フロントパネルの両サイドに金型成形によるディンプル・パターンをあしらったシンプルな意匠のCINEMA50。この美しい一体型AVセンターが「HiViグランプリ2022」で〔ブロンズ・アウォード〕を獲得するなど、近年マランツ製AVセンターが絶好調だ。そしてこの3月、同じ新マランツ・デザインをまとったセパレート型AVセンターAV10&AMP10が登場する。1月上旬、いち早く両モデルを組み合わせた音を川崎市の同社試聴室で聴くことができたので、そのファースト・インプレッションをお伝えしたい。

 AV10、AMP10ともにそれぞれ本体100万円。従来の国産AVセンターの常識を打ち破る値段が付けられた超弩級モデルだけに、どんな音を聴かせてくれるのか期待が高まる。まずは両モデルの概要について触れてみたい。

 

CONTROL AV CENTER
AV10
¥1,100,000(税込) 3月17日発売

画像1: 巨星、誕生!思わず息をのむ迫真のサラウンドに〈立体音響の新時代〉を実感した。AVセンター マランツ「AV10+ AMP10」<特集「音に拘る」>

●型式:15.4chプロセッシング対応コントロールAVセンター
●対応フォーマット:ドルビーアトモス、Auro-3D、DTS:X Pro、IMAX Enhancedほか
●接続端子:HDMI入力7系統(8K対応)、HDMI出力3系統(うち8K対応2系統)、アナログ音声入力8系統(RCA×6、XLR×1、フォノ[MM]×1)、デジタル音声入力4系統(同軸×2、光×2)、17.4chアナログプリ出力2系統(RCA×1、XLR×1)、ゾーンプリアウト2系統、LAN端子1系統、USB端子2系統(TypeA×1、TypeA給電専用×1)、ほか
●備考:Bluetooth5.0(送受信対応/SBC対応)、Wi-Fi(IEEE802.11 a/b/g/n/h/ac、2.4GHz/5GHz対応)、HEOS対応、AirPlay2対応、Amazon Alexa対応、ALLM/VRR/QFT対応
●寸法/質量:W442×H189×D503mm/16.8kg

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4系統のサブウーファー用プリ出力まで含めて、すべてXLRおよびRCA端子を搭載。端子間隔もしっかり確保されており、極太ケーブルの接続も大きな問題にはならないはずだ。フロントL/R、センター、サラウンドL/Rハイト4以外のプリ出力に「ASSIGNABLE」との印字があるのは、画面メニューから様々な使い方が可能であることを示している

 

16ch POWER AMPLIFIER
AMP10
¥1,100,000(税込) 3月17日発売

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●型式:16chパワーアンプ
●定格出力:200W(8Ω、1kHz.THD 0.05%、ノーマル接続/2ch駆動時)、400W(4Ω、1kHz.THD 0.7%、2ch駆動時)、400W(8Ω、1kHz.THD 0.05%、BTL接続/2ch駆動時)
●接続端子:16chアナログ入力2系統(RCA×1、XLR×1)、ほか
●寸法/質量:W442×H189×D488mm/19.8kg

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本機は2chごとに8組がブロックになって一体化した格好で16chアンプとして構成されている。各組でRCA/XLRの入力端子の切り替えのほか、ノーマル/バイアンプ/BTLの設定が可能だ。つまり8chから16chまで任意のチャンネル数での使用ができることになる。外部プリアンプとはトリガーなどの制御端子をつなぐことで電源連動が可能だが、AV10とはグランドラインの連携も含めて「アンプコントロール端子」の使用を推奨している

 

 

5年をかけて徹底的に開発されたこだわりのセパレートAVセンター

 マランツは国内メーカーの中でAVセンターのセパレート化にもっとも熱心なメーカーだ。HDオーディオ・サラウンド・フォーマットに初めて対応したAVプリのAV8003が登場したのが2008年。以来AV8801(2012年)、AV8802A(2015年)、AV8805A(2021年)と代を次いでAV10が5世代目となる。ちなみにAV10&AMP10の企画検討は2018年に始まっていたという。つまりこの両モデルは、5年の開発期間を経て完成に至ったことになる。

 では、AVセンターをセパレート化するメリットとはなんだろうか。まず、複雑な信号処理を行なうプリ部とスピーカーを駆動する電力をひねり出すパワー部を分けることで、様々な相互干渉から逃れられる、筐体内のスペースの制限が少なくなるので、電源部、構造、回路すべてを最適化しやすいというメリットが挙げられる。また、AV10にAMP10をどうしても組み合わせなければならないということはなく、使用するスピーカーに最適と思える自分の好きなパワーアンプをあてがうことができるのも、大きなユーザー・ベネフィットだろう。

