東京・目黒にある老舗オーディオショップのホーム商会で、ドイツのスピーカーブランド「GAUDER AKUSTIK」(ガウダー・アコースティック)の製品お披露目会が開催された。

 ガウダーは1996年にドイツのシュツットガルドで創業したスピーカーブランドで、現在は4つのシリーズ、合計22モデルのスピーカーをラインナップしている。それらは欧州での評価も高く、現地のオーディオ雑誌のアウォードでは常に上位にランキングされているほどの人気だそうだ。

画像: 創業者のRoland Gauderさん

創業者のRoland Gauderさん

 しかし日本では現在輸入代理店がなく、もちろん販売もされていない。そこで今回、日本の輸入代理店やオーディオビジュアル関係の専門媒体に向けて、同ブランドの製品について知ってもらおうという狙いでお披露目会が開催されたわけだ。

今回は創業者のローランド・ガウダーさんやセールス・マネージャーのボルカー・スペシュットさんもドイツから来日しており、スピーカーの紹介やデモにじっくり時間を割いてくれた。

 ガウダーさんによると「日本人は音楽が好きな人々です。この点はとても大切で、だからこそオーディオ機器の市場としても、アメリカやイギリス以上に重要だと思っています。弊社では以前から日本でのパートナーを探していましたが、コロナ禍の関係もあってなかなか思うように動きが取れなかったのです。今回やっと来日することができて、とても嬉しく思っています」とのことで、日本のオーディオファンに自分の製品を知ってもらいたいと強く思っていることがうかがえた。

画像: フラッグシップのダークシリーズから「Darc200」

フラッグシップのダークシリーズから「Darc200」

 ちなみに今回ホーム商会で試聴会が行われたいきさつは、同店の常連でもあるカート・K・ハインツさんとノイマン・ディルクさん(ふたりとも日本在住のドイツ人)がガウダーさんの友達で、日本でのプロモーションについて相談を受けたのがきっかけだったそうだ。

 なおガウダーさんはもともと音楽一家で、お父さんはプロのピアニストだったという。しかし本人は楽器演奏よりも録音機器に興味があり、子供の頃から家族の演奏を録音して楽しんでいたそうだ。そこからオーディオに興味を持ったが、理想とするスピーカーに出会うことが出来ず、自分でスピーカーブランドを立ち上げたという。

 「私は物理学者・数学者でもあるので、スピーカーは音楽を再生する “マシン” だと考えています。そのためにエンクロージャーとクロスオーバーネットワークが重要で、設計・開発時にはその点についてコンピューター解析、シミュレーションを徹底して行っています」という言葉通り、ガウダーのスピーカーは彼の理想とする物づくりが徹底されている。

画像: ベルリーナシリーズの「RC7」

ベルリーナシリーズの「RC7」

 まず、上位モデルの「ダーク」「ベルリーナ」シリーズのエンクロージャーは、厚さ5cmほどの馬蹄形のパーツ(リブ)を、間に樹脂を挟みながら積み重ねて作られている。リブはダークがアルミ製、ベルリーナが木材(MDF)という違いはあるが、いずれもドイツの自社工場で削り出して作られている。

 なお、アルミのパーツの積層では本体が共鳴するのではないかと考える方もいるだろうが、ガウダーでは間に特殊な樹脂を充填することで余分な箱鳴きは発生しないよう仕上げている。こうすることで、ユニットが奏でる音だけを楽しめるようになるとガウダーさんは考えているようだ。

 今回のデモ用に準備されたのは、ダークシリーズから「Darc 200」(日本での想定価格は¥13,300,000、ペア)、ベルリーナシリーズの「RC7」(同¥8,400,000、ペア)、カペラシリーズの「Capello 100」(同¥4,000,000、ペア)の3モデル。

画像: カペラシリーズの「Capello 100」

カペラシリーズの「Capello 100」

 それぞれに搭載されるユニットは、すべてガウダーから提示したスペックに応じてドイツ国内の提携工場で製造されたカスタム品となる。なおガウダーのスピーカーはすべて受注生産品で、注文時にトゥイーターの振動板素材を指定できるそうだ。ダークとベルリーナではセラミック/ダイヤモンド、カペロではアルミ/ベリリウムが準備されている。

 その他の特徴としては、クロスオーバーネットワークが60dB/oct.というスロープ特性を備えている。ガウダーさんはマルチウェイスピーカーで各ユニットの音がクロスするのはよくないという考えの下、可能な限り急峻なクロスオーバーを設計したそうだ。

 また音楽再生時には周波数帯域よりもインパルス応答を重視しており、高域から低域まで音に遅れがないことが大切だという。そのために音の到達速度が速い高域ユニットのネットワークにはディレイサーキットを加えている。これにより試聴位置で聴いた時にすべての帯域で時間軸の揃った音が楽しめるわけだ。

画像: ダーク、ベルリーナシリーズのエンクロージャーは、馬蹄形のリブを積み重ねて製造されている。写真はアルミ削り出しのパーツ

ダーク、ベルリーナシリーズのエンクロージャーは、馬蹄形のリブを積み重ねて製造されている。写真はアルミ削り出しのパーツ

 この他にスピーカー端子部に設けられたジャンパーピンを差し替えることで、高域のレベルやベースエクステンション機能の微調整も可能。ガウダーさんによると、オーディオルームの特性はすべて異なっているので、この機能を使って最適な高域や低域のレベルを追い込んで欲しいとのことだった。

 さて今回のお披露目会には、潮晴男さんも参加しており、上記3モデルの音をじっくりチェックしていた。CDプレーヤーはアキュフェーズ「DP-750」で、プリアンプはオクターブ「HP300SE」、パワーアンプは同「RE320」という構成だ。そのインプレッションは別途コラムで紹介しているので、ガウダースピーカーがどんなサウンドを聴かせてくれたのか、イメージを膨らませていただきたい。(取材・文:泉 哲也)

