来る6月1日(木)より、NHK技術研究所が日夜行なっている研究の成果を披露する毎年恒例の「技研公開2023」がスタートする。今年のテーマは「メディアを支え、未来を創る」。ここでは、全21ブースの中からB1Fで展開される(5)~(14)、(N1)~(N4)の中から注目の展示を紹介したい。
(6)コンテンツ制作用400Mbps級ミリ波無線伝送技術
広帯域を確保しやすいミリ波を使って、大容量の伝送が求められる360度コンテンツ制作に役立つ大容量の無線伝送技術の研究展示。デモでは、400Mbpsもの帯域が必要となる360度コンテンツを、破綻なく伝送できていた。昨年末の紅白では、展示技術の一部を使って4K映像の伝送(148Mbps)利用もされていたという。
(7)地上放送の高度化
ここは3つのテーマが一緒に展示されているので少し分かりにくいが、高度化という言葉を追うと、現状の地上デジタル放送で用いられている圧縮・伝送技術に対して、開発中の新たな(高度化)方式では、同じ伝送帯域の使用でも、約1.7倍多い伝送が可能になるという。現行では約18Mbpsだが、新方式ではそれが約30Mbpsまで増やせるということだ。この容量を用いると、1チャンネル分の伝送帯域で2番組を同時に送信できるようになったり、2K、4K、8Kの映像を同時に伝送(同時に圧縮。2Kをベースに4K、8Kはその差分データでまかなうため、4Kそのものを圧縮するよりも、伝送容量が少なくて済むという)可能となり、コンテンツ視聴の楽しみ方もより広がる、ことになる。
(8)多様なデバイスで動作するテレビ視聴ロボット
端的に言うと、テレビを見ている時に、内容に即位した会話をしてくれるロボットとなる。これまではリアルボディを持ったロボットを使っていたが、今回webアプリベースのロボットを開発した、ということだ。
(9)シーン適応型イメージング技術
一つのセンサーの中で、領域ごとに解像度やコマ数を変更することができる機能を持たせたイメージセンサー。360度映像のように、向きによって明るさや、被写体の動きがさまざまに変わるような映像を撮影する場合、これまでのカメラ(センサー)では映像が飛んだり、つぶれる、あるいはブレるなどの失敗も起きていたが、領域ごとの特性に合わせて設定を変更できれば、上記失敗は解消される、という算段だ。
(10)画像解析AIによる番組映像自動要約システム
文字通りの機能を実現する研究。これまでニュース番組では対応(実用化)していたが、それ以外、「ドキュメンタリー」、「ロケ番組」、「Nスぺ風(←?)」ジャンルのコンテンツを自動的に要約(ショートバージョンの制作)してくれるシステム。映像解析AIが画面内の重要なもの(人、ものなど)を判別して、抽出、短尺映像を生成してくれるという。視聴者により多くの番組を知ってもらうために行なうネット配信向けのショート映像、の制作支援が目的。
(13)イマーシブコンテンツ体験に向けたディスプレー技術
技研ではこれまでもさまざまなフレキシブルディスプレイを研究開発・展示をしてきたが、本稿もそれに倣ったもの。伸縮可能(ゴム素材)な素材の表面に格子状に発光素子(LED)を配置していて、ゴム素材だけに伸び縮みが可能なので、球状の物体の表面に貼り付けるなど、組み合わせる物体の形状に合わせた展開が可能になるものだ。
ブース13ではもう一つ、フレキシブルディスプレイと同時に、より純度を向上させた量子ドットを使用した試作=「量子ドットディスプレー」も展示していた。量子ドットはインクのように塗布することができるという性質を利用して、印刷方式で発光部分を制作、実際に映像を表示させていた。
(14)自然な3次元映像を再現するホログラフィックディスプレー
裸眼視で3D感を得られるホログラフィックは、従来の方式では、描かれた物体が立体に見える広さ=視域をあまり広く取ることができなかったが、ここで展示されたものは、磁気を使うことで画素を小さくすることができ、結果、視域を広く取ることができ(30度)るようになった。しかも書き換えが可能という特性も持つという。さらに高密度化すれば、視域のさらなる拡大も可能になるそうだ。
(N3)NHKの環境経営
このブースはいくつかの展示があったが、中でも興味をひいたのは、「透明有機太陽電池」。有機ELディスプレイに使う有機材料を透明な板に塗布して太陽にあてると、紫外線を吸収して発電するという。一般的な太陽光発電の機器・システムに比べ簡易に製造できるため、コストも下がるという。NHKでは、建物の窓や外壁に取り付けての発電も、視野に入っているそうだ。