 AV10はドルビーアトモス、DTS:X、Auro-3Dなどのイマーシブ・サラウンド・フォーマットにフル対応するほか、360 Reality Audio、IMAX Enhanced、独立4基サブウーファー設定が可能。もちろんデノン&マランツのネットワークオーディオ機能であるHEOSが採用され、ハイレゾ配信を行なっているサブスク「Amazon Music HD」の音楽ファイルを簡単に楽しむことができる。

 信号処理エンジンは、従来比1.25倍(1,600→2,000MIPS)の処理速度を有するアナログ・デバイセズ製SHARCの最新DSP(Griffin Lite XP)で、15.4ch(9.4.6/サブウーファーを4基用いてフロントワイドスピーカーとサラウンドバックスピーカーを使用する9.4chにオーバーヘッドスピーカーを最大6本)プロセッシングが可能となる。

 D/Aコンバーターには、音質検討の結果ESSテクノロジー社の電流出力型2chハイグレード・チップ(ES9018K2M)が10基20チャンネル分採用された。また、デジタル音声信号を司るマスタークロックには、CINEMAシリーズに採用されたそれに対して1000分の1のジッター精度を誇る高性能品が奢られている。これは同社最高級SACDプレーヤーSA-10で採用されたものと同等品だそうだ。

 また注目すべきは、プリ部にマランツ独自のディスクリート構成高速アンプモジュール「HDAM」の最新バージョンSA3が全チャンネルに搭載されたことだろう。結果、回路規模は2021年のAV8805Aの2倍になったという(1チャンネルあたりのトランジスターが20基から40基に)。また、コンストラクションにも慎重な検討が重ねられ、高S/Nを実現するためにグラウンドの最適化と電源部(アルミケースに収められたトロイダルトランスを用いたリニア回路)のレイアウトに工夫が施されている。

 加えてデジタル、D/A変換、電源回路とHDAMのアナログ、3つのセクションは分離され、相互回路によるノイズを極小化している。また、筐体の高剛性化にも意が払われ、3ピース構造のトップパネルを採用、サイドカバーには2.5mmのアルミ板が組み合わされた。

 背面を見ると、RCAアンバランスとXLRバランスの出力端子がズラリ。RCA端子にも金メッキされた高級パーツが奢られているのがわかる。見た目的にもう少し高さを抑えれば美しいプロポーションになるのに……と思ったが、これだけの入出力端子を用意しなければならないのなら高さ189mmは必然ということになろう。

AV10

画像5: 巨星、誕生!思わず息をのむ迫真のサラウンドに〈立体音響の新時代〉を実感した。AVセンター マランツ「AV10+ AMP10」<特集「音に拘る」>

▲AV10は、15.4ch、つまり9.4.6スピーカー構成の信号処理が可能なAVプリアンプであり、それぞれの信号処理を個別アンプ基板を用いて、同一グレードで行なっていることがポイントだ。本体内部中央付近に配置されている19枚の基板がその処理ボードだ。その前方に電源トランス、後方にデジタル処理基板(HDMIボード基板、DAC基板)が立体的に搭載されている

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▲HDAM(Hyper Dynamic Amplifier Module)SA3と名付けられたマランツ独自の電流増幅モジュール基板。(基板そのものは異なるが)マランツの最高峰プリメインアンプPM-10で使われているHDAMと同じ考え方で作られており、フラットな周波数特性とハイスルーレートを追求している。基板に実装されたトランジスターは丹念に選び抜かれたこだわりの音響用パーツで、チャンネルあたり40個も使われている。いわばAV10の高音質を実現するための心臓部だ

画像7: 巨星、誕生!思わず息をのむ迫真のサラウンドに〈立体音響の新時代〉を実感した。AVセンター マランツ「AV10+ AMP10」<特集「音に拘る」>

▲DAC基板のアップ。2chステレオDACを10個搭載し、15.4chのD/A変換を高い精度を行なうことを狙う。チップ周辺にはアクティブ式のI/V(電圧/電流)変換回路や超低ノイズ性をうたうディスクリート電源、ハイグレードコンデンサーで音質強化を目指す。(写真には写っていないが)クロックもハイグレード品が奢られている

 

 

