近年、PC用としてはもちろん、スマートホンやタブレット端末から接続するだけで手軽に高音質再生を楽しめるアンプ内蔵のパワードスピーカーの注目度が上昇しています。
録音モニター用途も想定して優れた再生能力を持つ小型パワードスピーカーは、いまどのようなポテンシャルを持つのか。
4月26日発売の管球王国Vol.108の実験工房では「小型パワードスピーカー聴き比べ」と題して、ウーファーが12~18cm口径で、ペア価格30万円台までの国内外モデルを全20機種集めてその魅力を探ります。
そのなかから厳選したモデルを、管球王国でお馴染みの新忠篤氏、岡田章氏の試聴対談形式でご紹介します。
エアパルス
A100 HD MONITOR
オープン価格(市場実勢価格¥110,000前後、L/Rセット)
●型式:2ウェイ2スピーカー・バスレフ型
●使用ユニット:ウーファー・12.7cmコーン型、トゥイーター・リボン型
●内蔵パワーアンプ出力:40W(LF)、10W(HF)
●入力端子:RCAアンバランス2系統、USB(PCM〜192kHz)、角型光デジタル×1(PCM〜192kHz)
●調整機能:ボリュウム、BASS調整(±◯3dB)、TREBLE調整(±◯3dB)
●電源:AC100V
●寸法/重量:W160×H255×D283mm/5.5kg
●問合せ先:(株)ユキム TEL.03(5743)6202
著名なエンジニアであるフィル・ジョーンズ氏が牽引するAIRPULSEブランド。本機は、12.7cmアルミ合金コーンウーファーとホーンロード・リボン型トゥイーターを搭載し、Rch側に入力端子とコントロール回路、低域40W×2/高域10W×2のD級パワーアンプを備え、Lch側スピーカーと専用スピーカーケーブルで接続する方式。25mm厚フロントバッフルと18mm高強度MDFによるエンクロージュアはリアバスレフ方式を採用。(管球王国編集部)
新 Rch側に入力端子とパワーアンプをまとめたシステムで、入力はアンバランス2系統。リボン型トゥイーターによるものか、音楽がとてもゆったりと聴けます。スピーカーと音について熟知した設計者が練り上げた音として、オーディオ機器を意識せずに、音楽だけに集中して聴くことができます。
岡田 ひじょうにクリアーな再生で、どのような音楽にも対応できる音。全体にバランスがよく、音の質が高くなっています。弦の再生にもリボン型の良さがよく現れていて、システムとしての完成度がひじょうに高いと感じます。
新 「ドゥムキー」は、この曲のもつ抒情性が十分に現れていました。始まりのピアノの音からして、聴き手の心の中にスッと浸透してきます。それに続く弦の音も少しもきつくなることなく、胸を打つような音色で、よく整えられた演奏が聴けました。
岡田 この曲は聴くたびに受ける印象が異なります。音楽の流れと楽器の音、その両方がしっかりと描かれていないと、この音楽の芯となる部分が聴こえてきません。本機は、楽器の個々の音はもちろん、その芯となる情感や気持ち、心情のようなものが、よく伝わってくる素晴らしい再生でした。
新 「御諏訪太鼓」は、鳴り物の金属的なシャーンという音がキラキラと輝いて、太鼓の重みある音との対比が見事でした。金属と皮、人の声や笛など、それぞれが出す音がバランスよくまとまって描き出されていました。
岡田 小口径ウーファーですが、力感があるので、大型スピーカーを聴いているように感じるところがあります。デジタルアンプとスピーカー一体の設計がきわめてうまく成されているのでしょう。一般的に小口径スピーカーで低音を出そうとすると、コーン紙を重くする。すると声なども重い感じになってしまいます。本機には、それがまったく感じられず、張り上げる口上の声、合いの手のようにそれに応答する声などが、はっきりと存在感をもって聴こえてきました。
新 「美空ひばり」は心を打つ歌唱でした。思いを込めて歌うところが、よく伝わってきました。モニターユースだけでなく、音楽好きの要求にも十二分に応えられるシステムと言えます。
岡田 素晴らしい曲を、素晴らしい歌手が眼前で歌っている感覚がありました。クリアーな音で音楽を聴きたい、機器にはあまり手を煩わせたくないという人にも格好の製品です。
評論家プロフィール
新 忠篤 氏
大手レコード会社で制作・マーケティングを担当し、退任後専門誌に古典真空管のアンプ製作記事を数々発表。再生音の判断基準はマイクロフォンの前で鳴っている生の音との比較。レコード会社では静電型を含む様々なスピーカーと付き合い、自宅ではウェスタン・エレクトリック555を核とする励磁型システムを使用。DSD録音によるSPレコードや初期LPレコードのトランスファーに熱意を注ぐ。「新 忠篤オーディオ塾」の講師を務める。
岡田 章氏
大手電機メーカーで長く半導体関連の仕事を続け、ウェスタン・エレクトリックをはじめ古典真空管の歴史と、ヴィンテージ管から現行生産管まで真空管の内部構造や構成パーツの組成にも精通する真空管研究家。『管球王国』誌では詳細な真空管の解説を数多く執筆。自宅では蓄音機によるSPレコード再生に熱意を注ぎ、現代の音源の試聴ソースとしてCDも重視する。