ある日突然、“白血病”と診断されてしまったら! 本作のプロデューサーを務める堀ともこが母親側・ドナー側両方の経験した実話をベースに、白血病患者を救う大きな手立てとなる“骨髄移植”の理解を広めるべく製作されたのが、この『いちばん逢いたいひと』だ。主演にはAKB48 チーム4のキャプテンを務める倉野尾成美を迎え、時にコメディ要素も盛り込みつつ、堀が伝えたいメッセージを色濃く描いた感動の1作。ここでは、その倉野尾にインタビューを実施。映画初主演の感想から、演じた笹川楓の役作りの苦労、撮影を通して堀から受けとったメッセージなどなど、話を聞いた。
――よろしくお願いします。まずは、公開を迎える今の心境をお聞かせください。
いよいよ映画館で観られる日が来るんだ! っていう嬉しさでいっぱいです。
――ようやく観てもらえますね。
はい! 観ていただくお客さんの反応がすごく気になるので、どういう感想を持っていただけるのか、早く聞きたいです。(感想を聞くのが)すごく楽しみです
――ご自身で観た感想は?
お芝居に限らず、テレビも含めてなんですけど、恥ずかしいので、自分の出た作品はあまり見ないんです。でも、この作品はきちんと向き合って観ました。感想としては、当たり前ですけど、場面がきちんと繋がって作品になっているなと感じて、安心できました。撮影は、シーンをバラバラに撮ることもあって、現場では繋がるのかなという心配もありましたけど、まずは一安心です。けど、もっとこうした方が良かったかな、こうしておけばよかったかも、という気持ちは湧いてきますね。
――具体的には?
初主演ということで、やはり緊張もあったので、映像を見ると、動きや表情が硬いところが分かってしまって……。ただ、ラスト近くの、山場となる山頂のクライマックスシーンは、思いっきりできました。
――そのシーンはとても印象に残りました。それまでの流れ(物語)があっての場面なんだと感じました。
子供の頃の苦労があっての今の楓ですから、ちょっとおいしいところをもらってしまったという感覚もありますけど(笑)、(楓役の田中千空と与志役の海津陽の)子役の二人が頑張ってくれたからこそ、今の楓が浮き立ってくるんだと思います。
――子供時代のシーンの撮影はご覧になったのでしょうか?
残念ながら、まったく見られなかったんです。スケジュール的に、撮影前の本読みの時にしか会えないのが分かっていたので、とにかく本読みの時に二人の芝居を吸収しようという気持ちで臨みました。
事前に台本は読んでいましたけど、実際に本読みの現場でお会いすると、お二人ともしっかりと演技をされていて、感情が入っていたので、それを見ることができたお陰で、山頂でのお芝居に繋げられたのかなって思います。
――大人になった楓は、元気ハツラツで夢に向かって邁進している女の子でしたけど、子供時代の苦労を経ての今があるわけです。役作りで意識したところがあればお願いします。
元気な楓というのは、もともと子供の頃からの性格だと思うので、元気なシーンを元気にやったという印象ですね。でも、一人旅をするぐらいですから、やはり、何事に対しても突き進んで行くタイプではないのかなと思います。加えて、好奇心も旺盛なんだろうなと。そういう風に感じていたので、とにかく元気な雰囲気を出すようにしました。そして、子供の頃の経験を活かして、今を全力で生きている。そういう表現を心がけました。
――それはご自身に近い、遠いで言うと?
私も一人旅をしたいと思うことはあるので、近いものはあるのかなって感じます。そういう意味では、演じなくてはというよりかは、自分も楽しんでいるような気持ちで、自然体のままというか、素の自分を出しながらお芝居ができたように思います。
――やはり自分に近い方がやりやすいものですか。
そうですね。共感しやすかったですし、楓は結構、愛されるキャラクターで、嫌な子ではなかった分、やりやすかったです。
――普段、役作りはどのように積み上げてくのですか。
映画に出演するのも、主演を務めるのも初めてだったので、役作りはたいへんというか、かなり難しかったです。舞台の経験はありましたけど、上演までの稽古時間はかなり取れますし、本番も、最初から最後まで芝居(物語)が続いているので、感情の起伏は作りやすいんです。だけど、映画の撮影では、シーンの撮影順もバラバラですし、さっきまで普通にしていたのに、よーいスタートで急に感情を高ぶらせなくてはいけない。そういう感情の起伏の出し方が難しいと感じたので、とにかく、まずはセリフをしっかり覚えて、それからそのシーンの情景を思い浮かべながら感情を作って(考えて)いくという風にして、事前に役を作り込んでから現場に臨みました。あとは監督とお話して、芝居や表現を詰めていく、ということもありました。
――感情の切り替えはすぐできましたか?