AMP10は独自モジュールによる200W出力アンプを16ch内蔵

 ではAMP10について見ていこう。本機はチャンネルあたり200W(8Ω)出力の一体型16chパワーアンプ。BTL接続時にはリニアに400W(8Ω)出力となる。増幅方式はクラスDで、定評のあるICEpowerをベースに回路、デバイス、定数、接続法などをマランツ流儀でカスタマイズしたオリジナルモジュールが採用されている。また、クラスD増幅に最適なHDAM-SA2をバッファーとして配置、入力信号の低インピーダンス化やノイズ抑制に意を払ったという。

 AB級増幅の可能性も検討されたようだが、16ch分のハイパワーアンプをひとつの筐体に収め、安定して動作させるには無理があるという結論に至ったようだ。出力段用の電源回路は5チャンネル200W同時駆動を保証する高速スイッチング電源。音質検討を重ねて選定した高品位電解コンデンサーが採用されている。一方で、入力回路、HDAM、セレクター用など小信号用には大型トロイダルトランスを用いたアナログ・リニア電源回路が充てられている。

AMP10

画像8: 巨星、誕生!思わず息をのむ迫真のサラウンドに〈立体音響の新時代〉を実感した。AVセンター マランツ「AV10+ AMP10」<特集「音に拘る」>

▲筐体前方は電源を、中央から後方に2ch分のアンプ基板を縦方向に8組搭載している。基板自体が筐体全体の構造体として機能する巧みな設計が施されており、3層構造のメインシャーシと合わせて剛性感が高い。電源回路はハイブリッド仕様。具体的には、アンプ回路自体はクラスDのいわゆるデジタルアンプとなり、そこには高速性と効率に優れたスイッチングタイプを、小電力を扱う入力段にはアナログリニアタイプを用いている

画像9: 巨星、誕生!思わず息をのむ迫真のサラウンドに〈立体音響の新時代〉を実感した。AVセンター マランツ「AV10+ AMP10」<特集「音に拘る」>

▲パワーアンプ回路。左側がクラスD増幅サーキットとなる。様々なオーディオ製品で使われているICEpower社の回路を基本にはしているが、マランツで徹底的にカスタマイズしており、製造組み立ても自社白河工場で行なうなど、事実上オリジナルのアンプ回路といえるだろう。右側は入力端子側になるが、そこにはHDAM SA2を採用した入力基板がRCA、XLRごとに独立して搭載されている

画像10: 巨星、誕生!思わず息をのむ迫真のサラウンドに〈立体音響の新時代〉を実感した。AVセンター マランツ「AV10+ AMP10」<特集「音に拘る」>

▲スピーカー端子はMODEL 40nにも使われているオリジナルの「SPKT-1+」というパーツが使われ、直径4.5mmまでのケーブル接続に対応している。端子の表面処理の選定もリスニングテストで行なわている念の入れようだ。テストの結果、分厚いニッケルメッキの一層タイプが選ばれている。写真の黒いパーツは付属の専用レンチ

 

 

驚くべき微小信号の再現性切れ味の良さにも仰天した

 テストは先述の通り、川崎市のマランツ試聴室で行なった(試聴システムは別表参照)。Bowers & Wilkinsの最新800D4シリーズ/700S2シリーズで構成されたスピーカー群をAV10&AMP10がいかに鳴らすか、興味は尽きない。フロントL/R 用の801D4はアンプを2基ずつ用いたバイアンプ駆動、センター用のHTM81D4はアンプ2回路分で鳴らすBTL接続とした。再生プレーヤーはパナソニックDMR-ZR1だ(AV10とHDMI接続)。

 この試聴室は40帖はあろうかと思える広い空間で、開発設計担当者が行なったセッティングに従った。リスニングポイントからL/Rスピーカーとセンタースピーカーまでの距離を計測すると、センタースピーカーのほうが1m弱遠い。担当者に尋ねると、距離をかせぐことでセリフが下から聞こえる違和感を少なくするためとステレオ再生時にセンタースピーカーが再生音に与える影響を少なくするため、とのことだった(内蔵された自動音場補正機能『Audyssey MultiEQ XT32』を用いてレベル補正を行なっている)。

 まずフロントLスピーカー近傍に配置したサブウーファーDB1を1基鳴らす5.1.4構成でこのペアの音を聴いてみた。オーバーヘッドスピーカーは天井配置ではなく、フロントL/Rスピーカー、サラウンドL/Rスピーカー後ろの上方にセットしハイトスピーカーとして設定している。

