主人公の老人、オットーはとにかく頑固で堅物。眉間にシワを寄せてムスっとしていて、誰かと接せざるを得ないときは、その人物が去ると“idiot”(この愚か者め、というような意味だろうか)と言い放つ。妻に先立たれてから厭世観が増し、いついかにして死のうかと考えている。

 この老人を演じるのは、名優トム・ハンクス。いっぽう、息子のトルーマン・ハンクスが演じる若き日のオットーは、ほがらかで、シャイで、頭脳明晰な好青年だ。なにが彼をこんなふうにしたのか? 年老いたオットーの心からは“かつてのオープン・マインドな姿”は完全に消え去ってしまったのか? 原作は、スウェーデンの作家フレドリック・バックマンの小説『幸せなひとりぼっち』。しかし映画では、舞台がアメリカに移されている。

画像: ひとりの頑固老人を通じて、戦後アメリカの姿が見えてくる。名優トム・ハンクスがベストセラーの映画化に臨む『オットーという男』

 すべてのシーンがクライマックスに濃厚に関連しているのではないかと思えるほど、細かに作り込まれた作品なので詳述は避けるが、「猫」「モダン・ジャズ」「プロレス(ルチャ・リブレ)」のすべてが登場する映画を私は初めて見た。年老いた黒人夫婦(夫とオットーはかつて親友であったが、年老いてから病気のため車いす生活を続けており、しゃべることもできない)の家を訪れたら部屋の中でケニー・ドーハムの「オールド・フォークス」(この曲が入ったアルバム『クワイエット・ケニー』が発売されたのは1960年)がかかっていたり、越してきたメキシコ人とアメリカ人夫婦の一家がプロレスごっこに熱中するシーンなど、わかりやすすぎるほどの描き方であるようにも感じられたものの、そのあたりも含めて、「とことんアメリカ的ヴァージョンを作りたいと思った」というマーク・フォースター監督の意思の反映であるのだろう。

 トム・ハンクスの妻でシンガーソングライター/プロデューサーのリタ・ウィルソンによる主題歌も聴きものだ。

映画『オットーという男』

3月10日(金)より全国の映画館で公開!

出演:トム・ハンクス/マリアナ・トレビーニョ/マヌエル・ガルシア=ルルフォ/レイチェル・ケラー
監督:マーク・フォースター
脚本:デヴィッド・マギー
製作:リタ・ウィルソン/トム・ハンクス
原作:フレドリック・バックマン「幸せなひとりぼっち」(ハヤカワ文庫)
原題:A Man Called Otto [US公開日]2022年12月30日NY/LA限定公開、2023年1月13日全米公開
配給・宣伝:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント 映画マーケティング部

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