難しかったですね。もっと上手くできるようになりたいって、本当に思いました。特に、クライマックスのシーンは、とにかくセリフが長かったので、まずはセリフをしっかりと覚えてから、シーンの感情を想像していきましたけど、なかなか練習もできなかったので、本番直前まで悩んでいたんです。でも、そのシーンは最初から最後まで長回しでの撮影だったこともあって、結果として感情は高めやすかったです。
――ノーカットなんですか。
そうなんです。(編集で繋げられるように2ショット、倉野尾向け、崔哲浩向けと)3回撮影はしていますけど、お芝居が続いていたこともあって、そのお陰で、自分でもよくできたと思います。楓は、子供の時に支えてもらって救われているから、今度は自分が救いたい。そういう前向きな子でいてほしいという自分の願望も添えて演じました。
――そのシーンを観ると、子供時代の病院の屋上でのやりとりを思い出しました。
当時は、与志君(海津陽)が傍にいてくれた。今は、楓が与志君と同じ行動をする。彼女の成長を感じるシーンになったと思います。救い、救われて、どんどん繋がっていくんだろうと思います。
――話は飛びますが、倉野尾さんは、よく通るいい声をされていますね。
本当ですか! 嬉しいです。初めて褒められました(笑)。舞台の経験が活きているのかもしれませんね。初めて舞台に立った時は、何でこんなに大きな声を出すんだろうって思ったし、たくさん怒られた思い出しかないんですけど、その経験が今に繋がっていると感じます。ただ、映画は逆に出しすぎてはいけないし、声の出し方や表現をいろいろと使い分けないといけないので、勉強になります。
――脱線ついでに一つ質問します。広島に行って、とある人を“探し人です”と紹介された際の返しは、印象に残りました。
そこは、面白いシーンですよね。あれは多分、楓の素――まあ私の素でもあるんですけど――が出たシーンですね。確信というよりかは、勘です。監督には、“素でやってほしい”と言われたのですが、当初はどういう芝居をしたらいいのかが分からなくて……。
メッセージ性のある作品ですから、さきほど話に出たクライマックスのシーンであれば、こういう感情を強く出せばいいっていう想像はつくんですけど、ここは想像ができなくて。最初は真面目にやっていたんですけど、“きっぱり言って”とか“もっとコメディ要素を入れていいから”と監督に言われて、あっここはコメディチックにやればいいのかと思って、ああいうお芝居になりました(笑)。
――倉野尾さんの中で、お芝居はどのように捉えていますか?
私の中では、AKB48の活動とはまったく別物だと思っていて、たまに通ずるものがあるなという感じです。これまでのアイドル活動を通して、歌と踊りはある程度はできるようになりましたけど、お芝居はまだまだ難しいですね。
ただ、劇場公演では、一公演の中にいろいろな曲があって、歌詞の雰囲気も曲ごとに違いますし、歌い方や踊り、表情なんかもそれに合わせて変わるので、その意味では、お芝居に通ずるところがあるのかなと思います。本作では、いろいろな感情=喜怒哀楽を出したので、すごく勉強させてもらいました。
――両方を突き詰めていきたい?