 ドルビーアトモス収録の2021年スピルバーグ版『ウエスト・サイド・ストーリー』のUHDブルーレイを再生する。オープニング・シークエンスのただならぬ静けさにまず心をつかまれる。そして、サラウンドLからサラウンドR、フロントトップR、フロントトップLと縦横無尽に移動する口笛が、手でつかめるかのような明快な音像で提示され、思わず息をのむ。砂がこぼれる音などもこれまで体験したことのない音数の多さ。驚くべき微小信号の再現性だ。ハンドクラップやオーケストラ・サウンドの切れ味の良さにも仰天させられた。このトランジェント感こそAV10&AMP10の真骨頂だろう。

 次にサブウーファーを2基加えた5.3.4構成で『ウエスト・サイド・ストーリー』を再生してみた。ここでは各チャンネルのベースマネージメントは行なわず、LFE(Low Frequency Effect)のみを3基のサブウーファーにパラって出力した(トータルのLFEレベルは1基使用時と同じ)。スケール感がわずかに向上した印象はあるが、効果は限定的。今季のデノン&マランツのサブウーファー最大4基使用機能は、各チャンネルを「スモール」設定にするか、サブウーファーの設定を「LFE+メイン」にし、「指向性」モードで使ったときこそ意味があるのではないかと思う。

 いずれにしてもドルビーアトモスの基本スピーカー構成である5.1.4構成で、国産一体型AVセンターでは太刀打ちできない音が実現されていることがよくわかった。何よりS/Nの高さに裏打ちされた情報量の多さ、ダイナミックな表現力は、サラウンド再生の新時代を実感させる魅力に満ち溢れている。

画像11: 巨星、誕生!思わず息をのむ迫真のサラウンドに〈立体音響の新時代〉を実感した。AVセンター マランツ「AV10+ AMP10」<特集「音に拘る」>

取材はマランツの試聴室で行なっている。スピーカーシステムはBowers & Wilkins 800D4および700S2シリーズの混成組合せだ

画像12: 巨星、誕生!思わず息をのむ迫真のサラウンドに〈立体音響の新時代〉を実感した。AVセンター マランツ「AV10+ AMP10」<特集「音に拘る」>

5.3.4構成時は、フロントL/Rをバイアンプ駆動で、センターをBTL駆動としてAMP10の16chアンプのうち12ch分のアンプ回路を用いている

 

画像13: 巨星、誕生!思わず息をのむ迫真のサラウンドに〈立体音響の新時代〉を実感した。AVセンター マランツ「AV10+ AMP10」<特集「音に拘る」>

5.3.4構成からフロントワイドスピーカーならびにサラウンドバックスピーカーを追加した9.3.4構成での視聴も行なっている。この場合はAMP10の内蔵16chアンプをフルに使うことになる

 

 

音場の密度感と臨場感が圧倒的に向上した9.3.4再生

 サラウンドバックL/R、フロントワイドL/Rを加えたフロア9.3chに、オーバーヘッド4本を加えた9.3.4構成のパフォーマンスを試してみることにした。この場合、AMP10の16チャンネルアンプすべてを利用する再生法となる。

 『ウエスト・サイド・ストーリー』の冒頭を再生してみたが、5.1.4、5.3.4構成に比べて圧倒的に向上したのは、音場の密度感だった。フロントワイドスピーカーとサラウンドバックスピーカーを加えた効能なのだろう、オーケストラ・サウンドが扇状に立体感を伴なって迫ってくるし、様々な効果音も音の厚みを感じさせながらより立体的に再現される印象だ。

 同じくドルビーアトモス収録のUHDブルーレイ『エルヴィス』を。少年エルヴィスがいかがわしいブルーズ酒場とテント仕立てのゴスペル教会にもぐり込む場面を観たが、その臨場感の豊かさにドギモを抜かれた。教会でその音楽の素晴らしさに恍惚となる少年エルヴィスを描写するシーンで、ブルーズ・シンガーが歌う「That's all right, mama」が明瞭に天井からが降り注いでくるのを実感し、ここまでの音像の垂直対比はわが家のシステムでは実現できていないナとがっくりとうなだれてしまったのだった。

 現代映画音響の見事なショーケースである『NOPE/ノープ』も観てみたが、やはりここでもリアルに実感させられたのが、効果音のトランジェントの良さ。物がぶつかる音や吹きすさぶ風の音、謎の物体が恐ろしいスピードで移動する音などが極めて明瞭に描写され、AV10&AMP10の底知れぬ実力の高さを実感させられたのだった。

画像: 音場の密度感と臨場感が圧倒的に向上した9.3.4再生

 