ドイツの新しい音を運ぶガウダー・アコースティック見参 …… 潮晴男

 英国を始め欧州では数多くのスピーカー・メーカーが鎬を削っている。ここで紹介するガウダー・アコースティックは、ドイツのシュットットガルト近郊のレーニンゲンで設立されたスピーカー・メーカーだが、競合ひしめく中で健闘するハイエンドの注目株だ。1996年にスタートしたということだから、充分なキャリアを持つ集団だけにドイツにもまだこんなこだわりを持った企業が残っていたのかと驚かされた。

 主宰者のローランド・ガウダーさんに話を聞くと、彼はドイツのスピーカーの老舗、イソフォンに在籍していたということだから、自分の会社を興す前からスピーカーの世界に精通していたことが分かった。

 自社ブランドを立ち上げた経緯は、編集部原稿をお読みいただくとして、その物づくりには、大学のスーパーコンピューターを活用し、エンクロージャーからネットワークの設計、さらにはユニットのレスポンスの測定データの解析まで行なうなど、彼の信念が貫かれている。

画像: Darc 200のトゥイーター。基本はセラミック振動板だが、購入時にオーダーすればダイヤモンド振動板に交換も可能

Darc 200のトゥイーター。基本はセラミック振動板だが、購入時にオーダーすればダイヤモンド振動板に交換も可能

 現在4ラインナップ、22モデルをラインナップしているが、すべての製品のネットワークには60dB/oct.という急峻なスロープ特性を取り入れているところがもっとも大きな特徴だろう。一般的にこうしたスロープを作るにはエレクトロニクスの力が必要になるが、ガウダー・スピーカーはすべて、コイルとコンデンサーと抵抗だけで賄っていることにも注目したい。

 さらにスピーカーユニットのインパルス応答を重視し、ユニット間の位相特性もネットワークで調整するという、とてつもなく手間暇のかかる設計を行なっている。エンクロージャーに関してはラインナップによって素材は異なるが、いずれも共振を抑えて鳴きを無くし、剛性感を高める工夫のなされた強靭なボディに仕上げられている。

 それではここから、今回日本に持ち込まれた製品の印象を記しておこう。

 最初に同社のエントリークラス、カペラ・シリーズから「Capello 100」を聴いてみた。エントリークラスと言ってもペアで400万円というプライスであることを考えると、ガウダーはハイエンドモデルに特化したブランドといっていい。そうした意味でも実にユニークな存在と言えるだろう。

 Capello100は、躍動感のあるサウンドを聴かせる。少し輪郭が立ち気味なところもあるが、若々しく溌溂とした感じがとても心地よい。ヴォーカル曲では声のニュアンスが豊かなことも嬉しい。バックのコーラスとの距離感もよく出るし、何より感激したのは、目の前からスピーカーの存在が消えたことだ。今風のわかりやすい音づくりと言えなくもないが、この音なら多くのユーザーに抵抗感なく受け入れてもらえると思った。

画像: Darc 200の端子部。スピーカーターミナルの上側にあるショートピンの位置によってトゥイーターやウーファーのレベルを微調整できる。この仕組みはベルリーナやカペラシリーズも同様とのこと

Darc 200の端子部。スピーカーターミナルの上側にあるショートピンの位置によってトゥイーターやウーファーのレベルを微調整できる。この仕組みはベルリーナやカペラシリーズも同様とのこと

 次にベルリーナシリーズの「RC7」を聴いた。このスピーカーは切れ味がよく、高域に向かって伸びやかさを持ったサウンドを聴かせる。音場の再現力にも優れているが、僕がいいなと思ったのは、気取らない表情を持っていることだった。一般的に、ハイエンドのスピーカーはどこか個性を強調する傾向があるが、RC7にはそうしたいやらしさがない。

 ヴォーカルはより細やかなニュアンスを描き出すし、バックで流れるピアノの音色も力強さを感じさせながら、無理をしていないところがいい。アンプにはドイツ、オクターブの「HP300SE」と「RE320」を組み合わせたが、ガウダーさんが「オクターブの本社と我が社は同じ地域で、20kmしか離れていないので、よく交流しています」と話すように、音づくりの点でも相性がいいのかもしれない。

 最後に同ブランドのトップを飾るダークシリーズから「Darc200」を聴いた。一聴してわかるのは音に透明感があることだ。クリアネスが高く、ベースラインも実にゆったりとしているが、ここでも気取った感じをひけらかさない点には好感が持てる。スピード感もあるしダイレクトな表現力も持ち合わせている。クラシックの楽曲ではスケール感もある。

画像: “スピーカーは音楽を再生するマシンです” 厳密な計測とシミュレーションで創り出されたドイツ、ガウダー・アコースティック製スピーカーの音を体験。日本での発売は実現するか?

 その一方で、もう少しこのスピーカーに見合ったアンプを宛がいたいという気持ちにさせられた。同じオクターブでもさらなる上位機種とカップリングさせたら、もっと活き活きとしたサウンドを再現してくれる、そんな気配が伝わってくる。

 試聴前にガウダーさんからスピーカーのアウトラインに関する説明を受けた時には、60dB/oct.のクロスオーバーという独自の理論に少々戸惑ったものの、音を聴いてこうしたアプローチもありだということがよくわかった。

 気になる読者はぜひともガウダー・アコースティックのスピーカーの音を聴いてほしい。日本での輸入代理店が決まっていない現段階では、この記事を通してイメージを膨らませていただくしかないが、それだけに早く試聴できる日が来ることを楽しみに待ちたいと思う。

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