサイェンコ 脚本:クセニア・ザスタフスカ 撮影:エフゲニー・キレイ 音楽:ホセイン・ミルザゴリ プロデューサー:アーテム・コリウバイエフ、タラス・ボサック、マクシム・レスチャンカ 配給: 彩プロ 後援:ウクライナ大使館 映倫G 
2021/ウクライナ・ポーランド/ウクライナ語/シネマスコープ/122分/原題:Carol of the Bells
(C)MINISTRY OF CULTURE AND INFORMATION POLICY OF UKRAINE, 2020 - STEWOPOL SP.Z.O.O.,2020

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