22.2ch/アトモス変換再生も凄い。ステレオ再生も専用機と比肩する

 さて、本機に採用された自動音場補正機能「Audyssey MultEQ XT32」には、部屋の音響特性込みでスピーカーから放射される音の周波数特性を較正するイコライザー機能がある。ターゲット・カーヴは「リファレンス」と「フラット」。前者は高域をゆるやかにロールオフさせて聴きやすい音に仕上げたモードで、後者は全チャンネルの音を文字通りフラットに補正するモードだ。

 実際に「リファレンス」と「フラット」の効果を『エルヴィス』で試してみた。前者は声(とくにささやき声)の明瞭度が上がる効能が得られたが、音がやや鈍る印象で音場の高さが出にくくなる。後者は音場再現に不足はないが、全体にハイ上がりとなる。マランツ試聴室で再生する『エルヴィス』は「ピュアダイレクト」設定がいちばん好ましいという結果になったが、「リファレンス」モードが実にうまく機能したのが、ブルーレイで観た1995年作の『セブン』だった。

 このブルーレイはDTS-HDMA7.1chが収録されている。この音声をドルビーサラウンドモードでアップミックスして再生してみたのだが、「ピュアダイレクト」設定ではセリフや音楽が時代を感じさせるハイバランスの音でやや聴きづらい。それが「リファレンス」モードにすると、すっと落ち着いて違和感が少なくなるという効果が得られたのだ。クセの少ない響きのよい部屋でも、作品に応じてイコライザー機能を活用したほうがよいケースもあると実感させられた次第。

 再生プレーヤーにDMR-ZR1を使っているので、本機の22.2ch→ドルビーアトモス変換機能を利用して同音声収録の4K放送をエアチェックしたBD-R『浮世の画家』の冒頭を観てみたが、このパフォーマンスも素晴らしかった。鳥のさえずりや虫の音などが上方空間をみっちりと埋めつくし、その立体音響効果にアゼンとさせられたのである。この情報量の多さはこれまで体験してきたAVセンターの比ではないと確信させられた。

 最後に試聴室にあったマランツの高級プリメインアンプPM-10とAV10&AMP10のCD再生時の音質をガチで比較してみた(プレーヤーはSA-10。PM-10、AV10とはXLRバランス接続)。愛聴CDを何枚か聴いてみたが、音の静けさ、ダイナミズムの表現、トランジェント感はほぼ互角という印象。もっともSA-10とPM-10はセットで音質検討されたと思える相性の良さはあって、ベートーヴェンのピアノ・コンチェルト『皇帝』第2楽章のしみじみとした哀感などはPM-10のほうがより上手く表現されているとの感触を得たのもまた事実だ。

 いずれにしてもAV10&AMP10がこれまでの同社製AVセンターをはるかに凌ぐ高音質で仕上げられているのは間違いなく、ホームシアターの究極の高みを目指す方にとって、これほど気になる国産ペアは他にないと断言しておきたい。

 

視聴したシステム
●プロジェクター:ビクターDLA-V5
●スクリーン:スチュワート グレイホーク(135インチ/16:9)
●4Kレコーダー:パナソニックDMR-ZR1
●スピーカーシステム:Bowers & Wilkins 801D4(L/R)、HTM81D4(C)、804D4(LS/RS)、702Signature(Front Wide L/R)、704S2(LSB/RSB)、705S2(オーバーヘッド×4)、DB1(LFE1/2)、DB3(LFE3)
●SACD/CDプレーヤー:マランツSA-10
●プリメインアンプ:マランツPM-10

視聴した主なソフト
●CD『トリビュート・トゥ・ジョニ・ミッチェル』
『ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番〈皇帝〉/ポール・ルイス(pf)、ビエロフラーヴェク指揮BBC交響楽団』
●BD『セブン』(DTS-HDMA7.1ch)
●UHDブルーレイ『ウエスト・サイド・ストーリー』
『エルヴィス』
『NOPE/ノープ』(ドルビーアトモス)
●BSエアチェック『浮世の画家』
(MPEG-4 AAC 22.2ch/再生時はドルビーアトモス変換出力)

 

●問合せ先:
デノン・マランツ・D&Mインポートオーディオお客様相談センターTEL.0570(666)112

 

もうライバルはいない! 約5年の開発期間を経て誕生した驚愕のAVアンプ。
マランツ AV10 & AMP10開発エンジニアインタビュー
聞き手:オーディオビジュアル評論家 山本浩司

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本記事の掲載は『HiVi 2023年春号』

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