そうですね、どちらも好きですし、興味があるので、これからも両方やっていきたいと思います。ただ、お芝居の方は、まだ楽しいとか、楽しめるという域に達していないので、もっともっと経験を積んでいきたいです。
――“楽しい”の前に“苦しい”が来るかもしれません。
これまでのAKB48の活動においても、歌とダンスが未経験で入ったこともあって、いろいろな苦労をしてきましたけど、今もこうして続けられているので、お芝居でもきっと同じことがあるんじゃないかなって思っています。悩むこともあれば、楽しいこともある。そうして成長していけるはずなので、どんどん経験していきたいです。
――ところで、丈監督は役者としても出演されています。現場で印象に残った出来事などはありますか。
丈監督は、ご自身でもお芝居をされていることもあって、私の気持ちもよく分かってくださいました。例えば、私が悩んでいる時などには、聞きに行く前に先に話を聞いてくださったり、こういう感じでやったらいいと思うよとアドバイスをくださったりしました。さらには、カットがかった後にも、“良かったよ”と声がけをしてくれたので、とても安心できましたし、その言葉に救われていました。
――話は変わりまして、本作はプロデューサーを務められた堀ともこさんの実体験が基になっているそうですね。
堀さんご自身、お嬢さんが白血病になりドナーに助けられ、一方、ご自身はドナーとして人を助けてと、どちらも経験されている方なんです。その時のお話――自分が救われたから、自分も誰かを救いたい。そして映画を通して、ドナーという仕組みがあることをたくさんの人に知ってもらいたい――を、最初の顔合わせの時に、たくさん説明してくださいました。本当に素敵な思いがたくさん詰まった方なんだなって感じました。
それから、堀さんがドナーとして骨髄を提供した方と、そのご家族からいただいた本物の手紙も、実際に見せていただきました。ずっと肌身離さず持ち歩いていらっしゃるそうです。本当に大切にされているものを拝見して、私も、映画を通して、堀さんの想いを伝えられたらなって強く思いました。
――ご自身の中での気づきや変化はありましたか?
それこそ、骨髄バンクに登録したいなと思って、いろいろと調べるようになりました。どうしたらドナーになれるのかなとか、自分が対象なのかとか。そういうことを知ろうと思うこと自体が、最初の一歩だと、自分の中では思っています。
そして、本作が骨髄バンクについて調べてみよう、登録してみようと思っていただける機会になればいいなと思います。もしかしたら、映画を観て、ドナー登録をして、実際にドナーになる人が生まれるかもしれない。そう思うと、この作品に参加できて、本当によかったと思います。
――では定番の質問になりますが、読者へ向けてメッセージをお願いします。
この映画を通して、人は、支えて、支えられて生きているんだなって、改めてつながりの大切さに気付けた気がします。身近な人こそ、実はいっぱい支えてくれている。普段は、当たり前と捉えてしまってなかなか気づけない。けど、本作を観て、あっそうだ、一番身近にいる人が、やっぱり一番支えてくれているんだと、改めて気づくことができると思います。自分は誰かのお陰で生きているんだという、命の大切さについても知れるんじゃないでしょうか。そこが見どころです!
あとは、広島の景色、本当に素敵な景色ばかりなので、実際に広島を訪れて、現地の風景を、食を楽しんで欲しいです。
――最後に、これからの抱負をお願いします。
はい。4月には、私が加入しているチームの一つのチーム8が活動休止になり、大切なコンサートが控えています。まずは、そこで悔いなく、やりきりたいです。そして、以後はAKB48として、グループ活動も頑張りたいですし、個人としても、もっとたくさんの映画に出演できるように、臆さず挑戦していきたいです。
映画『いちばん逢いたいひと』
2月17日(金)より福山駅前シネマモードにて先行公開
2月24日(金)よりシネ・リーブル池袋ほか全国順次公開
<あらすじ>
11歳の女の子・楓(田中千空)は、ある日突然授業中に倒れてしまい、「急性骨髄性白血病」と診断される。幼い楓にとって、抗がん剤治療や放射線治療は過酷でしかなかったが、隣のベッドで同じ病気と闘っている与志(海津陽)だけが唯一の心の支えだった。
同じ頃、IT企業を経営する柳井健吾(崔哲浩)は最愛の娘を白血病で亡くしてしまう。経営者の健吾は仕事を優先せざるを得なかったが、娘を失ったことで、幸せだと思っていた家庭は崩壊へと向かってしまう。全てを失ってしまった健吾にとって、今や一通の手紙でのみ交流があった、見知らぬ女の子の骨髄ドナーになれたことだけが人生で唯一の誇れることだった。
かけがえのない人を失いながら、それでも懸命に生きていこうとする一人の男と、大人になった一人の少女(倉野尾成美)。異なる人生を歩みながら探し求めた、それぞれの「いちばん逢いたいひと」とは……。
<キャスト>
倉野尾成美(AKB48)
三浦浩一 不破万作 田中真弓 大森ヒロシ 丈 崔哲浩 中村玉緒(特別出演) 高島礼子
<スタッフ>
監督・脚本:丈
配給:渋谷プロダクション
2022/ビスタ/5.1ch/DCP/106min
(C)TT Global
ヘアメイク:神宮 好(オサレカンパニー)
スタイリスト:松本沙也加(オサレカンパニー)